第2話 ダンジョン配信準備
結局生活費欲しさに、女子高生を家に上げてしまった。
俺の服を脱ぎ散らかされた汚い自宅に、さっき会ったばかりの女子高生が二人いる光景は異様としか言えなかった。
今さらだが、二人とも幼い顔付きでありながら、美人だった。
荒波メメがカーディガンを脱ぐと、ブラウス越しの大きな胸が露出し、思わず顔を反らしてしまった。うわ、でか。
五十嵐千緒はどういうつもりか、ベッドに寝そべって、スマホに夢中だ。ミニスカートであるため、青紫の下着かチラチラと見えて、視線に困った。
このままだと、俺はただの変態のおっさんだ。
まず、そんな男の視線を困らせる体勢をどうにかしなければ。
「あの、スカートの中とか見えちゃってる……良くないからしまってくれないか」
それとなく言ったつもりだが、二人は体勢を変えずにそのまま返事をした。
「ほうほう、私たち結構年下ッスけど、それでも興味津々で?」
「いや、そうじゃなくて、そういうのでその気になる男もいるって話で」
「凪人サンもその気になっちゃうんスか? 誘惑されちゃうってことッスか?」
「俺は関係ないだろ」
「誘惑されてもいいッスよ~、ほれほれ」
メメはベッドに座ったまま、少しジャンプをして胸を揺らす。
「なんでそういう男の心の波を荒らすことするのかな」
「お、惑わされたッスか? 嬉しいッス」
「嬉しい? 何で?」
「当方、小悪魔なんで」
「なんだそれ」
メメもこの会話を真剣にしている様子はなく、適当に話していることがわかる。
しかし、そんなことわかっていても変な気分になってしまう。
家に女子高生がいるという事実が、どうしても意識してしまうのだろう。
外に出るように誘導する。
「早速ダンジョン攻略でもしてみるか? 今にもお金が欲しい」
「お、やる気っスね? 凪人サンがどれくらいの強さか早く知りたいッス!」
「……お金が足りない? それって大丈夫?」
五十嵐千緒が不安そうにこちらを見る。
「おじさん。冒険者の装備持ってる?」
「あ」
冒険にはお金が必要だった。
「お金ってどれくらいかかるの……?」
おそるおそる尋ねてみる。
「野球始めるのにスパイクやグローブ揃えるみたいにさ、冒険にも防刃ベストとか何かしらの武器とか買う必要あるよ、だいたい5万円くらいかかるかな」
「5万円……!?」
今の俺にはとても払えない。顔が青ざめていく。
「やっぱ、……俺は冒険者いい」
「私がお金あげるから」
「あ、私も半分だすッスよ」
「メメは今月ピンチでしょ、私が出しとくから」
五十嵐千緒は財布から5万円をペラリと出した。
「え!? 女子高生の千緒さんがなぜそんな大金を」
「言いたくない。さぁ受け取って」
言いたくないって何で!? 何か怪しい仕事でもしてるのか?
「冒険者上手くやればそれ貸せるくらい稼げるの、今変な想像したでしょ」
「してないしてない……って大人が女子高生からお金を借りるわけにいかない! お金貯まるまで待っててくれない?」
五十嵐千緒は不機嫌な顔になった。
「あのね、あなたは私の心を惑わしたの! わかる? 今私はあなたの冒険者としての実力がどれほどなのか知りたくて知りたくて仕方ないの、絶対夜寝れなくなるから、受け取って!」
なかなか恥ずかしいことを言っている。
五十嵐千緒は自分の発言が恥ずかしくなってまた赤くなる。
「……そこまで言うなら」
怪しい金融会社から借りるよりはマシとのことで、女子高生から金を借りた。より怪しい。
「申し訳なさそうにしない。あと、私のことは千緒でいいから」
「メメはメメッスよ! 名前呼びが借金の利子ッスから!」
「じゃあ、俺も凪人でいいよ」
「さすがに年上呼び捨ては抵抗あるッスね~。凪人サンで良いッスか?」
「ご自由に」
「お、自由と来ましたか、じゃあ千緒は、凪人サンのこと、ナギナギと呼ぶッス!」
「なんだそれ……」
俺が呆れていると、千緒が大声で怒った。
「なんで私がそんな恥ずかしいあだ名で呼ばないといけないの!」
「ほらほら、前言ってた『ニックネームで親睦深めよう作戦』ッスよ! 千緒は仏頂
面で不愛想ッスからね、かわいいニックネームで呼び合って親睦を深めるッス~!」
「な……ナギナギ~」
千緒の顔は真っ赤だ。
「一応呼んでみるんだ」
「この子、仲良くはなりたいんスよね?」
「うっさい、メメ」
彼女から、お金を借りてしまった。今から辞めますとはもう言えない。
どうなんだろう、俺の冒険者としての実力は……。
◇
住宅街にそびえ立つ不気味な建造物。扇大橋ダンジョン。
俺は近くのスーパーで初心者セットを購入した。
防刃チョッキと、ヘルメットと、そして、盗賊の使うような短刀……。
「へぇ、短刀を選ぶとは、なかなかのマゾッスねー!」
「マ……マゾ?」
短刀を選ぶだけでマゾ扱い。いったいどういうことだ。
その疑問は千緒が答えてくれた。
「弱点が突きやすいという利点はあるけど、リーチが短くて、威力が低いから上級者向けなの」
「良いと思ったんだけどな、もう買っちゃったよ」
「まぁ、今のはただの一般論。自分のフィーリングを信じるのも大事、武器はそれもいいね」
二人も冒険者の恰好に着替えてきたようだ。
制服姿の上から膝や肘にプロテクター、腹には防刃チョッキ。
中世ファンタジーとも違う、現代チックなものだ。
「ところで二人の武器はどんなのだ?」
「私は銃剣。遠距離近距離対応、爆破、斬撃属性対応。魔法弱点と打撃属性弱点は突けないけど、幅広く活躍できると思うよ」
千緒は布に包まれた銃剣を、めくって見せてくれた。
「私はメイスッスね! 回復魔法専門ッス。 回復術士はパーティに一人は欲しいッスよね。戦闘力はないんで、どうぞ可愛がって、守ってくださいッス」
メメは頭を撫でて欲しいと、頭をつきつけてきた。撫でません。
なるほど。
俺が前衛、メメが後衛。そして両方にスイッチできるのが千緒か。
準備をあらかた済んだので、人生発ダンジョン攻略をすることになる。
扇大橋ダンションの警備員に冒険許可証を見せる。
「レベル40の冒険者がいますね。11階あるいは、21階層から行かれますか?」
「今日は初冒険の人もいるからいい」
「そうですか、それではこの初心者マークをどうぞ」
千緒は警備員から何やらシールらしきものを受け取り、それを俺の胸にペタリと張り付けた。
車によく貼ってある、わかばの初心者マークと同じ形だった。
「初冒険ではこれつけるの決まりだから」
「かっこよくないな。せっかく装備をキメてきたのに」
しかし仕方ないことかもしれない。
初心者と一目でわかった方が色んな混乱を防げるのだろうしな。
――ところで。
「レベルが高い人がパーティにいると、階層をショートカットだって? どっちがレベル40?」
メメが千緒の肩を掴む。
「千緒ッスよ! ちなみにウチはレベル35なんで、結構劣るッスね」
「差が5ってことは、同じくらい強さじゃないの?」
「いえいえ、このダンジョン攻略においてレベル1を稼ぐのは大変なんスよ、ものすごい差ッス!」
「俺はてっきり、主導権握ってるのメメの方がレベル高いのかと思ってたよ」
「いやいや、滅相もない、千緒は学校休んでダンジョン攻略しまくってるッスからねー、もう既に出席日数スレスレッスよ」
「うっさいメメ」
千緒は頬を膨らませる。
薄暗い下に進む階段に通される。
「ところで凪人サン。勘の方はいかがですか? 私たちどこまで行けるッスか?」
「……それが」
実のところ全く何階層まで行けるかわからなかった。
「え、それって意味ないんじゃ」
「いいえ、それは想定済みッス」
千緒の言葉をメメが遮る。
「気に病むことないッス。今何階層まで行けるかわからないのは、2つの可能性が考えられるッスね」
「2つ……?」
「1つは自分の動きでいくらでも未来を変えられること。そして2つ目は客観性が足りないことッス」
確かに他人のことはよくわかっても自分自身のことがわからないということはどの分野でもありふれた話だ。
「ねぇ、凪人さん。この冒険を配信してみませんか?」
「配信か……それは俺が使い物になるか判断してからでも」
炎上したばかりの俺がこの女子高生のチャンネルにいるなんて、視聴者にどう思われるかというのもあるが、一番の理由は二人に迷惑をかけてしまうのではないかと思ったからだ。
「いいえ、凪人サンには急成長してもらうッス。あとでアーカイブ見返せば客観的な意見をいただけるッス。それに誰かに常に見られてるとなると、一挙手一投足、自分の動きの意味を考えることになるッス」
今までで一番真剣な顔。
いったい彼女には何が視えてるんだろ。
「使い物にならなかったりしてね」
「う……」
千緒が髪をかきあげて言う。
「でも気にしない。最初だから上手くいかなくて当然」
俺の背中をトンと叩く。彼女なりのエールなのだろう。
「命は守ってあげるから、がんばれ」
なぜ、彼女たちはここまで俺を見込んでいるのだろう。
日本は競争社会。俺はそのリングから早々と降り平穏を選んだ。
そういう人生を選ぶと誰かに期待されるとか、そういうのはない。
「なんで俺なんかに期待しちゃうのかね……」
「じゃあいいッスね? 配信するッスよ?」
メメは大きなバッグから撮影ドローンを取り出した。
ダンジョンの攻略が始まる。
《面白いと感じていただいた方は、フォロー、☆評価をよろしくおねがいします》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます