第23話 美女3人に囲まれて

 夕飯を食べ終えると、椎香しいかちゃんがやって来た。


「おっにいちゃーん♡♡♡」


 そしてすごく何か言いたげな含みのある愛らしい笑顔で俺を見つめてきた。

 その笑顔があまりにも分かりやすくて、ふふっとなってしまう。


「ん。絵本、読もっか。じゃーん、こそどろにゃんこの新作と、はなちゃんはおねえちゃんっていう絵本だよ」


 俺が椎香しいかちゃんに買ってきた2作の表紙を見せると、椎香しいかちゃんはまたぴょんぴょんと飛び上がりながら喜んだ。


「えっ!! こそどろにゃんこの新作!? 椎香しいか、こそどろにゃんこ大好き!! 読んで読んで、おにーちゃん!!」


 そして待ちきれないとばかりに俺の手を引きながらソファーへと誘導して俺を先に座らせた。


 相変わらずふかふかのソファにバフッと包み込まれるような感覚で身体を沈み込ませると、椎香しいかちゃんはそんな俺の膝の上へと乗ってきた。


 しかし俺の胸に背中を合わせるのではなく、俺の肩に腕を伸ばして向き合うように抱き着いてくる。


「へへー。おにーちゃん、絵本買って来てくれてありがとうっ!! 椎香しいか、すーっごい楽しみ♡」


 そして俺の瞳を見つめてそう言ったかと思えば、ちゅっと俺の頬にキスをした。

 

……今の椎香しいかちゃんの年齢だからこそ、愛らしい無邪気な行動に思えるけれど……この容姿でこの小悪魔性は、大きくなったら末恐ろしいなと思ったりもしつつ。けれどまだ小学1年生。そう思うと愛らしいの方が勝ってしまって。


 なにより、懐いてくれているというのは嬉しいもので。


「喜んでくれてよかった。じゃあ、読み始めよっか」


 椎香しいかちゃんの髪を撫でながらそう言うと、椎香しいかちゃんは『うんっ』と声を弾ませて返事をして、俺の胸に背中を合わせるように膝の上に座った。


 そして俺の腕の中に椎香しいかちゃんがすっぽりと収まる形で絵本を開くと、椎香しいかちゃんは振り返って、弾けそうなほど期待で満ちた無邪気な笑顔を見せた。


「へへっ♡ 楽しみ♡」


 その仔猫のような黒目がちな瞳を可愛いなと思いつつ、なんとなく、椎香しいかちゃんは苺花いちはさんや新凪にいなとは目元が違うんだなと気付いた。


 まぁ、椎香しいかちゃんはまだ子供だというのもあるけれど、苺花いちはさんと新凪にいなの瞳が少し似ているというのもあるか。と、この時ふと思ったりもした。


 そんな時、キッチンに洗い物を下げに行っていた苺花いちはさんと新凪にいなもこちらに気付いたように話しかけてきた。


「あ!! それ、もしかしてこそどろにゃんこの新作!?」


「待って。私も読みたい!!」


 そして二人してうきうきした足取りでソファーに寄ってくると、俺の両サイドに座った。


 膝の上には、椎香しいかちゃん。両サイドには苺花いちはさんと新凪にいな。みんな……距離近いんだけど? と思いつつ、ひとつの絵本を読むのだから仕方ない? と思ったりもしつつ。

 

 やっぱり俺は、苺花いちはさんが隣に座っているということにドキドキと鼓動が高鳴り出してしまう。


「えへへー。読んでもらうのもなんか新鮮でいいねっ」


 わくわくとした無垢な瞳を俺に向けた後、照れたように視線を絵本に落とす苺花いちはさんが可愛いくて、胸がキュッとなる。


「……やっぱりこの角度の修吾、一番かっこいいかも」


 それに対して、俺の顔を至近距離から見つめながらマジなトーンでそんなことを言って、たぶん無自覚に俺の腕に腕を絡めてくる新凪にいな


(う。なに? なんか、心臓が……苦しい。この苦しみは、何??)


 そんなことを思いながら、俺は美女3人に囲まれたまま、ぎこちなく絵本のページをめくっていくのだった。



「きゃーん、かわいい!!」


「あ、出た! でぶにゃん!!」


「あっはは。相変わらずのドジっ子ー!!」


 ページをめくるたび、3人は思い思いの感想を述べて絵本の世界を楽しんでいる。そんな3人の様子が愛らしくて、俺も楽しくて。包み込まれるような幸福感を感じる。


 そして読み終わった時、椎香しいかちゃんはキラキラした瞳を向けながら、無邪気なおねだりをしてきた。


「ね、ね、もう一回!!」


「そんなに気に入ってくれたの?」


「うん!! すーっごい気に入っちゃった♡」


 俺の膝の上で楽しそうに弾んで絵本の方に身を乗り出す椎香しいかちゃん。こんなに喜んでくれたのなら、買ってきたかいがあったなと、俺もまた1ページ目から読み始めるのだった。



◇◆


「あれ? 椎香しいかちゃん、眠い?」


「ん……ねむい……」


 絵本を読んでいると、椎香しいかちゃんは今日もまたこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。


 そして、ふと俺の方へと身体を向けると、そのまま抱きついて俺の肩で静かな寝息を立て始めた。なんとも甘えるのが上手いなぁと感心しながら、その重みを感じる。するとゆっくりと沈み込むようにその重みは増していき、ぷにっと柔らかな頬からは温かな体温がじんわりと伝わってくる。


 さっきまであんなに元気だったのに、もう規則的な寝息を立てながら無垢な寝顔を見せる椎香しいかちゃんの髪を、俺はそっと撫でた。


「修吾君、今日も……ごめんね?」


「いえいえ。部屋……連れていきましょっか」


 申し訳なさそうな上目遣いを俺に寄せる苺花いちはさんに、俺は穏やかな気持ちで笑顔を向けた。すると、膝をパンッと叩きながら新凪にいながすっと立ち上がった。


「じゃーあ、忘れてた洗い物は、私が片付けちゃおっかなーっ!」


 こんな時、清々しいくらいに率先して雑用を引き受けてくれるところがなんとも新凪にいなの人柄の良さだよなぁと思う。


「悪いな、新凪にいな


「ごめんね、新凪にいな


 俺と苺花いちはさんは新凪にいなに声をかけると、新凪にいなも『任せてー』と指をピースにしながらニカッと笑ってみせた。


 そして笑顔で両手を振る新凪にいなに見送られながら、椎香しいかちゃんを抱えた俺は苺花いちはさんと共に2階へと向かうのだった。

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