かくて火星はヨミにまつろい、星霊たちの赤き地に満ち

フェノメノロジカル・エンジニアリング（２）

　そもそもフェアリーステップをテロから守る事に対して、メイジは積極的な意味を見出せない。親しい人間もおらず、ただ生かされる自分にとって、人間の街に対する興味が薄い。自分には関係の無いことだ。

　とはいえフェアリーステップにはメイジの身内、スメラ達が居る。

　他の事ははどうでもいいが、仲間を救わなければいけないとは感じる。

　オーディンやサガ、ブレッツやゴーダなど。

　すべてのスメラはメイジにとって失うには惜しい仲間だ。

　しかしスメラたちはフェアリーステップのゲートウェイを通過して外に出ることができない。

　テレプレゼンスやレイヤードリアリティ上でのアバターウォークによってどこか街の外に存在するように振る舞うことは簡単なのだが、ミスマルの力で高度に分散処理されたイザナミ上で動作することが動作条件に組み込まれているため、メイジ自身をはじめとするスメラたちはイザナミ外界に本体を移した上での動作が困難なのである。

　困難だが、メイジは仲間たちや自分自身を失うのは真っ平（まっぴら）だった。

　だから『そこ』は『なんとか』しなくてはならない。

　『そこ』を『なんとか』、つまり『自分自身がイザナミ外界で存在し続ける方法』を『開発できれば』、ついでに仲間を外界に連れ出すことも可能だ。

　メイジは課題として外界での生存を検討し始めた。

　リストラクテッド・ペルソナのようなアーキテクチャが野良で生きるとしたら、問題点は大きく分けて二つ。

　保存（ストレージング）と、処理（プロセッシング）だ。

　まず処理（プロセッシング）。

　リストラクテッドペルソナたちが動作するだけの演算量を単体のプロセッサから捻出するのは難しい。もっとも、もともとの構造がフラグメント化された判断の集合という構造なのだから、それぞれの判断フラグメントを個別に演算し、その統合を後から行えば単体からでも捻出できなくはない。

　全体としての動作速度は従来のおよそ１／（フラグメント総数＋部分集合総数）まで低下することになるが、プロセッシングの速度は動作しているペルソナ自身は自身の異変として直接感知できない事だ。

　もちろん、外界との接触が時間的に細切れになるので結果として間接的に異常には気づくことになるだろう。しかし気づいたとしても、インプット／アウトプットのやり方を調整すれば外界との接触そのものをすることは可能なはずだ。