Flowered.

@Suima3

朽ち果ての花

第1話 

世間は入学などで色々とおめでたくも、忙しいムードで、色はピンクや緑が目立ち始めた。そんな春のある日の夜明け。

大きな病院で産声が響いた。

悪いところなど、どこにも無く文字通り元気に生まれてきた女の子は、親から『律花』と名付けられた。律花の親にとって第一子と云うこともあり、大変可愛がって友達、そして親もおめでとうと、何回も言ってくれた。

そんな律花に夢中な母、皐月奈々と父、皐月春樹はそれはもう律花を可愛がっていた。そんな子育ては苦労の連続だったが、楽しく体験したことのない貴重な経験は、時間の流れを早くした。

気が付けば一歳。二歳と律花は成長していき、幼稚園に入学することが決まったある日。

その日は幼稚園まで行こうと律花を奈々は外に連れ出した。

「りっちゃん、早いー!」

「おかーさんおそいー!」

無邪気に外を楽しんでいる律花は走って幼稚園を目指す。そんな走りを微笑ましく見る菜々だが、律花を見るとつい数秒前とは様子が違っていた。

「りっちゃんどうしたの?」

住宅街の中の道はお世辞でも広いとは言えたものではなく、車が一台通れば歩行者も最大限の注意をしなければならないほどだ。幸いにも平日の昼間と云うこともあって、車の通りは少ないがそれでもゼロと云う訳ではない。そんな道で立ち止まると云う行為がどれだけ危険か。それもまだ幼稚園児の小さい少女が立ち止まっていたら、車が気付くのだろうか。

そんな危険な行為を何度も何度もしてはいけないと言ってきた奈々は、律花の所へ急いだ。

「おかーさん見て」

すると、律花が地面を指差した。

「これ何…?」

遠くから見ていた為分からなかったが、律花が立ち止まっていた所は少し道が広がっていた。対向車を避ける所なのだろうか、それでも安全とは言えないがまだ立ち止まるにはマシな場所だった。そんな事実に胸を撫で下ろしながらも奈々は律花の指差した方向に視線を落とした。

「つぼみ…かな?」

「つぼみ…?」

可愛らしく首を傾げる律花に奈々は「そう」と前置きして喋り出した。

「蕾が成長してくとね、とっても綺麗な花が咲くの」

「花?」

「そう。りっちゃんよりは下だけど、りっちゃんと同じくらい綺麗なものなんだよ」

まだ律花は花を知らなかった。

写真では見たことがあっても、名前は知らなかった。そんな未知のものに律花は興味津々であった。そして、お母さんが言う綺麗なものと云う言葉が律花の興味をより一層引き立たせた。

「花ってどうやったら咲く?」

「見てみたいの?」

「うん!」

「そうかー。じゃあ、水を毎日あげればきっと早く咲くよ」

「水をあげる?」

「そう。りっちゃんだってお水は飲むでしょ?お花さんだって生きてるんだから、お水はあげないと」

「そっか!」


そうして律花の水あげ生活は始まった。



「ねーねーこれ重いー」

朝早くに律花はペットボトルに水をたっぷりと入れて、それをつぼみにあげるというのが日課になっていた。幼稚園児にとって、小さいペットボトルでも水をたくさん入れると重いもので、律花にとってそれは苦痛であった。ただ、それ以前に綺麗な花を見たいの一心で毎日頑張っていた。

それは土砂降りの降る雨の日にも行くと言い出して、奈々や春樹を困らせた。最終的に下がったのは親の方で、仕方なく雨の中レインコートを着て行ったこともある。

そんなある日、つぼみの変化に奈々が気づいた。

「開きかけてる…?」

普段とはつぼみの形が違い、少し亀裂が入っているような感じであった。だが、それは傷ついているとは違い、律花の目的の達成の直前まで来たと云う知らせであった。

そんな事に気づいた奈々は律花の手を軽く揺すった。

「なぁに?」

「明日、朝早くに水あげに行こっか。もしかしたら…」

「つぼみ開く!?」

そんな奈々の言い方を察してか奈々の言葉を最後まで聞かず、律花ははしゃいだ。それはもう有頂天で、我が子を見るようにつぼみを見て、ニコニコとしていた。


だが——。


「——」

翌朝、見事に花を開花した。

とっても赤く綺麗な花だった。

周りには類を見ない華やかさで、その場を圧倒して、一際目立っていた。

そんな花をみていたのは一人の——一人だけの『女性』であった。

だが、その女性に笑顔は一切無かった。

むしろ逆でその花を憎んで、殺してやると呪詛のように唱えている姿がその女性であった。

その花を見ては強く歯を食いしばり、辛そうな顔は女性だけに留まらず周りにも伝染してしまいそうな勢いであった。

そして——、

「ねぇ律花?私もすぐに行くからね」

その女性は、天に言ってしまった我が子に向かってそう零し、ポケットにしまっていた薬を手に握っていた。

それから、女性は再び花を睨みつけて。終いには——。

「お前のせいだ」

勢い良く花を踏み潰した。何回も何回も何回も何回も。

今の気持ちを体現するかのように何度も花を足で踏み、呪詛のように暴言を吐いて。

そして、それを辞めたのは数十分経ってからであった。

凛としていた花は根元から折れて、黒く汚れてしまって。さっきまでの神々しさは全く感じられず。

しかし、

——スッ

その日は風など吹いていなかった。

なのに——、


花は揺れた。


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