「最高の百話目」を語るまで、青行灯が離してくれない!
ロッタ
第1話 青行灯「あお」との出会い
青行灯。それは、百物語の百話目を語った後に出るという妖怪だ。深夜。集まった人々は蝋燭を100本立て、怪談を1つ語るたびに消していく。最後を飾る百話目を終えると、光の届かない天井の隅から鬼の角を生やした女──青行灯が現れる。
江戸時代に青行灯を実際に見たという記録はない。青行灯を見て生き残った者はいないからだ。現代に至るまで、彼女の存在は謎に包まれている。
そもそも、娯楽に富んだ現代において、わざわざ百物語をする人間はいない。ましてや、青行灯の実在を確かめようとする人間なんて。
「いや、妖怪の鬼女なんて100パー美人だろ」
青行灯について書かれたネット記事を読んで、
華の高校生活を夢見ていた彼にとって、現状は辛く厳しい。彼女はおろか、女子と話す機会にも恵まれない日々。
もう妖怪でもいい。美女をこの目で拝みたい。歪んだ欲望からしげるは百物語を実行した。深夜、両親が寝静まったのを見計らい、自室の床にロウソクを百本立て、怖い話をする度に火を吹き消していく。
百話目を語り終えた時だ。青い光を放つ行燈に乗って、彼女は舞い降りてきた。しげると目が合うと、行燈から飛び降り、下駄の音を鳴らして華麗に着地する。
肩まである水色の髪。頭には2本の角が生えており、後頭部には青いリボンが結ばれている。白地にクモの巣の着物を見にまとっており、短い丈からは健康的な足が見え隠れしていた。深いブルーの瞳は、今まで見た誰よりも美しい。
目の前に広がる光景に、しげるは口をあんぐりと開ける。確かに、青行灯は美人だった。美人だったのだが。
「自分から呼び出しといて何よその反応! 乙女に対して失礼ね‼」
しげるの反応に憤慨しているのは、どう見ても9歳ぐらいの少女だった。
♢
「ありがとうございます。では、お帰りいただいて」
「何その嫌な客を追い払うみたいな態度⁉ 私を誰だと思ってんの⁉」
「人の部屋に勝手に表れた幼女」
「幼女じゃない! 今は弱体化しているだけで、ちゃんと大人の女性なんだから‼」
「俺、幼女誘拐の罪でお縄になりたくないから……」
「何の心配をしてんのよ何の‼ ていうか、この姿はあなたのせいよ‼」
しげるは青行灯の背を押して、部屋の外へ追い出そうとする。青行灯は振り返ると、彼の胸をポカポカと叩いた。
「お嬢ちゃん、知ってる? そーゆーの、めーよきそんって言うんだよ。きちんと言えるかな?」
「──あなた、百話目手抜きしたでしょ」
鋭い目つきの青行灯に、しげるは「それは……」と目をそらす。急に弱気になったのを見て、彼女は「したでしょ」と声を低くする。
一気に形勢が不利になった。しげるは大人しく両手を上げて、お手上げのポーズをとる。
「いや~、一端のオカルトマニアには1人で百話考えるのは大変で~」
「だから、『席替えで好きな子と隣になれたのに、すごい大きなおならをしちゃった』って話を百話目にしたと?」
「誠に申し訳ございませんでした」
大真面目に説明されると居たたまれなさすぎる。しげるは土下座した。見下ろしてくる視線が痛い。この様子だと実体験なのもバレている気がする。
青行灯の指摘は正しい。九十九話目までは、何とかこれまでのオカルト話のストックでいけた。けれども、肝心の百話目でネタを切らしてしまったのだ。
あくまで目的は青行灯なのだから、適当でいいか。しげるは妥協し、自身の黒歴史で百話目を埋め合わせた。そのツケが今の状況である。幼女に土下座する男子高校生。
青行灯は小さく溜息をつくと、「顔を上げてよ」と声をかけてくる。ずいっと顔を近づけられ、しげるは思わず飛びのきそうになった。
「──責任とって」
「責任、とは?」
実に嫌な響きだ。恐る恐る尋ねるしげるに、青行灯は両腕を組んで説明する。
「あなたが百話目に変な話をしたせいで、本来の力を発揮できないのよ。これじゃ、大人の姿に戻ることも、次の百物語に備えて眠ることもできない」
「エッ」
衝撃の発言に、しげるは間抜けな声を上げた。次の百物語に備えて眠ることもできない。それって、つまり。
「私が完全復活できるくらいの怪談をあなたが語ってくれないと、私もあなたから離れられないのよ。だから、責任とって、私に『最高の百話』を語って」
「んな無茶な‼」
「でなきゃ離れない」
青行灯は可愛らしい笑みで、恐ろしい脅し文句を告げてくる。幼女の姿をしていても、相手は妖怪だ。一方的にでも約束を口にされた以上、反故にすると何が起きるか分からない。
最早選択肢はなかった。頭を抱えるしげるに、青行灯は無邪気な笑い声をあげる。しげるには悪魔の高笑いにしか聞こえない。覚悟を決め、服従の意味を込めて小指を差し出す。
「久語しげるだ」
「私は青行灯。『あお』って呼んで。私は『しげる』って呼ぶから」
「決定事項かよ」
しげるの骨ばった指に、あおの小さなソレが絡められた。こうして、しげるは「最高の百話目」とやらを提供するまで、彼女から離れられなくなったのである。
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