魔眼の使徒 ー妹が魔眼テロ組織のボスになったので、兄である俺が終わらせるー

ドラゴンスキー

再始動の魔眼

プロローグ 魔眼事件

そこは地獄の光景が繰り広げられていた。

見渡す限りのビルが電柱が道路と歩道の間に植えられている植物がゴウゴウと音を立てて燃えていた。消防隊の「全然数が足りない!もっと消防車を用意しろ!」と怒鳴り散らす声や親とはぐれてしまったのかその場でしゃがみ込んで泣きわめく子供、そんな子供には目もくれず蜘蛛の子を散らすようにその場から我先にとばかりに逃げ出す市民達。そして12歳の僕は逃げ出す人たちにぶつかりその場に倒れ込んでしまった。ぶつかった大人は謝るばかりか「邪魔だ!」と振り返ることもせず走り去ってしまった。まあこんな地獄のような状況で他人を気遣える人は極わずかであろうと後から考えるとそう思った。


「うっ・・・・・・痛い・・・・・・」


倒れ込んだ時に膝をすりむいたのだろう。手で膝に触れると血が付いていた。


「がぁああああああああ!!」


一人の男が苦しそうに叫んでいる。

その人は2m近くある大柄な男で、頭痛を抑えるかのように両腕で頭を抱えながら痛みから逃れたいとばかりに頭を振り回している。

何を隠そう、その男こそがこんな地獄のような惨状を作り上げた犯人なのだ。いや、犯人だということはわかりきっているが、犯人と言うにはあまりにも苦しそうな声を上げていた。


「お前がやったのか!これでも喰らえ!」

「おい、バカ!?そいつに迂闊に近づくな!?」


大柄な男に突っ込んでいくのは一人の猟犬(ハンター)だ。【異能力者】の犯罪を解決するために日々訓練を重ねてきたハンターだから腕には自信があるのだろう。しかし相手が悪かった。仲間のハンターの注意でももう手遅れな位置まで近づいている。犯人の男に近づいたハンターは己の【異能】を解放して犯人を―――


「あぁああああああ!?俺に、近づく、なぁあ!!」


大柄な男の眼から熱を帯びた光線が放たれる。光線が突っ込んできたハンターに直撃し爆ぜた。


「グワァアアア!?」

「バカが!おい、こいつを下がらせろ!治癒系の異能を所有しているヤツは回復!急げ!まだ一般市民の避難も完了してねぇ!」


リーダーらしきハンターの声で周りのハンターも自信がするべき作業を続ける。大柄な男の眼から放たれる光線で街が燃えている。

僕は何もできずにその場に倒れふしたままだった。

なぜこんなことになってしまったんだろう。


「アァアアアアアアア!?」

「おい、こっちにも犯罪者がいるぞ!石化の魔眼だ!視界内に居続けると石にされる!」

「なに、そいつも【魔眼】持ちか!?」


声が上がった方向では20代後半くらいの女性が大柄な男と同じように苦しそうな声を上げながら近くにある人、物を無差別的に石にしていた。


「クソッ!迂闊に近づけねえ!」

「誰か遠距離攻撃できる異能をもったヤツはいねえのかよ!」

「ソイツはもう他当たってる!」

「なに・・・・・・!?コイツらだけじゃないって言うのか・・・・・・!どうなってやがる!?」


街が燃えている。

石化していく。

あちこちで事件が発生しているので市民達もどこに逃げればいいのか分からずに立ち尽くしている。


「誰か・・・・・・誰か助けてくれよぉ!」

「ど、どなたか私の子供を見ませんでしたか・・・・・・!?」


悲鳴。悲鳴。悲鳴。

警察もハンターも起きている事件の規模に対して人数が不足している。

信じられない。信じたくない。

こんな地獄を生み出しているのが自分の妹だなんて。

そんな。嘘だ。


ひとみ・・・・・・」

「や、お兄ちゃん」


妹はこんな状況の中、朝の挨拶でもするかのように軽やかに僕に声を掛けた。

目の前にいる妹の瞳を倒れたまま見つめる。腕に、身体に力が入らない。


「なんで・・・・・・」

「ん?なんでって、なにが?」

「なんで、こんなことを・・・・・・」

「ああ、そういうこと・・・・・・」


んーとねぇ、と晩ご飯のおかずを決めるかのように人差し指を顎に当てて考えている。


?」

「・・・・・・は・・・・・・・・・・・・?」


好きだから・・・・・・?

何を言っているのか理解できない。理解したくない。


「私の感性ってね、他の人とは全然違うんだよ。大切な物ほど壊したくなるの。お兄ちゃんは知らなかったよね?人とは違うって分かってたから昔から隠してきたんだけどね。もうそれも限界だったし」

「だから・・・・・・父さんも―――」

「そうだよ。お父さんもお母さんも殺した。大好きだったからね。あぁ、でも実際に殺したのは私ではないよ。

「・・・・・・・・・・・・」


父さんだけじゃなく、母さんまで死んでいるなんて。

その事実がさらにズドンと自分にのしかかってきてさらに身動きが取れなくなる。

これは、夢だ。悪い夢。


「ふふ、夢じゃないよ」

「え・・・・・・?」

「お兄ちゃんが考えていることはなんとなく分かるよ。お兄ちゃんは私が考えていることは全然分からなかったみたいだけどね。夢だって思いたいんでしょ?これは悪い夢で、起きたら元通りの生活が待ってるって」

「・・・・・・」


夢、じゃないのか。これが。

こんな現実が。


「私は他の人とは違うの。おかしいの。異常なの。どうしようもなくね。でも自分でもこれは悪いことだって、ダメなことだって理解できるよ?だからね―――」

「――――ッ!?グゥッ!」


妹の目と自分の目が見つめ合い、視線を交える。すると身体の内の芯から燃えるような熱さが己の身を包む。

熱い。熱い。熱い。

自分の身体が炎になってしまったような感覚を覚える。


「―――だからね、お兄ちゃんは殺さないであげる。


身体が熱い。痛い。重い。

ハンターも警察達も周りの対応に追われていてこちらに気づいていない。

だから、僕が―――俺が止めないと。兄である、自分が止めなければ。

そう思うのに。身体はまったく言うことを聞かない。


「瞳・・・・・・行くな・・・・・・!」


手を必死になって伸ばす。

だけど、まったく届かない。妹の瞳にはこの手は、言葉は届かない。


「じゃあね、お兄ちゃん。いつか私を止めに来てね?でないと―――」




―――愛おしいこの世界をきっと私は壊してしまうから。





そう言い残してステップを踏むかのような軽やかな足取りでその場から離れていく。

追わなければ。止めなければ。

しかし身体はまったく言うことを聞いてくれない。


「瞳・・・・・・!」


俺は妹のコトをまったく理解できていなかった。理解しようとも思ってもみなかった。

気づけなかった。気づこうともしなかった。

たくさんの後悔が胸を締め付ける。

でも、もう遅い。そんなことは誰に言われるわけでもなく自分で理解していた。


「瞳ぃいいいいいい!!」


俺の咆哮は事件を起こしている犯人の声、それを解決しようとしているハンターや警察、市民達の悲鳴によってかき消された。

地獄みたいな今日、この日は後にたくさんの魔眼の異能者達が暴れ回った【魔眼事件】としてニュースに取り上げられた。妹が関わっている可能性が高いということと俺の証言からこの事件の首謀者が俺の妹である新垣瞳であると断定され、指名手配された。



そして5年が経った今でも妹は見つかっていない。





「またこの夢か・・・・・・」


5年前の魔眼事件のことを俺の本能が忘れてはならないと戒めるように何度もこの夢を見させてくる。そんな夢を見なくともあの日を忘れてしまった日など一日もない。昨夜も事件の情報収集や整理を行っていたから目覚めが悪い。


「はぁ・・・・・・」


 それでも自分は学生だし、学校へ行かなければならないからいつまでもこうしてベッドにいるわけにはいかない。気持ちを切り替えてベッドから降りる。窓から差し込んでくる日差しが眩しく、外が良い天気であることを示している。

 いつも通りの朝のルーティーンとして顔を洗い、パジャマから学生服に着替えると、ゼリー飲料を飲んでから家をでた。家と言っても学内にある学生寮なのだが。

ここは日本三大猟犬ハンター育成高校の一つ、聖花せいか学園であり、対異能犯罪のスペシャリストとなる人材を育てるための学校である。異能とは、一人一人が持つ個別の能力のようなもので体内にあるエネルギーを消費して使用する身体機能みたいなものだ。体内にあるエネルギーについては魔力などとも呼ばれている。そのため魔力を使う技術であるなら魔法ではないかと言われているが、似たような能力はあっても同じ能力は存在しないのではないかと言われるほどに千差万別であるため、魔法ではなく【異能】と呼ばれることが一般的だ。異能を扱う人間のことを異能者と呼び、その数は8割以上の人間が異能者とされている。異能を扱えない人間は無能者と呼ばれているが体内には異能を扱うためのエネルギーが存在することはこれまでの研究により分かっている。聖花学園は異能犯罪を解決するための人材――猟犬ハンターを育てる学校の中では始めて作られた学校なだけあり長い歴史を持つ。学内にある施設を綺麗に保つだけではなく、一定期間ごとに新しい機能を搭載した施設に建て替えたりしているため古くささは全く感じない。むしろ最近出来た学園だと言われても納得できるくらいの綺麗さを誇っている。その学内に存在する寮とだけあって一人用にしては広い部屋が与えられているし、寮も綺麗だ。寮を綺麗にするために特別な【異能】を持った人を雇っているという噂があるが真偽は分からない。


俺―――新垣翔あらがきかけるもまた、妹が起こしている魔眼事件を追い。妹を止めるために猟犬ハンターとなるべく日々鍛錬を積んでいる。


部屋の鍵を閉め、戸締まりをし終わったところで右方向から声を掛けられた。


「おはようございます!翔くん!」

「おはよう、玲奈れな。・・・・・・ここ男子寮だぞ」

「・・・・・・?知ってますけど?」

「・・・・・・・・・・・・」


おかしいところでもあります?とでも言い足そうにきょとんとした顔をしているこの女の名前は樋口玲奈ひぐちれな。美しい金糸で出来ているかのような金髪が黒を基調とした学生服の襟当りまで伸びており、肌は透き通るかのように白いく、学内でも美少女であるため人気がある。制服は着崩すことなくピッシリ着ていることから真面目な性格だということは分かるが、なぜ男子寮に・・・・・・・。まあいつものことだが。


「朝はもう食べたんですか?」

「ん。いつも通りゼリー飲料飲んできたよ」

「だと思った!だめですよ、朝はしっかり食べないと!一日のはじまりなんですから!」


お母さんかな?


「翔くんがそういうと思って・・・・・・」


鞄からごそごそと何かを取り出そうとしている玲奈。俺が朝に弱いことは玲奈にはもうバレているから、朝ご飯でも作ってきたのだろうか。確かに俺は朝ご飯を作ったりする時間があるならギリギリまで眠って起きたいタイプの人間ではあるが。


「おにぎりを作ってきたんです!」

「お・・・おぉ・・・・・・」


すごく・・・・・・大きいです・・・・・・。

爆弾おにぎりでもこんなにおっきいおにぎりは見たことないぞ。両手でしっかり持たなければ落ちそうになるおにぎりってなんだよ。


「あ、ありがとな、玲奈。でも、俺、朝は―――」

「食べないんですか?」

「―――ゼリー飲料は飲んだけどまだまだお腹減ってるしいただこうかな」


食べないんですか?と言われたときすごく目つきが怖くなったぞ。食べないって言ったらどうなっちゃうんだろう?彼女の【魔剣】で切り裂かれちゃうかな。いただくといったからには受け取らなければなるまい。


「だけどどこで食べようか?」

「翔くんの部屋でいいと思いますけど」

「いや、そこのベンチにしよう!うん!今日は天気が良いしな!そうしよう!」

「翔くんがそう言うなら、分かりました」


あ、危ねえ・・・・・・。

玲奈が部屋に入っていくところなんて他の男に見られたら最悪血祭りに上げられるかもしれない。それだけは阻止しなければ。

ということで部屋前から寮近くのベンチまで移動してきた。


「どうぞ」


受け取った手にズシンとおにぎりの重さを感じる。

・・・・・・この重さはおにぎりから感じていい重さではないと思うんだけど。

ごくりとつばを飲み込む。

いつまでもこうして初々しいカップルのごとく見つめ合っている訳にもいかないか。


「い、いただきます」

「はい、いただかれます」

「・・・・・・」


その反応はおかしくないですかねえ?でもここで突っ込んだらもっと面倒なことになるという俺の本能に従い何も言わずにパクりとおにぎりを一口食べる。


「どうですか・・・・・・?」

「うん、おいしいよ」

「本当ですか!?」


よし!とガッツポーズを取る玲奈。

いや、本当においしいよ。絶妙な塩加減と握り具合だ。おにぎり検定があるなら一級あるだろうと確信が持てるほどの出来だ。この味ならいくらでも食べれそうだ。気分的には。


「一杯あるのでお腹いっぱい食べてくださいね」

「うん・・・本当にいっぱいあるね」


パクパク食べても終わりが見えないぞ。

俺が巨大おにぎりと格闘しているとふと背後から気配がした。


「・・・・・・ッ!誰!」


玲奈が勢いよく振り返り、その手にはいつの間にやら剣が握られている。

これが彼女の異能である【魔剣創造】である。体内にある異能を扱うためのエネルギー(魔力)を消費することにより具現化したり消したりすることができる。魔力があれば持ち運ぶ必要がない武器と言うことだ。

玲奈が剣を向けた先には学園に埋められている桜の木がある。気配はその後ろからしたのだ。まあ俺には誰かは予想がつくが。


「お、おい。落ち着けよ。俺だよ俺!」


ぼけてきた高齢者に対して行うオレオレ詐欺のような台詞を吐きながら桜の木の後ろからバッと飛び出してきたのは身長180cmちょいあるツンツンとした髪型が特徴な男であった。


「・・・・・・誰だ?」

「・・・・・・誰ですか?」

「ちょ!おい2人とも冗談きついぜ!俺だよ、境宏人さかいひろと!忘れたのか!?」


俺の予想は当たっていたらしく友達である宏人だったようだ。宏人は俺の部屋のお隣さんであり、高校からの付き合いだが2年生となった今ではもう1年以上の付き合いになるのか。時間が経つのはあっという間だな。宏人は明るく元気な性格だがノンデリなところもあり彼女はいない。相手が宏人だということを確認して玲奈は魔剣を消した。


「ああ、思い出した。おはよう、宏人」

「ええ、思い出しました。おはようございます、境くん」

「俺の扱い雑くねーか・・・・・・?」


そんなことないぞ。


「んで、どうしたんだよ、朝っぱらから」

「いや、部屋を出たらお二人さんが仲良く、男子寮の近くで、朝ご飯を食べていらっしゃるから、これはもう覗くっきゃねーだろ!と思ってな」

「思ってな、じゃねーよ」


確かに玲奈は美少女で男子どもからの人気も高い。俺なんて妹が指名手配されている犯罪者だから風当たりが強く、中学の時から友達なんて玲奈くらいしかいなかったけど最近では俺の活動や活躍が認められてきてそこまでキツいことを言われなくなってきたが、言われることもある。まあ最近のは犯罪者の兄だからってより美少女である玲奈が傍にいることが気にくわねえ!みたいな連中だが。


「いいなあ・・・・・・樋口さんのおにぎり・・・・・・。美少女が握ったおにぎりを食べている気分はどうだぁ?」

「ふん?ふはひぞ(うまいぞ)」

「ちくしょー!なんでコイツばっかり!」


宏人は地団駄を踏んで悔しがっている。別に美少女が握っているから美味しいわけじゃないぞ。


「よかったら境くんの分も作りましょうか?」

「え、ホントですか!?今からですか!?」

「はい、そこに砂場があるので・・・・・・」

「まさかの砂おにぎりですか!?」


いや、遠慮しますと宏人は項垂れる。それを聞いた玲奈は「そうですか、残念です」と答える。ナチュラルに砂を食わせようとするな。

巨大おにぎりと格闘すること数分、なんとか俺のお腹に収まった。これで玲奈が飯マズ属性を持っていたら俺は耐えられなかっただろう。おいしいご飯をありがとう。次はもうちょっと量を考えて欲しい。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


きちんと手を合わせて言う。全ての食材には感謝を込めなければならないのだ。正直お腹がパンパン過ぎて動きたくない・・・・・・。


「でも、お二人さん。そんなにゆっくりしていていいのかい?」

「なんでですか?」


玲奈が疑問を投げかけたところでキーンコーンと始業を告げる鐘が鳴った。


「こういうこと」


「「あぁあああああ!!!」」


おにぎりを食べていたらもうそんな時間になっていたのか!!

くそ、気づかなかった!


「んじゃ、そういうわけで。また後でなーーー」


そう宏人は俺たち二人に言い残すと煙のように消失した。

境宏人、異能【二人以上の自分ドッペルゲンガー】。分身を作り出す力。どうやら俺たちといたのは分身で本体はとっくに登校していたらしい。やられた。


「くそ、宏人のやつ分かっててギリギリで教えやがったな・・・・・・!」


樋口さんのおにぎりを食えたんだから文句言うな!と宏人が聞いたら返ってきそうな恨み言を発しながらおにぎりでお腹いっぱいになっていた身体でなんとか登校したが当然遅刻だった。


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