第1章③蓮青魔王はこうして過労になった

「あらためまして、ぼくは蓮青魔王れんせいまおう阿夜あやです。別次元世界で、比翼の国……日本の九州くらいの地を治めています。主な能力は、時間操作、次元渡り。ただし過去の改変はできません」

時間操作と次元渡りとは、掟破りの強力な能力だと、みゆきは眉をひそめた。

征十郎は、国を治めるのほうに反応した。

「言っちゃなんだが、まだガキによくそんな」

「こちらでいう、マフィアややくざと政権が手を結んで、世紀末状態だったんですよ。まともに治められる魔人が殺されるか逃げるかで、いなくなりまして。祖母の竜帝陛下と、その右腕の父が、荒れ放題で救いのない状況を憂いたのです。一時的な措置のはずでした」

蓮青魔王は竜簇らしい。

生まれながらに完成している種族ならば、そういうこともできるのだろう。

「それがそんなに激務だったの?」

「いいえ」


◼️◼️◼️


12歳の蓮青魔王が比翼国に封じられることになり、就任パーティーが行われた。


会場はあらたに蓮青魔王が魔力で、ご当地のはずれに一瞬でしつらえた。強大な魔力の一端を見せつけるパフォーマンスである。

象牙色の石造りで、内装は赤色が多く使われていた。高い天井の一階建てである。

カーテンや花瓶、ふんだんに飾られた生花に至るまで、彼の濃密な魔力でできている。

庭園はない。あえて、岩だらけの荒れ地のど真ん中に建物だけ置いてあるのだ。

力のある妖魔であれば、交通の不便などは言い出さないはずである。


200名の来賓たちは、それぞれこの地の有力者だ。敵になるか味方になるかは、これから決まる。

賢明なものなら、今後は取り込めるかと検分する機会でもある。

竜帝陛下も、両親も同席しなかった。秘書も従者も伴わない、ひとりである。保護者同伴と揶揄されるいわれはないのだ。

開会と就任の挨拶を短く行った魔王に、嘲りの視線が刺さる。

きゃしゃな肢体にミッドナイトプルーの礼服をまとい、声変わりもしていない魔王は、見た目だけは、こどもでしかなかった。

歓迎されていないのはわかっていたので、妖魔たちの反発は気にしなかった。

これから蓮青魔王は、逆らうものたちを粛清して内政を整えていくのだ。それだけの絶大な実力と魔力と胆力を携えていると、ことばでないアピールを続けている。

見た目も実年齢も、たしかにこどもだ。

しかし、そんなことで真価をはかるのは【妖魔の常識】ではない。

全方位において、能力の上限などないのが、竜簇の魔王なのである。


立食パーティーのあいま、あいまに、祝辞や挨拶かはさまれる。

蓮青魔王は静かにほほえみ、拍手をし、周囲に話しかけ、できうる限り、場にとけこもうとした。


最後に、祝辞を述べるために壇上に上がったのは、大ガラスの妖魔、黒烏くろう魔人である。

比翼の国の乱暴な実力者の代表格は、小山のような巨体から、太い声を高らかに響き渡らせた。

「我らが蓮青魔王さまよ! あなたさまの強大な力はみなが知ることとなりました! 我ら、恐れ入ってございます!」

軽い響きに、不穏さが香る。

「これは、有志一同による贈り物にございます!」


黒烏魔人は、和装であった。

羽織を脱ぎ捨て、ぐい、と諸肌脱ぎになる。カラスの黒い羽の、ふかふかした胸もとには、白い魔法陣が描かれていた。

そこに魔力が込められる。


「…………!!」


黒烏魔人は鋭い息で、声にならない苦鳴を上げた。

まばゆく輝いた魔法陣から、さらにもうひとつの魔法陣が飛び出した。

飛び出した魔法陣は、空中で巨大なゲートと変じた。


黒烏魔人の胸の魔法陣から、おびただしい数の怪魔の群れが噴出した。

それを巨大なゲートが吸い込んでいく。


「ワハハハハ!!」

黒烏魔人は苦痛に汗を飛び散らせながら、高笑いした。


「三万体の怪魔だ! ほどよく分けて、各異次元世界に送り込んでやったわ! 行った先で、暴れ狂い、食い荒れるだろうよ! 」


阿夜は目を丸くした。

こんな真似をすれば。


黒烏魔人の威風堂々たる巨体はどんどん小さくしなびていった。最後の怪魔を胸から吐き出すと、魔人の姿を失い、やせこけた、ただのカラスの姿になり、ぱたりと倒れた。

蓮青魔王の領域で、覚悟の無茶をしたのだろう。彼の身に余る術であった。もう、このままめっしてしまうしかない。


「こわっぱめ……どうせ顔をつぶされ、権力を失い、破滅させられるならば……、貴様に不名誉と罪をくれてやる…………命など惜しむか……貴様こそを破滅させてやれる……のなら……」


阿夜は、丸くしていた目をすがめた。

そんなことで、黒烏魔人は命まで張ったというのか。

比翼の国は思っていた以上にクレイジーだった。


「三万体の怪魔だぞ……回収しきれるかな? 別次元世界で、どれだけ世界を壊し、知的生命体を食らい、呪詛と恨みをかうのだろうな? ……」

黒烏魔人はしぼんだ体で、それでも愉快そうに、イヒヒと笑った。

「貴様がここにやってこなければ……悔いるがいい……その罪、思い知れ……」


この騒ぎで、力の弱い料理人や給仕たちは、すでに我先にと逃げ出していた。また、阿夜が外へと

(つまり、ここには敵しかいない)

阿夜は気づいていた。

200名の来賓たち全員が、黒烏魔人と通じていたこと。

警備兵たちまでもが、裏切っていたこと。

そして、どこからどうやって持ち込んだのか……黒烏魔人のように身をけずり、身体に魔法陣を仕込んだのだろうか。全員が武器をかまえており、さらには今、午頭鬼人ごずきじんの巨体が背後にいて、阿夜の頭上に、巨大な斧をギラリと、ふりかぶっていること。

なりふりかまわぬ殺意、そして軽率。


(思いどおりにいくと、本気で信じているのかな?)


「蓮青魔王をなめすぎている」

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