第6話 武者の手と農夫の手

「野良着のままではさすがに申し訳が立たぬから着替えてまいる。侍女に部屋を用意させたので、そなたもくつろいでくれ!そうそう、湯あみをするが良かろう!侍女のアメリアは未亡人だが気立ても良い。望めばくれるぞ!」

 そう言い終えてエリザベートは自室に下がり、ハンスはアメリアからの“申し出”は丁重に断り、用意された部屋で衣服を整えた。


 その後、少し頬を上気させたアメリアの案内でハンスがディナーのテーブルに着くと、程なくエリザベートがやって来た。


「そなたがアメリアと“ねんごろ”にならなかったので、私もになってしまったよ」


 そう言ってカラカラ笑うエリザベートのはドレスでは無く狩装束で……まさに“男装の麗人”と言った感じだ。


「私は無粋者ゆえ、姫様のお召替えの時間も読めぬ男でございます。平にお許しを!」


「ん?! この恰好の事を申しておるなら気にするな! 私の手は“農夫の手”! ドレスに袖を通すことなど無い!しかし貴殿の“武者の手”にはアメリアは大そう心惹かれた様だ! どうか今宵の夜伽の相手として所望してやってはくれまいか! 私とて女子おなごの端くれゆえ、アメリアの気持ちが分かぬではない。何なら伏して頼んでも良いぞ!」


 その言葉にハンスはシャツの襟を正してみせる。


「恐れながら私は姫様をお護りする為に遣わされた者。例えお戯れのお言葉であろうとお聞き届けする訳には参りませぬ」


「護る相手が“農夫の手”であってもか?」


 その問いにハンスはエリザベートを真っ直ぐに見つめて答えた。


「もちろんでございます。私はその“農夫の手”の持ち主を御守りする為に、この命を賭します」







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