第44話「これまでと違う景色」
頬に何かが当たる感触を覚え、オレは目を覚ました。
仰向けで横たわっているオレの視界の先には少し濁った色の空が広がっている。そしてポツポツと降る雨が体を打つ。
オレはそんな雨に打たれながら、ゆっくりと体を起こす。
「行くか」
これで301周目。
これまで何度も死んで、何度もこの場所から始まった。
いつもと同じ場所。同じ風景。今回もそれらは変わらない。
けど、変わったこともある。
同じものを見ているはずなのに、今の目の前にある景色は、これまで見ていたものとは全く違ったものに見えていた。
オレは周囲の景色を噛みしめながら、目的地へと歩き出す。
「おやおやっ?もしかしてもしかしてっ、そこにいるのは『トリガー』だよね?良かったっ!ちゃんと見つけられてっ!」
3周目の時と大体同じルートを辿り、しばらくしてプリマと出会った。この後、オレはプリマに状況を説明して、300周目で話した計画を始めるつもりだ。
今傍にはルインもいるが、それについてはあまり問題にはならないだろう。
「金色の長い髪に深紅の瞳......まさか、『最凶』...!?」
「そっちの『ブラウ』の子はあたしを知ってるみたいだねっ。出来れば傷つけたくないし、手を引いてくれないかな?」
「...この人はあなたの命を狙っています。私が時間を稼ぎますので、急いで逃げてください!!」
ルインが突っ込んでいき、そしてすぐにプリマによって遠くに吹き飛ばされた。
オレはタイミングを狙いすまし、大きな声を上げた。
「プリマ・ストローグス!!オレは蝶野翔永!お前に話したいことがある!!」
ルインを吹っ飛ばした後、瞬く間にオレに接近していたプリマが目の前で止まる。
「あたしに話?...というか、何であたしの名前を知ってるの...?」
動きを止めたプリマに対して、オレは数分程度で端的に事情を説明した。
始めのほうはかなり警戒しながら聞いていたプリマも、世界の滅びのことや、オレの能力のこと、そして300周目のプリマと交わした約束について話していくうちに、その警戒を緩めていった。
「......なるほどね。大体事情は分かったよ」
「オレの話を信じてくれたってことでいいのか?」
「うん、もちろんっ。流石にそんな真剣な顔でこんな話を聞かされたらね」
「そうか。ありがとうプリマ」
「ありがとうはこっちこそだよ。ええっと...」
「蝶野 翔永だ。ショーエイと呼んでくれ」
「ショーエイねっ。オッケー、よろしくっ」
「ああ」
プリマが手を差し出してきたので、オレはそれに快く応じた。
プリマとこうして握手ができるというのは何とも感慨深さがあるな。
「それじゃあ早速だけど、さっき話した通り、オレのロゴスを解析できる研究者の所に連れて行ってもらえるか?」
「うん、分かったよっ。でもその前に、ちょっと待っててね。仲間達に作戦が終了したことを知らせるから」
プリマはオレに断りを入れてから、すぐ近くでスマートフォンのような端末を使って誰かと話し始めた。
「レナ、お疲れ様。作戦は終了したよ」
『ト............の?..........』
プリマの持っている端末から相手の声がかすかに聞こえてくるが、オレの位置では何を言っているのかまでは分からなかった。
「実はさ、ちょっと色々事情が変わっちゃったんだよね。とりあえず今からそっちに行くから、皆には作戦が終了したことだけ伝えて解散させといてもらえるかな」
『解...........ね?』
「うん、お願い。あっ、あと、今あたしがいる場所の近くでブラウの子が1人気を失ってるから、その子の回収も手配をよろしくね」
『人...........い。後......ス......ね』
「分かったよっ、まったくもう...。じゃあ頼むね。また後で」
プリマが通話を切り、オレの方に向き直る。
「よしっ!じゃあ行こっか。担いでいくから、あたしの背中に乗ってもらえるかな?」
オレは言われるがままに、プリマに背負われる形となった。
「出発する前に一応確認したいんだけど、オレの居場所ってまだロットやブラウが持ってるレーダーに映ってるよな?それって大丈夫なのか?」
「へぇ。そんなことまで知ってるんだ。別に疑ってたわけじゃないけど、さっきまでの話が本当のことなんだって改めて実感したよ」
プリマが関心した様子でそう呟く。
「今の質問に答えるなら、全然問題ないよ。あたしがトリガーを生きたまま移動させるのはいつものことだから、ロットの仲間達は全く気にしないし、ブラウの子たちが襲ってきたら返り討ちにするから」
「ああ、なるほど。納得した」
ロットの人間からみたら、プリマがオレの手足を切ってどこかに連れて行っているようにしか見えないし、ブラウがやってきてもプリマの実力なら相手にならないというわけだ。
「それじゃあ今度こそ出発するよ。すごく速く走るから、しっかり掴まって舌をかまないようにしてね。じゃあ、飛ばして行くよっ!」
プリマが強く地面を蹴り、凄い加速力で体が前に進んでいく。
オレがプリマの背で心地良い風を感じていると、あっという間に目的地へと到着した。
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