第3話 後悔しなかった道を選んでも、きっと後悔する
山脈の谷間を越えると、緑の茂った平地が広がっていた。
双眼鏡で先を見ようとすると、平地を囲む金網と軍用車などの兵器が点在している。その中心に目的地があるのが見えた。
「——着いたな」
「あれが直人の故郷か……」
「『第一東京移都市』。人類が来て最初に作った都市だ」
その言い方に若干の違和感を覚えたが、自分で調べろと言われそうで黙っておいた。
近づいていくと、武装した兵士たちがこちらを見て慌ただしく動き始める。
「……外から人が来るのって珍しいのかな」
「さぁな。この方角から来るのは珍しいんじゃないか?」
「なんで?」
「南方が一番危険とされてるからだよ」
案外余裕じゃんって思って来たんだけど、そんなことなかったのか。
「ほらよ。これが俺の身分証で。隣にいるコイツは外で生まれた人間だ。だからその血縁者のものを持ってきた」
直人は堂々とした態度で自身と親父の運転免許証を差し出した。
それらを確認した検問官は若干顔を引きつらせる。
オレは外で持ち物の確認をさせられ、直人と交代で小屋のような応接室に呼び出された。
「名前は?」
「志楽野良です」
「父親の名前は?」
「志楽浩也です」
「母親の名前は?」
「物心つく前に亡くなったので覚えていません」
「どこから来た?」
「囚われの街って呼ばれているところです」
「どうして街を出た?」
「外の世界を見たくて」
「仕事は?」
「足場屋の社長をやってました」
「都市でなにをしたい?」
「世の中のことや、自分の街のことを知りたいです」
「榮直人との関係は?」
「友人です」
「どうやってあの街から出たんだ?」
「直人に助けてもらいました。でも、具体的な方法は自分でもよくわかりません」
一通り質問が終わると、彼らはカードキーを渡してきた。
再びバイクに乗り、舗装された道を進む。両脇には戦車や軍用車などがあり、遠くに戦闘機の滑走路なんかが見えた。
二つ目の金網を抜けると、先ほどより軽い武装をした人達に囲まれる。案内された部屋でカードキーを使い、衣類品を含んだ全ての持ち物をロッカーに預けさせられる。
シャワーを浴び、用意された患者衣に着替える。スピーカーからオレの名前が呼ばれ、指定された部屋に入る。そこには医療機器がずらりと並び、これから検査が行われることを悟った。
…………。
……。
天井のLEDライトを眺めながらソファーでぐったりしていると、検査を終えてきた直人が上から覗き込んできた。
「どうした?」
「もうお婿に行けない……」
オレは両手で顔を覆ってみせた。
「なにがあったんだ?」
「股を弄ばれた」
直人は呆れた顔をして「……性病の検査だろ。変な言い方するな」とズバリ言い当てた。
「尿検査ってなんだよあれ。めっちゃ恥ずかしいんだけど」
「知らんがな」
「他人のしょんべん見て、嫌そうな顔をしている女医の姿を想像しちまった」
「きもいなぁ。夜鶴のこと綺麗さっぱり忘れちまったんだな。可哀想に」
「そういうこと言うなよ。マジで友達なくすぞ」
「つまらない
「酷い!」
直人はショックを受けるオレからソファーのクッションを引っこ抜く。
衝撃で無理矢理おこされたオレは衣服を着たたま外に向かっていく彼を呼び止める。
「どこにいくんだ?」
「外の空気を吸いに行こうと思ってな」
「オレも行く」
外履き用のサンダルを履いて、外に飛び出す。
舗装された道の先に、ビルと呼ばれる巨大な建築物が並んでいるのが見えた。
映像で見たものよりも立派で、過密に入り組んだ街だと思った。
「……俺が住んでた頃と随分違うな」
直人はそう呟いた。彼がこの街を見たのは十二年前。変わっていない方がおかしいくらいだ。
「そういえば拳銃、結局一発も撃たなかったな」
「問題なく都市に入れたんだから無駄じゃない。それに、これから先で使うかもしれないだろ?」
「都市の中でか?」
「また旅立つかもしれないだろ。そもそも都内では銃器の所持もとい、諸々の外からの持ち込みは原則禁止だ」
「そうなんだ」
もう一度、都市を眺める。
手元に双眼鏡がないのか悔やまれるが、幼い頃から妄想を膨らませて夢みてきた場所にこれから向かうのだ。我慢のちょっとくらい構わない。
——やっとだ。やっとオレはスタートラインに立てた。
「早く行こうぜ」
「検査結果で出るまで一週間は掛かる。それまでは検疫所で待機だ」
「……ここにきて、焦らしプレイかよ」
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