第50話「ルイン・エイシスター」
「.........」
オレからの問いかけに対して、ルインは答えを慎重に選んでいる様子だ。
ちなみに、この接触にはブラウ側の人間からも情報を聞いておきたいという思惑もある。プリマ達を疑っているわけではないが、一方からの主張を聞いているだけでは情報が偏ってしまう恐れがあるからな。
「......。確かにあなたの言う通り、私はそれを知っています。ですが、そんな話を聞いてどうするんですか?もうじきあなたも私も殺されるんですよね?そんな話に意味なんてないでしょう」
ルインからふっと表情が消え、冷たい声が発せられる。
「そんなことを言わずに教えてください。あなたは世界の滅びを望んでいるんですよね?それは何故なんですか?オレはどうしてもそれが知りたいんです」
「......もうあなたは助からないというのなら、何もお話することはありません」
ルインが冷たい声のままオレにそう言い放つ。
「あなたが話してくれるまで、オレはここを動きませんよ」
「......」
オレの言葉に対して、ルインはだんまりを決め込む。
暖簾に腕押し。このままでは何も話してくれそうにない。
しばらくの間、オレとルインの間に沈黙が訪れる。
「...もし話してくれるなら、世界を作り変えるというあなた達の目的を手伝うことができるかもしれません」
「......!それは...どういう...?」
このまま話していても何も進展はなさそうだったため、オレは交渉という形をとることに決めた。
「異世界から来たオレには特別な力が宿ることは知っていますよね?オレは既に力に覚醒しています。実はこの力を使えば、この絶望的な状況を抜けだすこともできるんです」
「......にわかには信じられない話ですね。ではどうしてあなたはまだその力を使っていないんですか?」
「オレは今、あなたを信用していいのかを迷っているんです。正直オレは、どうせ元の世界には戻れないし、自分の命は助からないんだろうなって思ってます。そして、オレをこんな状況に巻き込んだこの世界なんて滅びてしまえって思ってるんです。だからもし、あなたの話を聞いて信用できる相手だと判断できたなら、あなたの望む世界の滅びに協力させてください」
「...........................」
ルインが消えた表情のまま、オレを見定めるような視線を向けてくる。
「......分かりました。元々私の話をあなたに聞かせたところで何か問題があるわけでもないですし、他でもない、救世主様であるあなたがそう言うのであれば乗せられてあげます。といっても、私の話なんて大した話ではないですよ?」
「それでも構いません。オレが聞きたいだけですので」
「では。私が世界の滅びを望んでいる理由...でしたよね。単純な話です。私はこの世界が嫌いなんですよ」
「世界が嫌い、ですか?」
「はい。私、殺してしまいたいくらい憎くて嫌いな相手が何百人もいるんですよ。両親に、故郷の人達に、学生時代の同級生に、先輩に、街で声をかけてきていきなり酷いことをしてきた男の人に.........それ以外にもたくさん。そんな人達がのうのうと生きてるこの世界なんて大嫌いですし、それに、私個人ではそんな何百人の人達を殺したりできないですけど、世界ごと無くなってしまえば、実質全員殺してしまえるじゃないですか。私が世界を滅ぼしたいのはこれが理由です」
聞いた人間のほとんどがイカれてると思うであろう話を、ルインはさも当たり前のように淡々と語った。
「そう...なんですね。あなたはどうして、そんなにたくさんの人を憎んでいるんですか?」
オレは少しでも多くの情報を引き出そうと試みてみる。
「別に、両親には毎日暴力を振るわれただけですし、故郷からは追い出されて路頭に迷っただけです。他の人達も似たようなものですね」
「あなたには大切だと思う人はいないんですか?世界が滅んだら、その人も死んでしまいますよね?」
「愚問ですね。いないですよ、そんなの」
「あなた以外のブラウの人達も、そんな感じなんですか?」
「分かりません。他の人達とは同じ目的を持った仲間ですけど、身の上話なんてお互いしないので。......あの、先ほどから質問ばかりですが、あなたの聞きたかったことはお話しましたよ。あなたは私に協力してくれるんですか?」
質問攻めにされることに嫌気がさしたのか、ルインが冷めた声でそう言った。
「すみません、あなたには協力できないみたいです。話してくれてありがとうございました」
「そう...ですか」
オレはルインから距離を取り、入ってきた扉の方へと身を翻した。
残念だが、ルインと分かり合い、未来に繋がる関係を築くことはできないみたいだ。
オレはこうしてルインと話をするまで、世界を滅ぼそうとしているルイン達ブラウの人間に対して、実は一種の親近感を持っていた。
オレにも、こんな世界なんて...と思っていた時期があったのだ。
もし何かが違っていたらオレもルイン達の側にいたかもしれないと、オレは本気でそう思っていた。だが、それはオレの勘違いだったのかもしれない。
「あっ、出てきた。早かったね、もういいの?」
「ああ、ありがとう。知りたいことは聞けた」
ルインがいた部屋を出たオレは、プリマと共にレナの下へと戻った。
その後は実験を行っているうちにあっという間に時間が過ぎていき、最終的には世界が滅びる少し前にオレはプリマによって殺され、今回の周回は幕を閉じた。
そしてオレは、それから何度も何度も何度も何度も何度も死に戻りを繰り返しながら、2つの世界の間に開いた穴を塞ぐ方法と、オレが元の世界に戻る方法をレナ達と共に模索し続けた。
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