第52話「拠点を探して」

「......ねぇ、これって...閉じた世界の穴がまた開いたってこと?」


 オレやレナと同じようにモニターの画面を見たプリマが、不安そうな表情で問いかけてくる。


「みたいだな......。けど何故だ?確かに1度閉じたはずなのに、どうしてまた...」


 オレも目の前で起きた現実がのみこめず、頭が混乱していた。


「...............」


 そんな俺達をよそに、オレとプリマの横でレナが神妙な面持ちで何かを考えている。


「レナ、何か思い当たることがあるのか?」


 こんな様子のレナを見るのは初めてじゃない。恐らくレナのこの顔は、何か考えを秘めている顔だ。


「...たぶん。けど確証がない」


「確証がなくてもいいから教えてくれ」


「あんたがそう言うなら話すけど、状況からして外部から干渉された可能性が高い。今世界の穴がまた開いたのは、誰かがこの装置と似たような装置を動かしているからだと思う。似たような装置って言っても、これと違ってそっちは世界に穴を開ける装置だと思うけど」


「誰かって誰だ?そういう言い方をするってことは、レナには当たりがついてるんだろ?」


 レナとはもう相当付き合いが長いため、オレはレナの言わんとしていることを察していた。


「まあ...ね」


「もしかして、レナはそれをやってるのがフォルだと思ってるんじゃないか?」


 レナが珍しく言い淀んでいるのを見て、オレはレナが思い浮かべているであろう人物をこちらから口にした。


「......っ!一瞬何で知ってんのって思ったけど、あんたの能力を考えたら知ってて当然か。...そうだよ、あの馬鹿兄さんだったらそういう装置も作れるだろうから」


「そうか。実は以前に聞いたことがあるんだ。ここ数年でトリガーの出現数が増えていて、その原因がブラウにある可能性があるって。それと、フォルが優秀なロゴスの研究者だってこともな」


 これまでの周回の中ではレナと深い関係になったこともあったため、その時にレナの兄であるフォル・クローズという人間のことも色々と教えてもらった。


「ま、推測に過ぎないけどね。あまり考えられないけど、私達が作ったこの装置の理論にどこか抜けがあるって可能性もまだゼロじゃないから。まずはそっちの可能性を潰していくのがベターかな」


「そうだな。じゃあ理論の見直しから始めるか」


 それからオレは数回死に戻りを繰り返して装置の理論を見直してみたが、どこにもおかしな点は見当たらなかった。


 *


「なあ、例の世界に穴を開ける装置はブラウの拠点にあるって考えるのが普通だよな?」


「まあそうじゃない?結構大規模な施設が必要になるし、もし存在するならその辺りに適当に置かれてるってことはないでしょ」


「それじゃあ装置の存在を確認するために、ブラウの拠点に攻め込んでみないか?」


 現在5827周目。

 理論を見直しても解決策は見つからないと判断したオレは、プリマとレナにそんな提案をすることにした。


「できればそうしたいけど、場所が分からないんだよね」 


「ロットはブラウの拠点については把握してないのか?」


 これまで何度も周回を重ねてきたが、研究に没頭し始めてからはブラウについての話をすることはあまりなかったため、この辺りの情報は未だに少ない。


「残念だけど全然知らないよ。いくつか拠点があるみたいってことは分かってるけど」


「そうなのか」


「あんた、神すぎると思ってたけど、意外と馬鹿なことも言うんだね。そんなの分かってたらとっくに潰してるって」


「ああ、確かに」


 深く考えずに発言していたが、よくよく考えてみればレナの言う通りだ。


「ショーエイは何か知ってるの?」


「一応、かなり前の周回でブラウの拠点の1つに連れていかれたことがある。フォルの話では拠点は3つあるらしいからそこに例の装置があるかは分からないけど、確認してみる価値はあるんじゃないか?」


「それ採用。ていうか、そういうことは早く言いなよ」


 レナが面倒くさそうな顔でオレに悪態をついた。


「プリマ、戦力の確保をよろしく。多すぎても動きにくいし、どのくらい連れていくかはあんたに任せる」


「オッケーっ。じゃあショーエイ、その拠点の場所を教えてくれない?」


 オレの提案を受けて、プリマとレナの間でとんとん拍子に話が進んでいく。


「悪い、ちょっと待ってくれ。実は車に乗せられて連れていかれたことがあるだけで、詳細な位置は分かってないんだ。だからまずは、オレが何度か死に戻りを繰り返して、場所を特定する必要がある」


「なんだ、そうなんだ。じゃあさくっと見つけてきてよ」


「ちょっ...レナ軽くない?死に戻りをするって、今ここにいるショーエイが死ぬってことだよ?」


「こいつにとってはもうそれが日常みたいなものみたいだし、じゃあいちいち感傷的になる必要もないでしょ」


「いや...でもだからって」


 これはオレにとってはいつもの光景だ。オレが死ぬタイミングではいつも似たような会話が繰り広げられる。


「プリマ、そんなに気にしないでくれ。それより、悪いんだけどオレを殺す役を引き受けてくれないか?」


「.........。軽く言うなぁ.........。分かったよ...ショーエイの死に戻りが必要ならこれはあたしがやるべきことだよね」


「いつもすまないな」


「.........いつもって、あたしにとってはこれが初めてだけどね。じゃあ付いて来て」


 プリマに連れられて、オレはレナの部屋を出る。


「それじゃ、次の私にもよろしくー」


 レナが部屋の中からオレにひらひらと手を振りながらそう言った。

 その後、オレはいつも通りプリマの手によって次の周回へと送られた。

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