五月。ごわすの小指を埋める。

さわみずのあん

ほったいもいじったな

「っっっきゃああああああああっっっっっ」

 母の叫び声がする。

 どだどたどたどだと、廊下を駆ける音。

 浴室の扉を勢いよく開け、湯船に浸かっている私に怒鳴る。

「つっっんな、なんなのよ、あの男っっっ」

 そりゃそうである。

 年頃の中二の娘の部屋の押し入れに、全裸の成人男性がいるからである。

「まあまあ、落ち着いて」

 手の平で、ぽんぽんと。落ちつくよう、母に促す。

「話せば分かる、人間だもの。ね。」

 とは言ったものの、

 うーん。

 さて、どこから話せばいいのやら。




 まずは、さつまいも掘りの話をしようと思う。

 幼稚園、小学校のとき以来。

 五年ぶり、三度目。

 三度目の正直に、率直な感想を、言うのも野暮であるが。

 芋い。

 そう思う。

 芋いジャージ。芋い女。芋を掘る。

 芋る。

 超超好意的に拡大解釈をするならば、タピオカのキャッサバも芋であるから、タピると言えなくもない。私はこれから、タピる。そう考えれば、芋るもなんだか、エモい。のかもしれない。

 さてさてそんな、タピりヶ丘二丁目フルマラソンの、心臓破りの坂道を転げ落ちるように、テンションだだ下がりだったのだが。

 いざ掘り始めると、奥が深い。

 すっかりと、沼に秋の日はつるべ落とし。

 一日千秋に思えるほど、周囲がスローモーに感じるゾーン状態に入ってしまった。

 右手をスコッピオン。左手をシャベルタイガー。と名付け、外科医よろしく、これよりオペを始める。と決め台詞をキメ。貫手ぬきて抜手ぬきて貫手ぬきて抜手ぬきて螻蛄けら拳の使い手、ゴッドハンドとして、発掘発掘発掘。

 中途、「きゃっ、みみず」などとのたまう、同じクソダサ紫ジャージを着ているのに、なぜか可愛い忌々しい女が男とれるのを、横目に弱目に祟り目、いやいや、私だって、メイクとやらをちょちょいのちょいで、目を見張る見た目になれる。なりたい。なれるとき。なればなれ。戯言ざれごとなんぞは、寝耳に水。じゃない。馬の耳に念仏。馬耳豆腐の角に顔をぶつけて死ね。生きているんだ。みみずだって、おけらだって、私みたいな虫けらだって。みんなみんな生きているんだ。

 と。

 ほったいもいじったな。

 まじ。まじな話。

 掘った芋が、生きていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る