会社の同僚に紹介してもらった男と会う前に女友達とワンナイトラブした話
愛内那由多
プロローグ
高校生のときから付き合っていた彼女がいた。
同じ女子高に入学して、高校2年生のときに付き合いはじめた、社会人1年目の22歳まで続いた。
結局は別れてしまったけれど。
その彼女と半年前に再会した。
少し大きな都内の駅で歩いていた。
さすがに都内だけあって、なんでもそろっている。服、家具、日用品、電化製品、寝具、ちょっと高いブランド品から、もう手が出ないようなブランド品まで。
久々になんでもある町に来たな~、とか思って、人ごみを縫うように歩いて、信号に引っかかった。
道路の向こう側を見ると、見覚えのある女性がいた。
フレアスカートを履いて、優雅にトレンチコートを羽織っている。
雰囲気が変わってしまった。学生のときは、皮のジャケットを愛用していたのに。柔らかい印象になったなって。
信号が変わってから、交差点を歩き始める。彼女と目があって、向こうもわたしのことに気が付いたんだろう。お互い、車道の真ん中で立ち止まる。
「久しぶり――
彼女は軽く手を振りながらいった。
「久しぶり、
運命のいたずらというか、嫌がらせみたいな再会をしてから、わたしたちはカフェに向かうことにした。話したいことなんていくらでもある。
なんでわたしはフラれたの?
そして、できるのであれば、よりを戻したかった。
だって、誰よりも好きな人だったんだから。
カフェに席はほぼ埋まっていたし、にぎわっていた。それに、客層が高校生から、働き盛りのビジネスマン、お局様と呼ばれてそうなOLととても広い。わたしの町では家族連れしかいないのに。
わたしたちは注文を済ませてからふたり席に座った。
「で、叶華はいま、なにしてんの?」
「いや、同じ会社で仕事してて……」
今でも、人事として働いていること、最近見たドラマの話、インディーズのライブに初めて行ったとか近況報告する。
けれど、柚希の態度は悲しいくらいに、冷たい。わたしが話してるときくらい、スマートフォンを見るのはやめて欲しかった。
柚希は最近は仕事が忙しくなりそうだとか、社員がやめてしまったので引継ぎが大変だとか、仕事が単純につまんないとか。そんな仕事の話ばかりだった。
変わってしまった。
昔は、もっと趣味のファッションブランドや、コスメの話をしていたのに。
「叶華は、結婚とか考えてる?」
「ムリでしょ?」
わたしは女の子しか好きになれない。だから、考えたことはあっても、現実的に不可能って結論が出る。
同じ結論しか出ないことに、何度も悩みたくない。その回数は減らしたい。
「女の子しか、ダメなんだ?」
「ダメっていうか、なんというか……」
男の人と仲良くはなれる。けれど、それは友情であって、恋愛感情じゃないことは確かなのだ。
「でもさぁ。もう、同期とか結婚してない?」
「何人かは……」
「そうなんじゃん。これでいいのか~とか、思ったりしない?『私いま、遅れてるんだ~』とか、『置いていかれる~』とか思ったり?」
思ったことがある。結婚と同じかそれよりも多いくらい。
自分だけが、取り残されていく不安。置いていかれる不安。今は全員が結婚してるわけじゃないけれど、でも、そのうちみんな、わたしから離れていくって思うこともある。そして、そのとき、隣に誰もいないんじゃないかって。
それが、とても、怖いことも。
「でも、今、それなりに幸せだし……。別にいいかなって」
『それなり』なのは、貴女が欠けたから。だから、それを取り戻したいと思っている。
「『今が幸せ』なんて、そんなに長く続かないでしょ?」
「そうかな……。今の幸せが続けばいいとは思うけどね?」
そもそも、自信満々に『今幸せです』っていい切れる自信はない。でも、幸せを長く続かせたいとは思う。
「私は確証が欲しい」
その言葉にすべての責任と、信条を乗せて宣言するかのようだった。
「だって、『今の幸せ』が続かないかもしれないって不安と向き合い続けるの、イヤだしねぇ」
「……それが、わたしがフラれた理由?」
口の中の水分がなくなって、舌を動かすのも億劫で、全身の筋肉がこわばっていた、が聞かないという選択肢はない。
「叶華には悪いと思ってる。でも、私はどっちも大丈夫だから」
どんなに幸せでも、いつか終わる。
だから――自分の手で、終わらせた。
彼女のことを好きだった。でも、なにもわかってなかった。
どこに幸せを感じていたのか。なにに不安だったのか。
わかってあげてない。寄り添えなかった。
だから――フラれたのかな?
頭の中で何度も彼女の言葉がリフレインする。
それを終わらせたのは、
「柚希!!」
と呼びかける、大声だった。
店内に入ってきて、レジで注文もせずにわたしたちのテーブルに男がやってきた。ワックスでツンツンにした髪を揺らして、デニムジャケットを着ている。
「叶華、紹介するね。今の恋人の――
佐々木は軽く頭を下げた。
「佐々木です!よろしくお願いします!」
元気はつらつ。きっと元運動部だったんだろう。
「玲、この子が、
「ども」
と短く答えた。
彼が『佐々木玲くん』、で、わたしが『相京叶華』。
無意識にそう呼んだんだろう。でも、無意識だからこそ、もうそこには絶対に超えられない溝がある。
「じゃあ、これで私たちはもう出るよ。ティファニーに行かないといけないから」
そういって、柚希と佐々木は店から出ていった。買いに行くのは指輪なんだろうなって勝手に妄想する。
左手の薬指に指輪を付けた柚希を想像する。吐き気がした。
……。
窓の外を見た。
そこには今店内を出ていったばかりの、柚希たちがいた。
幸せそうなふたりが見えた。
腕を組んで、指を絡めて。
それがたまらなく憎っかった。
自分の人生にそれなりに満足はしていた。お金に困らない仕事について、好きなときに好きな音楽や映画を取り込んで。いろんな仲間にも恵まれて。
けれど、そんなささやかな幸せになんの価値も見出せなくなってしまった。
わたしだけが取り残されているような感じ。
現にこうしてカフェに取り残されている。
窓の向こう側にある、誰かと一緒にいるという幸せがわたしにはないの?
この取り残される不安と戦い続けないと、ダメ?
そして、それが現実になるのを、だんだん、少しづつ実感して、受け入れていくことしかできないのかな?
いや……、違う。違った。
わたしがイヤなのは、上からものをいわれることだ。
わたしがなにをしても、文句はいわせない。どんな恋人がいても、文句をいわせない。そういう立場がいるんだ。
そうすれば、こんなに屈辱的な思いはしなくて済む。
窓ガラスを触って、その冷たさを受け入れる。
だったら。
だったら、わたしの人生に結婚が必要だって、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます