現代ダンジョンでハーレムやるのは大変らしい
むらのとみのり
第一章 ハーレムの誕生
第1話 ダンジョンに落っこちた 1
「ハーレム、ハーレム、ヨーロレイヒー♪」
仕事が一区切りつき、打ち上げ帰りのほろ酔い気分で機嫌良く鼻歌を口ずさみながら家路を急ぐ俺の名は
独身オタク生活を謳歌しつつ、大手企業でぶいぶい言わせているスーパーなプログラマだ。
大きなプロジェクトを終えた俺は、今日から二週間のロングバケーションなのである、でゅふふ。
なんかあったら呼び出されるので遠出はできないのだけど、どうせ積んでたゲームをこなして過ごすつもりだったので問題ない。
「なにからやろっかなー、やはり本命は『ハーレム王、暁に死す』かなあ、前作の『七人のハーレム王』は最高だったしなあ」
タイトルからわかるように俺はハーレム物が大好きだ。
エッチな方が良いが健全でもハーレムなら何でもありだ。
ハーレムに貴賤はないからな。
もっとも、ハーレムを全面に押し出してる作品はエッチなのが多いんだけど、エロゲ全盛だった一昔前と比べると、どうにもタマが少ない。
ソシャゲなんかだとヒロインの頭数は多いものの、あんまりハーレム感ないのが多いんだよなあ。
アレはどっちかというとアイドルグループの推し活に近いんじゃなかろうか。
むしろ、今じゃネット小説系の方がハーレム物は充実してるんだよな。
ゲーム屋の端くれとしては、もうちょっとゲームにもがんばってほしいぜ。
俺の仕事はゲーム会社のプログラマーなんだけど、海外資本のリアルダンジョン系でギャル要素がほとんど無いのが玉に瑕。
リアルダンジョン系ってのは、あれだ。
ちまたを騒がせているダンジョン、すなわち十年前に突然出現した謎の異空間をモチーフにしたゲームだ。
今じゃ現代社会と切っても切れない存在であるダンジョンだが、俺はダンジョンそのものにはあんまり興味が無い。
ゲームはともかく本物のダンジョンにはちょっぴりトラウマがあって、ノーサンキューなのだ。
とにかく休暇はゲーム三昧だぜー、と軽快なステップで近道の路地に入った瞬間、スコーンと地面が抜けた。
え、なに、マンホール? 地面陥没?
俺の問いかけに応えるものは無く、深い闇の中にどこまでも落ちていくと、ぐちゃ、と言う音と共に頭からなにか柔らかい物につっこんで、バウンドする。
そのまま弾き飛ばされた俺はとっさに受け身を取ったのだが、激しい衝撃に意識を失いかける。
「うぐっ……痛え、なんなんだ、一体……」
わけもわからぬまま痛む全身にむち打って、どうにか体を起こすと、目の前には金色に輝くでかい塊があった。
「ス、スライム!?」
サイズが普通のスライムより桁違いにでかいが、それ以外の特徴はまんまスライムである巨大な塊が、目の前でぶよぶよのたくっていた。
直径は2m程だろうか、形は特大サイズのビーズクッションと言った感じで、透明度のあるその体は、金色に光っている。
やばい。
スライム怖い。
いくら世間で最弱モンスター扱いされていても、俺はスライムが苦手なんだよ!
距離を取りつつ、周りを見渡すとここは石組みの部屋で、高さ五メートルほどの天井には小さな穴が空いている。
部屋のサイズも同じく5メートル四方といったところだろうか。
足下には崩れた瓦礫が飛び散っていた……。
まじでやばい。
マンホールから落ちたのでもなければ、ただの陥没でもない。
俺はダンジョンに落ちたのだ。
ダンジョンのできはじめた頃にはこうした事故が多数発生していたそうだが、まさか自分が巻き込まれるとは。
いや、ここがダンジョンだ、なんてことはわかりきっている。
だって目の前にスライムが居るじゃないか。
やばいやばいやばい。
血の気が引いていくのが自分でもわかる。
かつてのトラウマが蘇る。
ガキの頃から近所の道場で剣術を習い、人間相手なら敵無しとうぬぼれていたこの俺が、一般に開放されたばかりのダンジョンに挑んだ時のことだ。
女子供でも倒せると評判のスライム相手に死にかけた、あの忌まわしい記憶がまざまざと蘇る。
顔に張り付かれて呼吸ができずにパニックになったあげく、デート気分で一緒に行った女友人達の前で粗相までしちゃったのだ。
まったくもって、思い出したくもない。
取り乱してお漏らしした俺を見下すようなあの子の眼差し……、今思い出すと、あれはあれで、悪くないな。
いやいや、そんなことを言ってる場合じゃないだろう。
でもちょっと心に余裕を取り戻せたかも。
ちなみに俺は、主人公がちょっと残念で呆れられたり尻に敷かれたりするタイプのハーレム物が一番好物だ。
なんか共感しやすいので。
いや、今はそれはどうでも良くて。
とにかく、ひとかどの剣士だと自負している俺が、スライムなんかに負けた理由は簡単だ。
俺にスキルが無かったから。
スキル無しではどれだけ武術を納めて強かろうとも、ダンジョンのモンスター相手にダメージを与えることはできないのだ。
当時はまだ、スキルの発現条件が判然としておらず、モンスターと戦えばなんとなく生えてくると考えられていた。
そんな状況で腕に覚えのある俺は調子に乗ってスライムに挑み、スキルが生えずにケチョンケチョンにやられたわけだ。
そんなわけで、未だスキルの無い俺にとって、この状況が絶体絶命の大ピンチであることは間違いない。
逃げだそうにも、部屋の出口とおぼしき扉の前には、どでかスライムが陣取っている。
となると、やっぱり助けを呼ぶしかないよな。
やっとそのことに思い至った俺は、慌ててスマホをとりだすが、スーツのポケットに入れていたスマホは液晶がバキバキに割れていた。
くそう、買い換えたばかりなのに。
それでも壊れてはいなかったので、どうにか操作して110にかけようとするが、やはり手が震えてうまく操作できない。
なんとかコールしたものの、無情にも圏外だと抜かしやがる。
実際にアンテナは一本も立っていない。
そういえばダンジョンって奴は、電波が届かないと聞いたことがある。
いや、まて。
そうだ、ダンジョンアプリ、あれならダンジョンでも繋がるはず。
震える手でヒビだらけのスマホを操作する。
最近スマホに搭載が義務化された、ダンジョン内でのネットワーク機能のおかげで、専用アプリからなら通信も可能だ。
たしかダンジョン内に充満する魔力を媒体にしてどうこうとか……、いやそれはどうでもいい。
初めての起動で、ユーザー登録の画面が出てくる。
そんなことしてる暇はねえだろ、なにか非常用の連絡先が……あった、緊急連絡用ってのがあるぞ。
効きの悪いタッチパネルを操作してどうにか呼び出す。
しばしの呼び出し音の後、若い女の声が響いた。
「こちらダンジョン協会大阪支部、緊急コールセンターです、事件ですか、事故ですか?」
「じ、事故です。ダンジョンに落ちたみたいで、め、目の前にスライムが!」
「落ち着いてください、スキルはお持ちですか?」
「な、ないです!」
「ではスライムの色は、形状は?」
「えっと、なんか二メートルぐらいで、金色に光ってて」
「二メートル!? それは襲ってきていますか?」
「いや、今はまだ。でもなんか、ぷるぷる震えて、こっちを威嚇してるような」
「周りの状況はわかりますか?」
「えっと、暗くてはっきりとは。なんか石組みの小部屋で、五メートル四方ぐらい、扉は一つで、スライムが塞いでる感じです」
「あなたは怪我はしていますか、どこか痛むところは?」
「痛みは、あちこち痛いけど、怪我って程では」
「そうですか……あなたの現在地を確認できました。落ち着いて聞いてください。あなたは現在、未知のダンジョンにはまり込んだようです」
「やだーっ!」
我を忘れて思わず叫ぶ。
未知のダンジョンってことは、助けが期待できねえってことじゃねえか。
「お、落ち着いて、スライムを刺激しないように、こちらの指示に従ってください」
「だ、だって未知のダンジョンって」
「大丈夫です。現在地の絶対座標は取得できています。こちらの指示に従い、アプリを操作してください」
「は、はい」
「まず、お名前をお願いします」
「あ、ええと、
「はい、ええと、探索者登録はされていませんね。スマホにマイナアプリは入ってますか?」
「あ、一応はいってます」
「こちらでリモート処理してもよろしいでしょうか」
「は、はい、お願いします」
「スマホ画面に認証を求めるメッセージが出ているかと思いますが……」
通話越しの指示に従い操作を進めると、
「そのアプリには、現在位置のプロットとセンサー機能がついています。しばらく待機していれば、自動で情報が……あ」
「あ? あ、ってなんですか、あ、って!」
「あの、マップのタブをクリックしていただけますか」
「マップ? ああ、これかな」
スマホを操作すると画面が切り替わって、黒地に青いマス目のマップが表示される。
中央に青い光点があり、その周りに赤い光点が無数に光っている。
「へー、これフレームとかゲームのミニマップと同じなんですね……ってことは、この赤点って」
「ああ、ゲームをプレイされてるんですね。そうです、その点はすべてモンスターになります」
つまり、俺の周りは右も左もモンスターだらけ……ってこと?
「やだーっ!」
絶望的な事実を突きつけられた俺は、思わず全力で泣き叫ぶのだった。
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新作の現代ダンジョン・ハーレム物です。
初日は五話を逐次公開、続きは当面、毎日更新しますので、気に入っていただけたら星、いいね等応援よろしくお願いします。
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