「俺の辞書にラブコメという言葉はない」ー2-
*2*
典型的な黒い学ラン、それがこの学園の男子制服
女子のはソレをなんと呼ぶのかわからないが、(フリルのついたような華美ではないものの)アイドルが着ているような雰囲気のある紺の制服である
なんでも女子のは、一昨年までは別の制服だったらしいが地味だとか中学生と同じだとかなんやかんやあって変わったらしい、そう女子が話しているのが聞こえた
2限目は、計らったのかどうかは知らないが、担任の丸山先生の英語であった
「そうネ! 私の名前ネ! 丸山って言いますネ!」
文字にすればエセくさい感じだが、なんか勢いのある感じのハキハキした日本人である丸山先生は独特のイントネーションで黒板を使って2度目の自己紹介をした
もちろん1限でクラスでの自己紹介は終わっていた
かくいう俺も無難な自己紹介を心掛け、まるで澄み渡る空気のごとく終わらせた
そうであっても、だ
俺の外見的な醜さはなんとなしに笑いを誘うには十分なのだ
自己紹介中の俺を見て、女子が顔を見合わせてクスクス笑っているのが見えた
そういう被害妄想という可能性もあるが、そうであったらいいなの気持ちだ
……諸兄らの中に、「なぜか勝手にフラれる」という経験をしたことがある者はいるだろうか
別に好きでもないし、なんとも思ってすらいない相手にである
これは俺のように醜い外見に関係しない話だ
女子は不意に、例えば男子Aさんと付き合うとしたらどうだという話を展開したりするのだ
その結果、悪意はないにしろ(なお質が悪い)、無情な査定結果がもたらされるのである
そもそも、そういう場合のAさんは基本的に審査落ちする相手が選ばれることが多い
加えて、文句を言いたいのはそれを当人Aさんが聞こえる範囲でやることだ
それによって、当人Aさんは理不尽な心の痛みを受けるのである
幾度も、(好きでもないし、告白もしてないのに)フラれつづけた俺が被害妄想の檻に囚われようと誰に責める権利があろうか……いや、ない
と、良くない良くない
すぐにネガティブな思い出ばかり思い出される
俺には癖がある
それも割と気持ち悪い癖だ
嫌なことを思い出したりとか、思考を切り替えたいとき、顔をブンとわずかに横に振る
その振り方がなんとも、発作的というか、反射的というか、人からは不気味に見えるだろう
その癖を指摘にしてきたのはミリアで、それまで俺は普通に何気なく首を振っているものだとばかり思っていたのでショックであった
「ブタ、大丈夫なん? たまにすっげー首降るけど」
教えてもらったことには素直に感謝の気持ちがあった
気づかせてもらえただけでありがたい
しかして、その癖はなかなか治らない
反射として出てくるので、あまり意識的に抑え込めないこともわかった
くしゃみのようなもので……困っている
丸山先生の授業はつつがなく進行していく
そういえばと、俺は興味深いことを思い出していた
俺のように醜い者がいる一方で、その真逆に位置する者ももちろん存在する
それがこのクラスに、2人もだ
1人が男子の、藤原 利重(ふじわら りじゅう)
背は180あたりだろうか、それこそテレビで出てくるアイドルのようなキリっとした顔
やや筋肉質な、ちょうどの良い理想的な体格をしている
清潔感も気にかけているのだろう、髪の手入れの様子から見て取れる
藤原君は窓際、前から2番目に位置している
もう一人は女子で、蘇我 愛李栖(そが あいりす)
藤原君と並び立つアイドルも顔負けの美人である
いくらか奇抜な名前も決してマイナスにはならない、親しみやすい雰囲気を醸し出している
艶のあるショートカットと丸みのある愛嬌のある瞳、身長は俺と同じ程度だろうか
蘇我さんは、藤原君とは対に廊下側の前から2番目にいる
醜い俺がこの2人に対してどういう感情を抱くか
嫉妬、憎悪、嫌悪
そんな感情は一切ない
むしろ、そういう存在がいることを嬉しく思えた
俺との相関関係がないとはいっても、そのような美しい存在がいるなら、俺は俺の醜さを引き受けてもよいかなと思えたからだ
この2人はいつか、自然と結ばれていくのだろうか
そうであるとよいなと思う
もちろん、世の中は奇妙なことが起こったりもするので全然予想外のカップリングが出来上がったりもするのが常だ
が、そんな妄想でネガティブな思考が消えるなら、それはそれでいいじゃないか
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