観察者(3)
「ありゃ。期待はずれだった? レイヤードじゃない普通のVRゲームだったらオブジェクト突き抜けをして想定外の場所に行くと、なにもなかったりとか誤判定が起きたりとかで裏技を使える場合もあるかもしれないけど、フェアリーステップの EnScapeでは抜けた先にはライフの世界があるだけで、特に誤判定はないんじゃないかな? そもそも、EnScapeを切れば裏側も見えるんだし」
「街中ではEnScapeを切っちゃいけないんだよ!」
「そうらしいね。でも、チートをするような悪い人はルールを守らないこともあるからね」
このお兄さんは話のわかる良い人だから、警察とかそういう怖いことには詳しくないのかもしれないと思って、マイは教えてあげることにした。
「悪い人は警察に捕まるんだよ?」
「警察に! それは怖いなぁ……。悪いことをしないように気をつけないといけないね」
やっぱり知らなかった! 教えてあげて良かったと、マイは安心した。
それから少しのあいだアケビを使ったオブジェクト干渉の練習をしてから、マイは帰る時間になったからと言ってパジャッソに別れを告げた。
するとパジャッソは「バイバイ」と言ってEnScapeの裏側にあったトンネルの方に帰っていく。
そっちに何があるのかと聞いたら下水道だと言っていた。
危ないから子供は入っちゃいけないとも。
別れ際、アケビのcpSが壊れているから、お母さんに言って修理してもらうよう言われた。
修理したらデビルアケビがなくなるのではないかと聞いたら、それはないとも。「電車の駅でパンフレットを配ってる棚のカゴみたいな出っ張ってるところを見つけて、そこに引っ掛けてアケビを落としたら首が切れちゃったって言えばいいよ」と教えてくれた。
帰り道、アケビのcpSシグナルは確かになくなっていた。
cpS のウェイガイドから外れて寄り道をしたことをお母さんには怒られたが、パジャッソに言われたとおりに説明したら、お店に持ち込んでアケビのcpSはすぐに直してもらえた。
数日後、同じ場所に行ってトンネルに少し入ってみたら、鉄格子がはまっていてマイが通れるだけの隙間は無い。
パジャッソも居なかった。
* * *
幼い少女マイが、不思議な青年に出会ったこと。
誰にも言えず、いつしか忘れてしまう出来事である。
この後の大きな出来事のきっかけになる出来事ではあったが、誰にも知られず、マイの記憶と共に消えてしまう話のはずであった。
しかしそれを『メイジ』が見ていた。
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