第8話


「な、 何者だ貴様! ? 」

「私はバルキス騎士団少佐のエインと言います♪ ベリスタ帝国軍の指揮官さん、 悪いんだけど大人しく一緒に来てくれないかな? 」


困惑する指揮官の男にエインは微笑みながら言った。

兵士達は武器をエインに向け、 取り囲む。

するとエインは鞘に納められている剣の柄に手を置く。

次の瞬間、 エインから凄まじい殺気が溢れ出し、 兵士達を気絶させてしまった。

それを見たベリスタ帝国軍の指揮官は恐怖する。


「馬鹿な……ストラディーヌはどうした! 」

「あのおじさん? 仕方なくて両手を斬り落としちゃったけど……」

「なっ……」


するとエインは再び微笑みながらベリスタ帝国軍の指揮官に言う。


「安心して……私は意味の無い殺し合いはあまり好きじゃないの……大人しく来てくれれば何もしないから……ね? 」

「だ……誰がリ・エルデ王国の騎士なんかに……! 」


そう言うとベリスタ帝国軍の指揮官は剣を抜き、 エインに襲い掛かってきた。

しかし当然エインに敵うはずもなく、 ベリスタ帝国軍の指揮官はあっけなく気絶させられてしまった。

エインは気絶した指揮官を担ぎ上げ、 テントを出る。

外ではただ茫然と立ち尽くすベリスタ帝国軍の兵士達がいた。

兵士達はエインを見ても何をするわけでもなく、 ただ道を開けた。


「……指揮官さんは貰っていくね……そうそう、 降伏するのであれば直ちにここを立ち去りなさい……これでいいのかな? 」


エインは兵士達にそう告げると指揮官を担いで砦を出ようとする。

するとストラディーヌがエインを止める。


「待ってくれ……リ・エルデ王国の騎士よ……」

「ん? 何? 」

「其方は何故そこまで強い……何が其方をそこまで強くしたんだ……教えてくれ……」

「……ただの……好奇心からかな? 」


エインはそれだけ言うと砦から立ち去った。

周りに兵士がいる中、 ストラディーヌはエインの言葉に声を上げて笑っていた。

月が昇り始めた頃……

エインはリ・エルデ王国の駐屯地へ戻って来た。

戻ったエインを見た兵士達は慌てた様子で駆け寄る。


「少佐殿! ご無事で! 」

「一体どこへ行っていらっしゃったのですか? 」


すると兵士達はエインに担がれているベリスタ帝国軍の指揮官を見る。


「まさか……この者はベリスタ帝国軍の……! 」

「うん、 まぁちょっと色々あってね……早めに決着を付けたくて」


平然とした様子のエインに兵士達は驚愕する。


「と……とりあえず指揮官にご報告を! 」


そしてエインはベリスタ帝国軍の指揮官と共にジュートが待つテントへ向かった。

…………


「まさか……我々が数か月に渡っても成し遂げられなかった事をたった一日でやってのけるとは……それもたった一人で……」


エインが捕まえたベリスタ帝国軍の指揮官を見たジュートは驚きを隠せなかった。

するとそこに砦の様子を見ていた兵士が、 敵軍が撤退していると報告をしに来た。


「……我々の勝利か……フッ……まさかここまでの者とは……」


ジュートはそう呟くとエインの方を向き。


「エイン少佐よ、 此度の活躍に我々は感謝してもし切れないだろう。 今夜はゆっくりしていってほしい」

「えぇいいよぉ! 私はただ早く仕事を終わらせたかっただけだから……用事が終わったなら帰るつもりだったし」


……早くアミィラ村に帰りたい……

エインは早く帰りたい一心で駐屯地に泊まる事を断ろうとする。

するとジュートは不敵な笑みを浮かべ


「美味い食い物も沢山あるぞ……思わぬ出来事で国からの支給品が余ってしまったからな」


そう言う。


「……美味しい……食べ物……」


エインはよだれを垂らす。

結果、 エインは食べ物に釣られ駐屯地で一晩明かすことにした。

リ・エルデ王国の兵士達は皆焚火を囲いながら勝利の宴を開いていた。

エインもその中に混じり、 支給品の食料を食べていた。


「ん~~これ美味しい! 何て言う食べ物なの? 」

「それはクルトマソースのパスタです。 我が国で採れた新鮮なクルトマの実をソースにしてかけたものです」

「ふ~ん……」


……パスタ……ねぇ……初めて食べる食べ物だけど……もちもちの長細いのに香ばしいソースがかかってて凄く美味しい!

そんな事を思いながらエインはふとパスタを入れている入れ物に目が行く。


「……ねぇ、 この入れ物ってなんなの? 」


エインは再び近くにいた兵士に聞く。

兵士は少し驚いた様子で説明する。


「それは缶という物です。 食料や水などを長期間保存できる大変便利な物です……少佐殿、 ご存じ無いのですか? 」

「あぁうん……今まで何も知らずに生きてきたものだから……教えてくれてありがと」


……缶かぁ……金属で出来た筒みたいな入れ物ねぇ……ナイフや特別な道具が無いと開けられない仕組みになってるけど……確かに密閉されてるから保存にはよさそうだなぁ……今度作ってみようかなぁ

エインは初めて見る様々な道具や食べ物に興味をそそられた。

そんな事をしながらエイン達は荒野のど真ん中で一夜を過ごした。

翌朝、 エインは朝早くに起床し、 馬車に乗ってステイロンへと戻った。

バルキスの部屋にて……


「まさか一晩で戻ってくるとは……末恐ろしい者だ」


バルキスは笑みを浮かべながら言う。


「全く……帰りの馬車で酔っちゃったよ……うぅ……」

「ははは! 相変わらずのようで何より! 」

「はぁ……もういいかな? 仕事も終わったし、 アミィラ村に戻りたいんだけど……」


……昨日は食べ物に釣られてつい泊り込んじゃったけど……村の皆が魔物に襲われてないかちょっと心配だ……

一刻も早くアミィラ村に帰りたがるエインにバルキスは大笑いする。


「はっはっは! 構わんぞ! そう言うと思って既に馬車は手配してある、 褒賞は後々渡すとしよう」

「え……本当にいいの? 本当に終わり? 」

「案ずるな……陛下は其方が執務をこなせるとは考えていない、 其方に任せる仕事はもう無い……何かあれば連絡しよう」


……またなんか馬鹿にされたような……まぁいいか……とにかく仕事が無いならいいや

そしてエインは一通り仕事が終わり、 村へと帰る事にした。


「……」


エインが部屋を去った後、 バルキスは窓の外を眺めながら何か思う様子を見せる。

……エイン殿の父上について書庫で片っ端から調べてみたのだか……やはり分からぬか……

バルキスはエインがいない一晩の間、 エインの父親について手掛かりになりそうな情報を求めて王城の図書館にある文献を隅から隅まで調べ回っていたのだ。

しかし、 いくら調べてもエインの父親に繋がりそうな情報は見つからなかった。

……エイン殿をあれ程までの強さに育て上げ……失われたはずの古代の産物を扱う者……ただの旅人と言うには無理があり過ぎる……そんな人物がこの世界に存在するとなれば、 知らぬ者はいないはずなのに……なぜエイン殿以外の誰一人として……知る者がいない……?

考えた末、 バルキスが推測した一つの答え……それは……


「……やはり……『神』……もしくはそれ以上の……」


そう呟くバルキスの表情は引き攣っていた。

バルキスが手配した馬車に乗ってエインは村に戻った。

村の一同は皆何事も無かったようで、 帰って来たエインを快く出迎えた。


「エインさん! お帰りなさい! 」

「よくぞご無事で! 」

「ただいまぁ~、 全く大変だったよぉ~! 」


エインは村人達が無事の様子を見て安心する。

服装も前に着ていた服に戻っていた。

バルキスが気を利かせ用意してくれていたのだ。

エインが再会を喜んでいるとそこにガルンが駆け寄って来た。


「師匠! お戻りになったのですか! 」

「あっ、 ガルン! 私がいない間大丈夫だった? 」

「はい、 何事も……というより……少しお話ししたい事が……」

「……? 」


そしてエインはガルンと共に小屋へ戻った。

…………


「それでガルン、 話って? 」

「はい……実はここ最近、 魔物の数……というより、 動物の姿が森から消えまして……師匠が帰ってくるまでの間、 一体何が起きているのか分からなかったので警戒していたのです……」


そう、 実はエインがステイロンへ連行された数日の間でアミィラ村を囲う大森林から魔物だけでなく、 動物の数まで極端に少なくなっていたのだ。

ガルンには何が起きているのか理解が出来ず、 エインが帰ってくる間ずっと村の警護をしていたのだ。

運よく村人からは何も報告は受けておらず、 村自体は無事だった。


「ふ~む……森林から魔物が消えるならありがたい話だけど……動物まで消えるなんて……明らかに異常だね……」

「やはりそう思いますか……一体どうすれば……」


話を一通り聞いたエインはこの現象に一つ心当たりがあった。


「うん……多分それは厄災魔獣の仕業だねぇ……」

「や……厄災……魔獣? 何ですかそれは? 」


厄災魔獣、 それは世界のあらゆる異常現象を引き起こすとされる強力な魔物である。

彼らが起こす現象は様々、 地域一帯を氷河期の如く凍らせたり、 火山でない山を一瞬にして火山へと変化させ、 周囲を炎に包んだり、 大嵐を引き起こし国一つを飲み込む大洪水を引き起こしたりと、 異常な自然現象を始め、 人智を超えた現象を起こすのだ。

また、 彼らの特徴の一つとして、 作った巣の周辺地域からは魔物が一切いなくなる現象を引き起こすという。

彼らの存在は数が少ないためほとんど知られておらず、 あくまでその存在は神話上のモノであり、 昔から子供たちの躾のための迷信などにも登場する程度である。

ガルンが知らないのもそのためである。


エインは過去、 その厄災魔獣に遭遇した経験があるため、 知っていたのだ。


「まぁ厄災魔獣っていうのは要するに魔法でも普通では考えられない現象を起こす事が出来る魔物の事だよ」

「なるほど……ということはこの村も危ないのでは? 」


焦るガルンをエインは宥める。


「あぁそれはたぶん大丈夫、 厄災魔獣は一度巣を作れば中々動かないからね。 村が直接襲われる事はないと思うよ……でも動物達がいなくなっちゃうとなると食料問題がなぁ……」


村に帰ったら試したい料理が色々あったんだけど……そうはいかなくなっちゃったなぁ……

気を取り直して二人は話を続ける。


「まぁ原因は分かったとして……放っておくのはまずいのではないでしょうか……早めに討伐をした方が……」

「そう焦らない焦らない……あいつら結構賢くてねぇ……巣を探すのは結構大変なんだよぉ」

「そうなのですか? 」

「あいつら巣を隠すの上手くてさぁ、 結界張って見えなくしちゃうんだよぉ」


そう言うエインにガルンは頭をかかえる。


「しかしどうすれば、 このままでは村は飢饉に襲われますよ? 」


半ば諦めかけていたガルンにエインは不敵な笑みを浮かべながら言う。


「安心してガルン、 手はある……幸いにも、 相手はさほど強力な奴じゃないみたいだし」


そしてエインは立ち上がり、 小屋の外に出る。

外では不安な表情をしながら何か話合う村人達がいた。

村人達はエインを見ると集まり


「エインさん、 大丈夫なのでしょうか? 」

「森から動物がいなくなっては村の食料が……」


皆口々に不安の感情を顕わにする。

……うーん……話聞かれちゃってたかぁ……まぁどっちにしろ皆に話すつもりだったからいいけど……

すると不安そうにする村人にエインは明るい表情で言う。


「大丈夫だよ! この村を悩ませる問題は私に任せて! 」

「師匠……」

「さて、 早速森に行こうか! ガルン」

「は、 はい! 」


そしてエインとガルンは厄災魔獣を討伐すべく、 森の中へと向かって行った。

その頃……


「……何? 我が軍がリ・エルデ王国に敗れただと? 」


ベリスタ帝国の皇帝がいる王城にて、 皇帝は一人の兵士から軍が撤退したと報告を受けていた。

報告を聞いた皇帝はしばらく沈黙し、 考え込む。


「我が国は世界一の勢力を誇り、 軍隊は精鋭ばかりのはず……よもやリ・エルデ王国風情に敗れるなどあり得ぬ……まさか……奴らはとんでもない怪物と契約したのやもしれぬな……」

「……どう……なさいましょう? 」

「まぁ……あの鉱山を取られてしまったのは少々痛手だが……勢力に問題はないだろう……しばらく様子見と行こうか……ご苦労、 もう良い……」


すると次の瞬間、 皇帝は兵士に電撃を放ち、 塵にしてしまった。

皇帝のあまりの身勝手さと無慈悲さに周囲で見ていた兵士達は恐怖する。

そして皇帝は頬杖を着く。


「ケイニス……貴様は悉く私を不快にさせるな……」


冷静な声で言うも、 ベリスタ帝国の皇帝は怒りを顕わにしていた。

続く……

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