第6話 AI警察 vs 伝説の怪盗(元・怪盗)
【1. 予測されすぎる世界】
——予測犯罪率:99.87%
——行動開始予想時刻:22:14
——対象人物:鳴神レイジ(元・通称:怪盗クロウ)
警視庁AI犯罪対策課、通称「AIPC」。
そのディスプレイには、ひとりの男の犯行計画が事前に浮かび上がっていた。
鳴神レイジ、齢48。
かつては“芸術的な盗み”で名を馳せた伝説の怪盗。
美術館、銀行、国家機密データセンターさえ、彼の手にかかれば跡形もなかった。
彼は「盗む」という行為を、一種の芸術行為としていた。
だが今、その“芸術”は死んだ。
すべての犯罪はAIが先読みし、未然に防がれる時代。
彼のような“職人”は、すでに絶滅寸前だった。
【2. 保険課に現れた伝説】
「……で、あなた、職業が“怪盗”?」
AI失業保険課の職員は、目をぱちぱちと瞬かせた。
黒いスーツに身を包み、赤いバラのブローチを胸に飾った鳴神が、堂々とカウンターに座っている。
「そうだ。“泥棒”と言うなよ。俺のは、人の心を盗む芸術だった。」
「いや、犯罪です……よね? 正真正銘の。」
「もう足は洗った。いや、洗わされたと言った方が正しいか。」
レイジは寂しげに笑った。
彼の最後の“盗み”からすでに8年。
すべての侵入経路は監視され、行動はAIに予測され、**“犯行前に逮捕される”**という滑稽な未来。
「この国では、“自由意思の盗み”すらもう許されない。」
【3. 伝説のリベンジ計画】
「一度だけでいい。俺に“盗む自由”をくれ。」
鳴神は、かつての予告状を手にとった。
そこには、かつて彼が何度も送りつけていたあの一文があった。
『月が満ちる夜、至高の一品を頂戴に参る。
怪盗クロウ』
彼が狙うのは、警視庁地下に封印された“AI警察の中枢データバンク”。
そこには、彼の過去の手口、行動パターン、心理傾向までもが解析されて保存されている。
つまり——**自分を完全に封じ込めた“未来予測の檻”**だ。
「それを盗めば、俺はもう一度、“未知の存在”になれる。」
【4. AI vs 感情】
深夜2時。
警視庁地下深く、すべてのセンサーは完璧に作動していた。
ドローン、レーザー、感情センサー、赤外線、匂い検知。
だがその中を、鳴神はまるで煙のようにすり抜けていった。
理由は単純。
AIが予測するはずの“目的”がないのだ。
彼は盗みに入ったが、盗もうとしていない。
目的のコードには一切触れず、ただあるデータを“閲覧”しただけだった。
——自分の行動履歴と、AIによる“再構成された人格モデル”。
その中には、“鳴神レイジという人間の全て”が理屈で解き明かされていた。
「次に彼は、虚無感を得るだろう。なぜなら、彼のすべては予測可能だからだ。」
だが、その時、鳴神はある行動をとる。
「データにキスをして、去った」
AIは困惑した。
——これは、感情か?
——これは、行動目的に一致しない。
【5. “盗まれた”のは、AIだった】
数日後、全国ニュースがざわついた。
《AI中枢データ、機密ファイルが“閲覧のみ”される事件発生》
《犯人の目的は不明。盗まれたのは、データではなく……“何か”》
一方、失業保険課には奇妙な書類が届いていた。
【職業】:演出家
【備考】:盗むのではなく、演じる。
【次回作】:“予測されない男”
保険課の職員が呟く。
「……これは、AIが“彼に盗まれた”ってことですかね?」
【6. その瞬間だけ、未来は白紙だった】
鳴神レイジは、今もどこかで新しい芸術を描いている。
盗みという枠を超え、予測という檻を破り、**“未来に自由を取り戻す”**ために。
彼がAIに勝ったのは、技術ではない。
論理でもない。
——それは、意味のない行動に、意味を持たせるという“人間の曖昧さ”だった。
そして、今日も彼は予告状を残す。
『AIには予測できない“人間の矛盾”、いただきに参る——怪盗クロウ』
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