聖女なのに追放されましたが追放した王子が色々なものを失っていました
サドガワイツキ
聖女の追放
第1話 掌返しと冤罪婚約破棄
「聖女ネモネ、お前との婚約を破棄する!……二度と俺の前にその姿をみせるな、失せろ!!それがお前の身の為だ」
子どもの頃から親同士の決めた婚約者であり幼馴染でもあるリック王子が、一切の感情の失せた冷徹な顔で私を見下ろしながら婚約破棄と追放を宣言するのを呆然としながら聞いていた。
此処―――聖王国の王の間―――には王や貴族や大臣たちも皆揃っていて、その場にいる誰もが突然の展開に唖然としている。
それだけでなく、共に旅をした剣聖ジョージや王子の愛剣で意志を持つ聖剣ラヴリオン達も事の成り行きを黙って見守っている。
今、この場に自分の味方は誰もいない、その絶望に足が震えて力が抜けそうになる。
「何故ですかリック様?!そんな急に、いったいどうして――――」
「フフフ、ごめんなさいねぇ、聖女様」
リック王子への問いかけは、王子にしなだれかかりながらクスクスと笑っている銀の長髪に褐色の妖艶な美女に遮られた。確か、最近王宮で働きはじめたサイラと言う神官長だった筈。べたべたと王子の身体を撫でまわしているけれど王子はそのすべてを黙って受け入れていて、その姿は、仲睦まじく愛し合う2人の姿にしか見えない。何より、嘘をつくのが下手な王子が放った辛辣な言葉は私の心を抉った。
「俺は今目の前にある真実の愛を選ぶ。そう言う事だ、ここにお前の居場所はもうない」
一方的にそう告げると、王子は兵士に銘じて私を王宮からつまみ出し、それどころか王都からも追放された。
都の外に連れ出された私は、これをもってどこへなりとも行くが良いという王子からの伝言と共に一生遊んで暮らせるであろう少なくない枚数の金貨の詰まった革袋を渡された。
……この日、私とリック王子の10年以上に及ぶ関係は終わりを告げたのだった。
王都を追放されたものの、先の戦いで両親を失い帰るところを失くしていたので行く当てもなくとぼとぼと街道を歩いていたけれど、親切な行商の馬車に載せてもらう事が出来たので、古い友人のジェディーが研究をしている僻地の森の塔に向かう事にした。
リック王子と私は親同士が決めた許嫁で、先代の王と私の父は主従でありながら無二の親友であったことから、私はリック王子の婚約者となっていた。
王子は成長するにつれて見目麗しい美男子へと成長し、容姿だけでなく剣についても優れた才能を持っていた。
私はというと見た目は王宮に出入りする他の令嬢のように美しくはないけれど、聖なる癒しの力を使う事が出来る“聖者の加護”という希少な力を持っていたので、聖女として国務に励むリック王子を一生懸命に支えていた。
物心がつくころから一緒にいて、お互いを想い合っているのだと、そう信じていたのだ。
ここ数年国内外を騒がせ始めた、封じられた太古の破壊神を世界を救う大いなる存在として崇拝し復活をもくろむ邪教団を看過できないと討伐に赴くと言った時も、勿論その旅に同行した。
道中で知り合った剣聖ジョージを仲間に加えて、旅を続ける中で、王子は古の英雄が使っていた意志を持つ聖剣ラヴリオンの担い手として選ばれ、その活躍を観たり助けた人たちからは“勇者”とも呼ばれるようになった。
そして私たちは2年にも及ぶ旅の末に邪教団の本拠地を制圧し、打ち滅ぼすことに成功した。破壊神を召喚しようとしていた儀式を阻止し、平和を守れたことに安堵しながら王国に戻ってきて暫くした私を襲ったのは突然の掌返しと王子の豹変、そして王子の隣に立つ美しい神官・サイラの存在だった。
王の間に呼び出された私は覚えのない罪状を幾つも並べ立てられてこうして追放に至っている。
そんな急な事態についていけず、呆然自失になりながらジェディーの下を訪ねると、ジェディーはボロボロになった私を優しく迎え入れてくれた。少し癖毛の明るい茶色の髪に白衣を纏った魔法の研究者で、顔の半分くらいはある大きな眼鏡が特に目を引く。ジェディーは元々は貴族の令嬢だったけれど恋愛や結婚よりも新しい魔法を開発する事にしか興味がなく、王都から離れた魔法の塔にこもり怪しい魔法の研究をしている。研究成果を実家に提供し家の手柄とすることでこうして自由に暮らすことを勝ち取ったという我が道を往く女子なのだけれど、王都の魔法学校に通っていた頃からの大切な友人なのだ。
邪教団との戦いでは、ジェディーの発明や新しく開発した魔法にも何度も助けられたっけ。
ジェディーに事のあらましを説明していると、子供のころからこれまでの思い出や、辛く苦しい事もあったけれど平和を護る為と力を合わせた旅の記憶を思い出して涙が出て来た。
私の話を静かに聞いていたジェディーは、私の言葉が止み全てを聞き終えると、クイッと眼鏡を指で持ち上げてから静かに言った。
「これは……巷で流行りの物語でよくみる冤罪断罪婚約破棄的なアレね。
まさか現実で、しかも国の王子様がそんな事をしでかすとは思わなかったけれど。あれだけネモネにベタ惚れだった王子がそんな掌返しをするなんて……穏やかじゃないわね」
そう言いなが、右手の人差し指で空中に魔方陣を描きはじめるジェディー。
「ま、とりあえず遠隔遠見の魔法で王子様のプライベートを盗撮してみましょうか」
「えぇっ?!盗撮って犯罪じゃない!」
「こまけぇことはいいんだよ!というか幼馴染の婚約者に冤罪ふっかけて追放する様な男にプライバシーも何もいらないわ、恥ずかしい秘密や痴態でも撮れたら暴露してざまぁしてやればいいのよ」
ジェディーは右手で遠隔遠見の魔法を、左手で映像録画の魔法を起動し始める。魔法学校に通っていた頃から稀代の天才として謳われていた才女なので、当たり前のように同時に複数の高度な魔法を発動できるのは凄いと思うのだけれど倫理観仕事して!慌てて止める間もなく発動した魔法が、荒い呼吸で肩を上下させるリック王子の裸の上半身が映された。
「あんっ、……顔に似合わず激しいのね、リック王子♪」
―――蕩けるような、サイラの声と共に。
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