第18話 次女の拗らせた理由
無事に一日が終わり放課後になった。俺は教科書をカバンに詰めながら今日の体育は楽しかったなと、ふと思い出す。
今までならあまり女子の前で活躍したくなくて控えめにしていた俺だけど、今日は男子のみのバスケで、しかも流星の立ち回りやパス回しがうまいから、楽しくてつい夢中になってしまった。
久しぶりに感じるスポーツの後の心地よい疲労と爽快感。後は、迷わず家に帰れるかどうか……。
少し不安になった時、
「ねぇ、しゅう君、一緒に帰る?」
「え? ……あー。うん。頼む」
一緒に帰ったらまた誰かに冷やかされるかなと思ったけど、別にやましいこともないのだし堂々としていればいいかと開き直ったりもした。
「じゃあさ、ちょっと校門のとこで待っててくれる? 私、ちょっと用事があってさ」
「え? ああ。わかった」
その時の
「あれー? もしかして校門まで行くのも不安だったりする!? やだなぁ、もう。みんなの流れに乗って行ったら辿り着くから大丈夫だってっ」
「いってぇー。おま、叩き過ぎ」
「あははっ。ごめんごめん」
「じゃあ、また後でな」
「うん!!」
そうして俺は教室を出て校門へと向かおうとしたのだけど、体育の時にタオルを忘れたことに気付いて体育館へと向かった。
そしたら体育館の裏の方から誰かの声が聞こえてきてしまった。
「水無瀬さん、好きです。僕と、付き合ってくださいっ!!」
突然の告白。その内容に思わず足が止まる。
(……え? 水無瀬って……もしかして??)
疑念をよぎらせていると、すぐに女性の声が聞えた。
「あー。えっと、ごめんね、私、ユーゴにしか興味ないから……」
戸惑いながら答える声は紛れもなく
「ユーゴって、今朝一緒に登校していた人?」
「え!? 違う違う違う!! あれは私のおにーちゃん!! ユーゴってのは、私の推しキャラの名前。……私、3次元の男の人には興味ないんだ。だから……ごめんね」
ここまで聞いて、立ち聞きは良くないとその場から離れた。
けれど、やっぱり
そりゃそうだよな。人目を引くほどの美人だし、明るいし、話しやすいし。最初はなんだこいつって思ったけど、一緒に居たらよく気が利くいい子だなと思う。
俺も前の学校の時よく告白されてたけど、それは俺の見た目とそこから美化された妄想のせいだった。
そう思うと、なんだか
けれど
考え事をしながら体育館に入ろうとしたけれど、鍵がかかっていたので引き返した。するとばったりと
「あれ? しゅう君。どしたの? こんなところで……」
「あ、体育の時にタオル忘れたな―と思って。でも、鍵かかってた」
「あははっ。そりゃそうだよー。体育の時に忘れたならもう忘れ物として誰かが拾ってるんじゃない? 見に行く? 忘れ物置き場」
そしたら通りかかった人の視線を感じて足が止まった。
「いや、明日でいいや。それよりさ? 俺といたら噂されて迷惑じゃない? 今朝のこともあるしさ」
さっき聞いてしまったこともあって気になってしまった。
「……どしたの、今更。もしかして……聞こえちゃってた? さっきの話」
「あ……ごめん。たまたま、聞こえてしまって」
「ありゃー。まぁ、仕方ないか。聞えちゃったなら。最近はあんまりなかったんだけどねー、呼び出されたりするの。……で、むしろしゅう君は? 私といたら噂されて迷惑?」
けれど
「いや、むしろ俺は
かといって、
「ふふー助かってるならよかった。ちょっとね、お節介かな? って気になってたから。ね、帰りながら話そっ」
「ああ」
「ニーナ、お疲れー!」
「あ、
「あれ? 珍しい。ニーナ、今からデート?」
「何言ってんの。お兄ちゃんがすぐ迷子になるから連れて帰るだけだよ」
「そかそか」
冗談ぽい会話をして笑顔で去って行く。
けれど、さっきの子は
「なぁ?
気になってつい、不躾に聞いてしまった。
「え? 欲しくないからだよ? だって、めんどくさいじゃん」
そしたら
「めんどくさい?」
「うん。だって女子からは私が先に○○君の事好きだったのにとか嫉妬されるし、男子も男子で気に入られるために優しくしてるだけだったりさ。人間関係もこじれちゃうし、そーゆーのがめんどくさくなっちゃって」
聞けば
なのに肝心の彼氏になった人も
そんな時に出会ったのが、
以来、告白されるたびに『ユーゴにしか興味ない』と断るようにしたら、告白されることも変な嫉妬をされることもなくなって平和。今日はたまたまそれを知らなかった人に告白された、とのことだった。
つまり……
誰だって告白を受けることも、誰かと恋愛することも自由であるはずなのに、モテるがゆえに拗らせてるな。俺は自分の事を棚に上げつつ、そう思った。
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