そんなものは理由にならない 旧

地を引く たつや

プロローグ

 血と汗が染み込んだ街。


 工場のあちこちから、男たちの荒い掛け声が響き、時折誰かの叫び声が交じる。


 少年は肩に三本の足場用支柱を担ぎ、雪でぬかるむ道を慎重に進んでいく。手袋越しでも指先がかじかむ寒さの中、支柱を他所の建物にぶつけてしまった恐怖を奮い起こし、意識を研ぎ澄ます。


 十歳を迎えたときから始めた足場作業。二分の一成人を境に親父から大人扱いされ、長く、重い支柱を一人で担げるようになるまで付きっ切りで鍛えられ上げられた。


 足場屋の社長である父を一言で表すなら「鬼人」。片腕に五本もの支柱を乗せる姿はまさに怪物のようだった。鍛え抜かれた筋肉が体格を作り、失敗すればその太い腕で容赦無く殴られる。言葉よりも先に拳が飛んでくる。


 だが、どれだけ働いても貧しさから抜け出せない。


 成年となった彼は見納めと言わんばかりに、一人で組み上げた骨組みの頂上に腰を下ろし、街の中心にそびえ立つ円柱状の塔を仰ぐ。


 この塔——ホールケーキの〝二段目〟のような広大な塔は、街のどこから見ても壁のように聳え立っている。


 夜になると、その頂上は灯台のようにぼんやりと光を放ち、街全体を微かに照らす。


 あそこには全く別の街があると誰かが言っていた。


 百メートルを超える高層の建物がいくつも並び、その屋上にはプールがあり、宝石のように光る景色を見下ろすことができる。


 この街の人々はそこで暮らす方法を知らない。


 唯一の頼りは——金さえあれば、その世界への扉が開かれるというものだった。


 成年は憧れを持っている。


 父と離れ離れになっても、友人に見捨てられても、恋人に恨まれても、この先自分が死ぬことになったとしても……彼が止まれる理由より、その思いは強かった。

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