第158話『俺、餌』


 


──ねぇリア?作戦……俺、やらなきゃダメ?


 


そんな俺の心の叫びは、当然ながら空しくスルーされる。


なぜなら──現在進行形で実行中だからだ。


 


作戦名:

潤を餌に!大物釣っちゃうぞ〜作戦⭐︎


 


──命名:ユズハ。


誰が許可したんだあのノリ。


 


そして今俺は、その“釣り餌”として、オシャレなカフェのテラス席に座らされている。


目の前には──


パフェ。

パフェ。

パフェ。

……パフェ。


 


「いや、リアさん? そのパフェ……何個目?」


俺はテーブルにずらりと並ぶグラスを見て、思わず尋ねた。


 


顔色一つ変えず、リアは言った。


「……愚問ですね?」


 


(あ、来た。リアの“論破モード”だ)


 


「頭脳労働には糖分が不可欠。むしろ脳のエネルギー効率を考えれば、パフェは極めて合理的な選択です。」


 


「じゃあ……その、全部で何個目……?」


 


「本日だけで七個目ですね。あと三つは追加で頼む予定です。」


 


「……もうトリプルスコアやん」


何のスコアかは知らないけど、たぶん何かに勝ってる。


 


「てかさ、そんな食っててよく太らないよな?」


 


「だから言ってるでしょうに。“全て”エネルギーとして“無駄なく”使われていると。」


 


そう言いながら、リアは新たなパフェにスプーンを入れた。


その動きに、無駄は一切ない。


まるで機械仕掛けのような、精密な一匙──


いや、だからって七個目ってどういう理屈だよ!?


 


「というか、そんなけ食べて太らないの凄いな……まぁ胸も……ち……」


思わず呟いた俺の言葉に、リアの手が一瞬だけ止まる。


 


目だけが、俺を見る。


冷静で、鋭く、そして──


 


ちょっとだけ、ムッとしてる。


 


「……今、失礼な想像をしませんでしたか?」


 


「いえいえいえいえ!?まさかぁ〜!」


慌てて手を振る。


「むしろ敬意しか抱いておりません! 聡明で凛としててお美しいなぁって!」


 


「……ふむ。」


リアはしばらく沈黙したあと、再びパフェにスプーンを差し入れた。


そして──何事もなかったかのように、食べ始める。


 


──良かった。命は繋がった。


 


とはいえ、忘れちゃいけない。


これは──ただのデートでは、断じてない。


 


そう、今日も「敵」を釣るための、超・命がけ任務なのである。


 


襲撃者は、おそらく今日来る。


なぜなら──この任務、今日で6日目。


 


初日はノアが立候補したが、予想通り他のヒロインズとド修羅場化。


その翌日にはユズハが名乗りを上げ──

口説きモード全開で即終了。


その後もエンリ、ミリー、カエデと続き、なんとか日替わりデート(任務)をこなしてきた。


──そして今日はリア。


 


しかも、ただの囮では終わらない。


 


“影から援護に入ってる”のが──


サイレントアサシンことイヨと、ポイズンフェアリー。


……のはずなのだが。


 


「いや、どこだよお前ら……」


 


一応、この二人は反省の末に任務協力を申し出てきた。


暗殺チームの名に恥じぬ働きをする──と、鼻息荒く。


 


ただ、問題が一つ。


 


──全然気配がわからない。


 


いや、流石は伝説の殺し屋。


本気でやってる時の潜伏能力が、ガチで洒落にならない。


物理的に“存在を消してる”レベルで気配が無い。


 


(どこから見てるのか……どこにいるのか……)


下手したら、今リアのパフェの中に隠れてても気づかない自信がある。


 


社内では、社員組を護衛に出す案も出た。


だが──リア曰く「目立ちすぎて逆に釣れません」


というわけで──


仕方なく、スキルを常時発動中である。


 


【反射強化(Lv4)】

【格闘(Lv8)】


 


──常時ON。


そりゃ疲れるわ。


しかも全方向に集中力割いて、飯もろくに喉を通らない。


なのにリアは──


 


「このパフェ、上に乗ってるチョコレートをこう割ると、中のアイスの層がですね……」


 


滔々と語っている。


しかも目が本気。


 


(こっちは今、全方向警戒レーダー張ってるんですけどぉぉぉぉ!?)


 


そして──


その“隙”を突くように、何かが視界の端を通った気がした。


ほんの一瞬、風が動いたような──


 


「……!」


俺は反射的に立ち上がり、背後へ振り返る。


……が、誰もいない。


 


リアはチラリとだけ俺を見る。


「反応速度、良好ですね。」


 


「今の、何か通ったよな?」


「私には、特に何も。」


「見てたよな!?俺の背後!?」


「……ふふっ。」


 


どこか楽しそうに微笑むリア。


 


──この状況で微笑むな!!


俺の心臓が持たないんだよ!!


結局、今日の“デート任務”は──

無事……なのかどうかはさておき、終了した。


 


「とりあえず……現れませんでしたね」


リアが言葉を落とすように呟く。


パフェ十杯を平らげた人間とは思えぬ静けさで。


 


「……まぁ、部下が四人もやられてんだし、さすがに慎重になってんじゃないの?」


俺のほうも、カフェの椅子に身体を預けながらぼやいた。


背中に残る謎のプレッシャーだけが、“油断”を許してくれない。


 


「無くはないですが──少し楽観的ですね」


リアの口調はあくまで冷静。


それが逆に、不安を煽ってくる。


 


「ずっと命狙われてるんだぞ? もうこっちはメンタルHPゼロだっつーの……」


思わず頭を掻いた。


「とりあえず、家戻って着替え取りたいし……シャワーも浴びたいし……風呂も浸かりたいし……」


 


「なら、社員を一人つけましょうか?……いえ、やはり複数名。確実に。」


「いや、そこまでしなくても──」


「着けます」


リアの即答。即断。即布陣。


完全に聞く気ゼロ。


 


「……ありがと」


観念して礼を言うと、リアは軽く頷いた。


──そして数分後。


 


現れたのは、見た目からして絶対にただの一般人じゃない2人。


 


1人目は、逆立った金のモヒカンに、筋肉で服がはち切れそうな大男。


2人目は、黒スーツに黒ネクタイ、グラサン、そして口元に常時タバコ。

見るからに「元・裏社会経験あります」感満載。


 


「頼むわ、潤を」


リアが彼らに一言だけ伝えると──


モヒカンがガッと胸を張った。


「任せてくだせぇ!!カエデの姉貴から“絶対守れ”って命令されてるんで!」


 


「我々は、これでも“元傭兵部隊”です。易々とはやらせませんよ」


スーツ男も淡々と応じる。


 


──頼もしい。頼もしい……んだけど。


 


(何でうちの社員、こんな人材ばっかなんだよ!?)


いつから“警備部門”が“私設軍隊”になってたんだこの会社……!


 


そのまま、二人の護衛と共に、久しぶりに自宅へと戻る。


陽も傾き始め、通りには夕暮れが差し込んでいた。


 


玄関前で鍵を取り出しながら、俺はつぶやいた。


「いや〜……久々な感じするわ、我が家♪」


 


──その瞬間。


 


脳が反応するよりも先に、身体が動いた。


手が、勝手に跳ね上がる。


反射的に、何かを──弾いた。


 


ガキィィン!!


金属が弾ける音。

反動で指先が痺れる。


 


……が、同時に。


腹の奥に、焼けつくような激痛が走った。


 


「っぐ……ぁ……?」


 


視線を落とすと──


そこには、自分の腹“の横”に刺さった“刃”があった。


その刃を握っている“手”が見えた。


 


──自分の腹を、誰かが刺していた。


現実の情報を理解するよりも先に、膝が崩れた。




後書き




あとがき小話?


作者『たまには真面目に、活動報告に書こうと思ってたことを……包み隠さず、読たんに伝えようと思います』


潤『……どした?急に改まって。何、病み期?』


作者『いや違うの。ちゃんと、ありがとうって言いたくて。

いいね、ブクマ、リアクション──全部、ありがとうございます』


作者『……でもね?それ、してなくても全然いいんです』


潤『え?今感謝したばっかじゃ──』


作者『極端な話、作品読んでなくてもいいです。コメントだけでも、むしろウェルカム。

たぶん他の作者さんとはズレてるんだろうけど……でも、

“読たんも巻き込んで楽しみたい”ってのが、ずっと変わらない本音なんです』


潤『巻き込むって……どのレベルの話?』


作者『五話飛ばしで読もうが、最新話だけ追おうが、

過去話に今さらコメントつけようが、

「こいつ誰?」ってキャラに推し宣言しようが、

ぜ〜んぶウェルカム!!!!


どんな絡み方でも、

「楽しかった」って思ってくれたなら、もう大成功です!!』


潤『なるほどな……うん、いい話──』


作者『だから気にせず……ほら……』


潤『……?』


作者『一緒にバニー服を!!』


潤『やめろぉぉぉ!!いま真面目な流れだったよね!?!?!?』


作者『過去話にも賞味期限なんてありません。

読たんの“今話したい”が一番新鮮なんです!!』


潤『もう何も信じられねぇよ……!!』

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