第2話『俺、女優と会う』

やっちまった。

勢いでバイトを辞めたはいいけど――何をすればいいのか、まるでわからん。


 


スキル奪取。

あの後、試しにいくつかの条件を検証してみた。


 


【検証結果】

・悪事を働いた相手限定で、スキルが奪取可能

・奪った才能はスロットに保存できる

・1つだけ“保持スキル”として使用可能。切り替え自由

・奪われた相手は、才能を喪失する

・保持中スキルは【試用期間:24時間】付き

・ストックスキルは、任意でオンオフ可能


 


……いや、俺も思ったよ?

「このスキルでチート成り上がり!」って。

でも現実には、そう都合よく悪人なんて転がってねぇ。


 


第一、奪って何すんの?

喧嘩の才能奪っても、戦う相手なんていないし。

殺人の才能? いや、捕まるし。

まさか、無職で才能コレクター始めるのか?


 


――ってわけで今、公園のベンチで未来に震えている。


 


「はぁ……」

「……はぁ」


 


隣のベンチから、ため息がシンクロした。

視線を横に向けると、深く帽子をかぶったマスクの女が一人、腰掛けている。

その姿は、妙に沈んで見えた。


 


立ち上がろうとしたとき、声がかかる。


 


「……振り向かないで。そのままでいいので、相談に乗ってもらえませんか?」


 


少し高めの、でもどこか凛とした声。

声の主は女性だった。俺の中のちょっと聞いてみたくなるセンサーが反応する。


 


「友達が、ホストにハマって連絡が取れなくなったんです」

「……しかもその店、かなり悪質らしくて……。泥酔させて高額請求、最終的に音信不通になった人もいるって……」


 


声が震えていた。

明らかに、本気で心配してる。


 


「……で、その友達が通ってたのが?」


 


「CLUB 夜月星ってお店です」


 


その瞬間だった。

目の前に、またウインドウが開いた。


 


【奪取対象:白銀ノア】

・悪事:無し

・スキル:対象外(才能共有候補)

→奪取不可


 


白銀ノア。


 


俺は思わず振り返った。


 


マスクの下から、透き通るような瞳がこちらを見返していた。


 


千の顔を持つ、若手女優――白銀ノア。

テレビで見たまんまの、息を呑むような美貌だった。


 


「……ノアさん、ですよね?」


 


彼女の表情が、一瞬だけ固まる。


 


「その名前……今、聞かなかったことにしてください」

「メディアに売るつもりですか?」


 


「いや、違いますって! むしろ協力しますって! あと、できれば……飯、奢ってくれません?」


 


グゥゥ……と腹が鳴る。


 


沈黙の後、彼女はため息をついた。


 


「……そっちの人かと思いました。ヤクザとか、解決屋とか」


 


「いや、違うんですけど……まあ、近いっちゃ近いかも?」


 


苦しい言い訳をしながら、俺は威圧(Lv4)をONにする。

その目が、少しだけ鋭くなった。


 


「……わかりました。もし協力してくれるなら……その代わり、ノアであることは内緒でお願いします」


 


こうして――

俺は、白銀ノアと最初の契約を交わした。


 


* * *


 


「それで、その店のナンバー2にハマってるって噂が?」


 


ファミレスでナポリタンをすすりながら尋ねる俺。

2日ぶりの炭水化物、うまい。


 


「ええ……カズヤという男らしいです」

「どうか彼に、これ以上彼女に関わるなって伝えて欲しいんです。できれば……脅す感じで」


 


「おう、任せろ」


 


一瞬で返すと、ノアが目を細めた。


 


「あなた……さっきから、見た目とノリがちぐはぐですね」


 


「でも、助けるんでしょ?」


 


「……ええ、信じてますから」


 


そう言って彼女は、連絡先を俺のスマホに送ってくる。


 


 


よし。スキル奪取の使い道が――ようやく見えた。


 


今の俺は、ただのフリーターじゃない。

悪人から才能を奪い、支配し、救う力を持ってる。


 


目的は……正義? 女の子を救いたい?

違うな。


 


俺はこの能力で、

この現代社会を――ぶっ壊してやる。


 


目の前のクズホストを皮切りに。


 


次回、「潜入、夜月星」――開幕だ。




後書き






才能を奪えるとしたら、あなたはどうしますか?


力が欲しいとき。

見返したい誰かがいるとき。

ただ、生きるために。


 


この物語は、才能を奪いながら、“どう生きるか”を選び直す男の話です。

そして、出会った人々との関係が、彼の選択に少しずつ影響を与えていきます。


 


強くなるだけが正解じゃない。

正義だけが、正しいわけじゃない。

でも、何もしなければ、何も変わらない。


 

あなたなら、どんな才能を奪いますか?

それを、どう使いますか?


少しでもそんな想像をしながら、読んでもらえたら嬉しいです。

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