第13話

大きな大きな光の矢。


長さは十メートルをゆうに超えているだろう。


まだ大きくなっている。


小さな蓄電池に全国から集めた電力が集まり、そこに両手を置いたミコトが届いた電力を同時に魔力へと変換させ、その魔力を使って頭上に光の矢を作っているのだ。


矢は電気を帯びているのか、耳を澄ますと小さくビビビという音が聞こえる。

まるで稲妻の矢だ。


海上ではパキ、パキッと壁が少しずつ壊れる音。


壁の高さが海面からかなりの高さがあるので壁の上から覗く触手しか見えないが、本体も恐らく近くまで来ているのだろう。


避難が終わったのか、堤防の向こう側からも流石に声は聞こえない。


波打ち際から離れた堤防の前には重火器類が再配置され、犬飼と自衛隊員達が陣列を整えている。


文字通り足を引っ張られないよう援護に徹する構えだ。


四人の側には八尾と田主、そしてユキリンとカメラ係の隊員。


「ごめんね、巻き込んじゃって」


ツバサがユキリンに近付きそっと声をかける。


顔を間近で見たユキリンはほうっとため息を溢すと


「うわぁ・・・綺麗・・・じゃなくて、大丈夫!自分から希望したんだし、もし倒せなかったら何処に居たって同じだしね!それに、こんな特等席で見られるならむしろ有難いよ!」


と元気よく返す。


「特等席って」


思わず笑みが溢れる。


「ホントだよ!さっきの人を助けた時の剣捌きも最高だったし!一気に三本切って、返し刀でさらに四本・・・思い出しても興奮するぅ!」


両手を胸の前で組み、ピョンピョンと跳ねている。


カメラ係の隊員が


「え、アレ見えたの?」


と聞くと


「見逃したの?勿体なぁ〜」


とケタケタ笑っている。


この笑い方、アイツと一緒だな。


ふふっと笑いが溢れたツバサを不思議そうに見たユキリンの頭をポンポンと軽く叩くと


「全部終わったら、ご飯でも行こうね」


とアキラの元へ歩き出した。


顔を真っ赤にしたユキリンの声にならない叫び声が背中にぶつかっていたのだが、ツバサは気付かなかった。


「ホント、罪作りだよね・・・」


ユキリンとのやりとりを見ていたアキラが呆れた顔で出迎える。


両手は前に出したまま、精神エネルギーを集める術式を展開し続けている。


何の事だろう?聞き返したかったが、今はそれどころではない。


海岸沿いの民家から山の向こうの空にかけて、光る雲が少しずつ大きくなっている。


アキラが精神エネルギーを少しずつ近くに集めているのだ。


ミコトの稲妻の矢の拡張速度も段々と落ちてきた。


「壁が壊れたら、一気に行くよ!」


ミコトの声に合わせるように四人が戦闘態勢に入る。


パキ。

パキン。

パキパキ・・・


バキバキバキバキッ!


四人の目の前の壁に大きな亀裂が入り、光の欠片が海へと吸い込まれていく。


壁の向こう側はまだ見えない。


いや、違う。

見えている。

真っ黒の空のように見えたのは、魔物の身体だ。


壁に張り付くようにすぐ目の前にいる。


八尾やユキリンは悲鳴を上げないよう必死に口を押さえ、田主やカメラ係の隊員は後ろずさりしないよう足を踏ん張るのがやっとだった。


ふとユキリンが斜め後ろからツバサの横顔を見ると、笑っている。


右手に半白半黒の刀を持ち、前のめりに今か今かとその時を待っている。


敵わないなぁ。


そんな風に思った自分を不思議に感じた瞬間、ミコトの矢が放たれた。



半日ほど前に見た光景だ、と犬飼はすぐに思った。


波打ち際から放たれた光の矢は凄まじいスピードで魔物に刺さる、ハズだった。


その高速と同じように猛スピードで魔物の身体が半分に割れ、大きな口を開けたのだ。


パクンと光の矢を飲み込んだ口は閉じられ、また真っ黒の魔物の姿になる。


「あぁ・・・」


と横に並んでいる隊員達から落胆の声が漏れる。


ミサイルを食べられた時の光景を思い出したのは犬飼だけではないようだ。


そのまま何事もなく時が過ぎるかと思われた。


ピカッ!


大きな光が一瞬世界を包むと、バリバリバリバリッと魔物の周囲を電気が走り、薄暗くなってきた夕方の海にその巨体が照らし出される。


稲妻が魔物の身体の周囲を走り、ボロボロと魔物の輪郭が崩れていく姿を照らしている。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


自衛隊員達から歓喜の雄叫びが上がり、ガッツポーズをしたり隣の隊員と抱き合ったりしている。


中には「流石俺達の女神だぜ!」と叫ぶ隊員もいる。


「まだだ!まだこれからだぞ!」


自身の歓喜の気持ちを押し殺し、隊員達を制する犬飼。


魔核が発見され、もし魔力が足りなくなったりした時には、四人が回復する時間を稼ぐ為に遠距離攻撃を仕掛けなくてはいけない。


気を抜いてはダメだと自分を戒める。


その目には海に向かって飛び立つ四人の姿が映っていた。


「頼んだぞ・・・」

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