第29話『下校準備中、ランドセルが勝手に動き出した』

 5時間目のチャイムが鳴って、

 先生が「今日はこれで終わりです」と言った瞬間――

 僕のランドセルが、勝手にガタガタと動き始めた。


 


「おい、ちょ……止まれって!」


 


 あわてて捕まえようとするけど、

 イスの足にからまりながらランドセルはヨチヨチと自分で歩き出す。



 ***


「おまえ、何だその自主性……!」


 


 周りのクラスメイトは大爆笑。

 でも僕はもう必死。

 だってランドセルの中には宿題も、給食袋も、将来の夢も詰まってる(かもしれない)んだから!



 ***


「藤原のランドセル、ついに自立したらしいぞ〜!」

「うちのも自我持たないかなぁ〜」

「うちのランドセル、まだしゃべれない……(泣)」


 なんだその会話。


 


 他のランドセルはただのカバンのくせに、

 僕のやつだけ**“しっかりした背中”で教室をあとにしていった。**


 


 ――そして、廊下を右折。



 ***


 先生にも事情を説明しようとしたけど、

「荷物が自分で歩いた?疲れてるんじゃない?」って相手にされず、

 ランドセルはその間に下駄箱エリアを突破。



 ***


 とうとう僕は――靴を履く前に校門をダッシュで出た。


 


 ランドセルを追いかけて。



 ***


 ところが、その日限りじゃなかった。


 次の日も、ランドセルは帰りの準備中にそっと動き出し、

 靴ひもを結んでる僕を置いてスタスタと歩き出す。


 


 しかも日を追うごとにスピードが上がってる。

 先週なんて信号で先に渡ってた。


 


「ついにランドセルが社会に出たぞ!」

「今日なんて横断歩道で一礼してた」

「うちのランドセル、まだハイハイです……(泣)」


 だから何その育て方。



 ***


 先生がたまりかねて言った。


「一度、ランドセルとしっかり話しなさい」


 


 いや、それ物理的に無理では?



 ***


 でも、ある日。

 帰ろうとしたら、僕の机の上に小さなメモが置かれていた。


 


「ぼくは ちゃんと自分で歩ける。

 でも君の“背中”になりたいのは、本当だよ。」




 


 その文字は、筆箱に入れていた黒ペンと、僕の筆跡だった。


 


 ランドセルは、今日も歩く。

 僕の代わりに、少しだけ先へ。



 ***


 完(明日も一緒に、帰ってくれますか?)

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