第13話 アメリアのキスと涙

 “窓花まどはな”を埋め戻し森から帰って来たハンスをアメリアが待ち構えていた。


「どうなされた?」


「姫様から『“添い寝”をさせていただきなさい』と命を受けました。」


「姫はまだそのような事をおっしゃっておられるか?」


「どうか拒まないで下さいませ!姫様はハンス様に怪我を負わせてしまった事で心を痛めてらっしゃいます。そして私におっしゃいました。『あなたのキスならあの傷を癒す事ができる』と。寝所では決してハンス様を襲ったりはいたしませんが、この能力はみだりに表沙汰にできないのです」


 その言葉はハンスの脳裏にある古文書の一節を思い出させた。


「そなたは……ひょっとしていにしえのチャックマ王族ゆかりの者なのか?」


 アメリアは少し悪戯っぽく唇に人差し指を当てた。


「そこから先は“寝物語”として」



 ◇◇◇◇◇◇


「チャクマの女と肌を合わすなど穢らわしいとお思いでしょうが、どうかご容赦下さい。

 こうして差し上げるキスが一番の薬となります」


「アメリアさん!私はただの従士です。あなたと姫様の間にどの様な成り行きがあったかは知る由もありませんが、私の方があなたに穢らわしいと思われる立場です」


 アメリアは自らのの上にハンスの手を導き傷口にを押し当てる。

「その様な事!露ほども思った事はございませぬ!! 初めてお会いした時から、亡くなった夫を思い出させるその武骨な優しさをお慕い申し上げておりました。だから私の心と体をすべて傾けてあなたを癒します。我が夫に出来なかった事を……」


「ご主人の死に目に会えなかったのですね」


「ええ、もし傍におりましたら私の命に代えて救い出しましたのに!!」


 エリザベートの太刀跡にハラハラと落ちるアメリアの涙は輝く虹となり触れたキスと同様に傷を癒していく」


「何とも心痛い事だ!……私にもあなたを癒す事ができますか?」


 アメリアは頷いてそっと目を閉じた。

 ハンスはその頬を両手に包み、二人は熱いキスを交わした。




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