第19話『下駄箱から塩辛の視線を感じる』

 ここ数日、学校に来るたびに、

 下駄箱の中が――なんか生臭い。


 魚っぽいというか、イカっぽいというか、

 そう、つまり……塩辛の匂い。


 ***


「誰か弁当に持ってきてんのかな〜」って思ってたけど、

 よく考えたらそんなヤツいない。


 うちのクラス、そこまで攻めた発酵派いない。


 ***


 で、今朝。


 いつも通り、下駄箱を開けたら――


 視線を感じた。


 ***


 中には何もない。

 靴も普通。新聞紙もある。


 でも、“視線だけ”が残ってる感じ。


 ***


「おまえの靴……しょっぱそうだな……」


 ――誰かが、そうささやいた気がした。


 ***


 その日から、少しずつ異変が増えていった。


 靴の中に塩がまかれていた


 体育の後、イカの切れ端が出てきた


 美術の時間、絵の具が“塩辛色”に染まった


 ***


 ついに、誰かが見てしまった。


 夜の昇降口で、下駄箱の奥からにゅるっと這い出る塩辛を。


 しかも、名札をつけていた。


「しおから様」


 ***


 彼は言った。


「もう、帰る場所がないのだよ……。

 わたしは昔、“給食の小鉢”だった。誰にも食べられず、捨てられ……」


「捨てられた者は、“靴”に宿る。おまえもいずれ、ネチネチになる……」


 ***


 今では、生徒たちの間でこう言われている。


「下駄箱に小さいタコの足が落ちてたら、しおから様が近い」

「その日、体育は見学した方がいい」


 ***


 完(今朝の靴下が、ほんのり海の味だった)

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