あのひの日記 銀閣寺のこと

バスを降りると、少し小雨が降っていた。

私は折りたたみ傘を差すと、持ちづらそうに小脇にトートバッグをかかえ、濡れている横断歩道を渡ろうとした。

ふと後ろから声をかけられた「落ちましたよ」と。

「?」と見ると、中高生くらいの若い男の子が私の折りたたみ傘のカバーを渡してくれた。

純粋な優しさにじーんと来た。


それは5月くらいだった。青青とした緑色の紅葉が頭の上をいっぱいに覆っていた。背景は薄い灰色の曇り空。

小高い散歩道を滑らないように足下に気をつけながら、たまに立ち止まって網目模様の空を折りたたみ傘越しに見上げた。


滝のところに来るとふと思い出した。ネットで見た、権力争いで追い詰められた小さいお姫様がそこで入水したとか、何か。

少し悲しい気分になった。それでもそこはとても美しかった。

(今探しても見つからなかった。思い違いかもしれない)


その頃はまだまばらだった外国旅行者達と一面の苔や、焦げ茶色の窓の格子と白い壁のコントラストに見惚れた。


そして『慈照寺』と御朱印を書いてもらい、「雨の中ようお越しでした」と渡してもらった。


ひとつひとつ好きだった、銀閣寺の思い出。

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