メリサ・アイヴァンの日常

神通百力

第一話 誕生

 炎を纏った壁が特徴的な民家に赤毛の女――メリサ・アイヴァンは一人で住んでいた。

 気持ち良さげにスヤスヤと眠るメリサの赤毛の髪が勢いよく燃え上がる。炎を纏った赤毛の髪は意思を持っているかのように蠢き、メリサの頬に往復ビンタを食らわした。

「いたっ……おはよう」

 メリサは自分の髪の毛を編んで作ったベッドから上体を起こし、まだ炎を纏ったままの赤毛の髪に挨拶した。赤毛の髪は先っぽを動かして頷き、瞬く間に炎は消え失せた。

 メリサはベッドから降りると、壁際に設置した木製の棚からガラスの瓶を手に取り、小さな種を取り出した。ガラスの瓶を元の位置に戻しながら、片手で種に術式を施した。どんな効果を発揮するのかはメリサにも分からない。

 メリサはワクワクしながら、左目の眼球を抉り取ると、床に置いた。赤い瞳が美しい眼球に、種を植え付けると、メリサは水をあげた。すると、眼球から瞬く間に木が生えて果実が成った。その果実はメリサに瓜二つだった。まるで果実の表面にメリサの顔が刻み込まれているかのようだった。

 メリサは果実を手に取ると、ジッと見つめる。メリサに瓜二つの果実は、口角をあげて、甲高い笑い声をあげた。

「むっ、息が臭い」 

 メリサは鼻を抓むと、顔をしかめながらも、果実を食べた。しばらくは胃の中から果実の甲高い笑い声が聞こえていたが、不意にピタリと止んだ。その直後、メリサのお腹が一気に膨れ上がり、一瞬で凹んだ。

「オエーッ!」

 メリサは体をくの字に曲げながら、赤ん坊を吐き出した。赤い瞳に、うっすらと生えた赤毛。メリサの面影を感じさせる赤ん坊だった。

「まあ、なんて可愛い赤ちゃんなのかしら。私に似ているから、余計に可愛く感じるわね」

 メリサはしゃがみ込むと、赤ん坊の頭を優しく撫でた。それと同時に、自分の赤毛を勢いよく燃え上がらせる。炎で眼球を作り出すと、メリサは左の眼窩に押し込んだ。眼球は熱を帯びて熱かった。

「名前が必要よね。あなたは今日からフレイ・アイヴァンよ」

 メリサは生まれたばかりの赤ん坊に、フレイ・アイヴァンと名付けた。娘ができたことが嬉しくて、メリサはニヤニヤが止まらなかった。赤毛も歓迎するかのように、炎でハートマークを作った。

 赤ん坊――フレイは甲高い泣き声をあげ、メリサに抱きついた。

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