ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話
自宅戦闘員
大淫魔の誘い
大淫魔サナちゃん
今となっては誰にも話すことのできない思い出がある。
僕がまだ小学一年生だった頃、仲のいい女の子がいた。
この街でも有名な神社の娘で、名前を
偶々クラスが同じで、隣の席になった。その程度で始まった縁だった。
『なおとくん、駄菓子屋さんにいこ!』
『うん、さあやちゃん』
放課後はいつもいっしょに遊んでいた。
当時はよく分かっていなかったけど、彼女の家は特殊な仕事をしているらしい。自分もいつかは手伝わないといけないから、今のうちにたくさん遊ぶんだと笑っていた。
公園で駆け回った。図書室で絵本を読んだ。駄菓子屋で瓶ラムネを飲むと、咲綾ちゃんはいつもせき込んでいた。
懐かしい、僕にとっては大切な思い出だ。
でも一緒にいられたのは二年くらい。小学三年生くらいになると、周りが騒ぎ始めた。
『お前春乃宮のことが好きなのかよ!』
『うわぁ、春乃宮さんあんなデブのブサイクと仲いいの?』
男子も女子も僕たちをからかう。
何も言えなかった。僕は運動ができないし勉強もイマイチ。デブのブサイクというのも事実だった。
周りの目を気にしてからは声をかけられなくなり、ちょうどその時期、咲綾ちゃんの方も「お家のお手伝い」が始まって遊ぶ機会が減った。
少しずつ疎遠になり、小学校を卒業する頃には、話すどころか廊下ですれ違っても挨拶さえしなくなっていた。
それから歳月が流れ、高校二年生になった僕は、太ったブサイクのままだ。
いろいろとダメな、モテない地味男。名前は
咲綾ちゃん……春乃宮さんとは偶然同じ高校に入学し、クラスもいっしょになった。でも会話なんて一度もしていない。
「咲綾ぁ、今日カラオケ行かなーい?」
「あはは、ごめんね。お家のお手伝いがあるから」
「えー、いっつもじゃん。確か、家って神社だったよね。そんなに忙しいん?」
「うん、けっこう」
春乃宮さんは腰くらいまである長い黒髪の美少女に成長した。
穏やかな性格で面倒見もよく、スタイルだってすんごくてすっごい。控え目な性格だからクラスの中心人物ってわけではないけど、男女問わず人気がある。ただ、帰宅部で放課後はすぐ帰ってしまうから、特定の仲のいい友達はいないらしい。
つまりはクラス上位のお方。底辺飛行する僕にとっては遠くから眺める高値の花になってしまった。
そう言えば高値の花ってどれくらいの値段なんだろう。人間に値段ってつけられるものなのかな。
* * *
春乃宮さんとは違った意味で、僕は友達がほとんどいない。
デブでブサイクで地味な陰キャだしね。ただイジメられるほどでもなかった。
ぼーっと彼女を眺めていると、いきなりクラスの男子が声をかけてきた。
「よぉ、キモブタ。ちょっと聞かせてほしいんだけどよ」
素行の悪さで有名な彼は
逆立てた金髪に、鋭い目つき。ガタイも良く正直かなり怖い。実際学校を良くサボったり、街で喧嘩したりはしているらしい。
相沢君はよくこうやって僕に絡んでくる。
「俺よぉ、今度カノジョと飯食いに行くから、いい店教えてくんねえ? 洋食系好きらしいんだわ」
「……駅前に、個人経営の美味しいピザレストランがあるんだ。そこは好きなトッピングを自分で選んで、オリジナルのピザを焼いてもらえる。二人でそれぞれ好物をのせたピザを作って、半分ずつ交換なんてのも楽しくないかな?」
「ピザいいな、ピザ! さっすがキモブタくんだぜ。あんがとよ!」
詳しく教えると、相沢君が僕の背中をばんばんと叩く。
いじめられているとかじゃない。
キモブタというあだ名も、単に僕が“キモブタ地元メシちゃんねる”というアカウントで動画配信を行っているからだ。
僕は太った体に見合った大食漢で、お店に行くと定食を四つ五つ平気で食べる。
なので地元の美味しいご飯屋さんを紹介しつつ、そのお店で食べまくる動画を投稿しているのだ。
これでも一定の人気があって、登録者数は十七万人。収益化にも成功しており、月収はそこそこある。
そのお金で更に食べ、脂肪を蓄え、動画を投稿するという一連の流れが出来ていた。
会話の途中で、周囲の女子が僕に向けて小さく手を振る。
「キモブタくーん! 前に紹介してた冬護院プリンセスホテルのケーキバイキング、めっちゃくちゃ美味しかったよー!」
「あ、はは。よかった、です。あそこのホテル、今年の夏は柑橘系のフルーツたっぷりのタルト出すからね。こ、これも、最高なんだ」
「マジでー? キモブタ一押しとか絶対見逃せないヤツじゃん!」
仲がいいというほどではないが、僕のちゃんねるを知っている女子なんかは普通に話しかけてくれる。
「近所の美味い飯屋が知りたかったらキモブタくんに聞け」なんて言われるくらいだ。
もっとも、逆にそういうところを「調子に乗っている」と嫌う生徒もいるけれど。
「おい、ガッコ抜け出してらーめん食いに行こうぜ。礼に奢ってやるよ」
「相沢君、いいの? 前も奢ってもらったけど」
「そっちの方が稼いでんだろうけど、俺だってバイトはしてっからな」
実はクラスで一番親しくしてくれているのは相沢くんだったりする。
イジメられないのはそのおかげでもあるんだろう。
「代わりに、うまいとこ連れてけよ」
「任せて。最近開拓した、横浜家系ラーメンのお店があるんだ。豚骨醤油のラーメンも美味しいけど、本当の名物は餃子。これが絶品で、ゆず油を垂らしたタレで食べるのがもうね」
「キモブタはホントに俺のことをよく理解してんなぁ! そこだ、絶対そこで食うぞ!」
ぎゃははと笑う相沢君に背を押されて教室を出る。
思い出の女の子との縁はなくなってしまったけど、僕は学校で孤立せずに、とりあえず平穏な毎日を過ごせていた。
* * *
『むっほぉっ!? 旨っ!? このホルモン黒カレー旨すぎるっ!? ここの焼肉屋さんのオーナーは肉屋さんも経営しているから、肉の下処理が完璧! 内臓系も臭みが全くなく、十七種のスパイスと牛骨スープを使ったこのカレーは、はっきり言ってこれ一本でお店を開けるレベルの旨さ! しかもだよ!? 夜に注文したら1680円のこのカレー。ランチタイムバイキングだと、お肉もカレーも食べ放題でなんと3480円! 学生にはお高い? いやいやいやいや五杯食べたらもう元とれるよこんなん! ということでおかわりお願いします!』
【キモブタすげーがっついてるw】
【でもマジでうまそう】
【このブサイクさで顔出しとか心臓強すぎるわ】
【キモいけどデブなだけあって味覚は確かだからなコイツ】
【計算普通に間違ってる】
【キモブタセレクション上位のカレーとか間違いなく旨いヤツじゃん】
【絶対食いに行く。お金貯めてランチで】
夜、僕は自室で投稿したばかりの動画を確認していた。
まだ三時間程度しかたってないけどもうコメントも付いている。ありがたいことだ。
まあコメントには僕の容姿を貶すものが多めだけど、全然平気。
いじれ、もっといじれ。閲覧者は気持ちよくマウントをとり、僕の懐はあったかい。これも一つの形である。
明日は土曜、学校は休み。なので気兼ねなく夜更かしができる。
実家に住んでいた時は夜遅くまで起きていると親に怒られたが、今では気にする必要もない。
僕は家族との折り合いが悪い。
両親はいわゆる長男教で、二つ年上の兄ばかり可愛がっていた。
兄さんは何でもできるタイプで外見もいいし、単純に僕が可愛くないという理由もあったのかもしれない。
『お兄ちゃんを見習え』『あんたは何もできない』『恥ずかしい』
『こんなブタが弟なんてないわ』『近寄んなよ』
そう言えば、誕生日プレゼント貰ったことないや。
兄さんはいっつも欲しい物を買ってもらってたのに。
そんな家族に嫌気がさして、僕は高校進学を機に1LDKで一人暮らしを始めた。
学費だけは出してもらって仕送りはなし。“キモブタ地元メシちゃんねる”が軌道に乗るまでは、家賃や生活費もお祖父ちゃんが助けてくれた。
マンションの保証人や収益化の際の保護者、その他重要書類もすべてお祖父ちゃんだ。
色々世話を焼いてくれるのは、家族の爪弾きにあっている僕を心配したからなのかもしれない。
動画を流したまま、棚に飾った女神像に触れる。
『この彫像には、恐るべき悪魔が封じられている。どんな願いも叶えてくれる代わりに、大切なものを奪い去る』
お祖父ちゃんはアンティークショップを経営していた。
ふらりと海外に出かけては、向こうで仕入れてきたものを売る。メインは古い調度品や食器、置物、人形など。
そして、彫像。
ある日お祖父ちゃんは、三十センチくらいの女神像を僕にくれた。
怖い話かと思ったら、『悪魔が中にいるから他の怖いものが寄ってこなくなる』という、ヤクザでヤクザを追い払うみたいな幸運のアイテムらしい。
幸いにも動画の収益は安定しているので、中の悪魔にお願いする機会もなかった。
「悪魔様、悪魔様、おいでくださ……らなくてもいいですよ。願うことなんてなんにもないよなぁ」
でも今日は冗談みたいな呪文を口にして、半端なところで濁す。
僕はそれなりに恵まれている。
毒親と兄さんに虐げられたけど、お祖父ちゃんは助けてくれた。
デブでブサイクでもイジメられることなく学校に通えている。
これ以上を望むなんて強欲というものだ。
「はは……なにバカやってんだろ」
神頼みならぬ悪魔頼み。
人に見られたらついに壊れたかと嘲笑われるだろう。
自分のバカさ加減に溜息を吐き、棚から離れてベッドに向かう。
……変化は、その瞬間だった。
「い、ぐ……!」
心臓が、痛い。
立っていられずその場で倒れ込む。なんだこれ、胸が苦しくてうまく呼吸ができない。
少し時間が経っても全然治まらない。それどころか、どんどんひどくなっていく。
あれか、デブ過ぎでの狭心症とかそんな感じのヤツだろうか。
死ぬ。死んでしまう。
考えてみれば僕はかなり太っていて、なのに大食い動画をやってる。そりゃカラダにいい訳がない。
だからいつかは病気になるかもくらいは思ってたけど、こんなに簡単に?
「…やぁ、だ……」
死にたくない。
親にも兄にも邪険にされた。ムカついたけど、それでも何とか頑張ってきた。
なのに、こんなところで。
ひとりぼっちで死ぬなんてやだよ。
でも、なにもできない。意識が遠くなっていく。
だけどぼやけた視界に、奇妙なものが映った。女神像がいきなりカタカタ音を立てて揺れ始めたかと思うと、自分の意思を持っているかのように棚の上を転がった。
そのまま床に落ち、かしゃんと音を立てて砕け散る。
冷静に考えれば違和感を持っただろうがそんな余裕もなく。
視界が眩い光に染まって、僕は意識を失った。
「あなたの欲望、
最後に、そんな声を聞いた気がした。
※ ※ ※
日付が変わる頃、ふと僕は目を覚ました。
「あれ……」
心臓が痛くない。呼吸も普通にできる。
ちょっと体が痛いけど、それは床で寝転がっていたせいだろう。
死んだと思ったのに。呆然としていたけれど、急に声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
涼やかな声に驚愕する。
そちらを見れば、輝く長い銀髪の、天使や妖精と見紛うばかりの赤い瞳の美少女が、机の上にちょこんと座っていた。
年齢は小学校の高学年くらいにしか見えなかった。
「私は五大淫魔が
こんなに幼いのに、見惚れるくらい美しい。
けれど彼女が人間でないのは、ぴこぴこ羽ばたく背中の小さな悪魔の羽と、頭の角で分かってしまう。
それに、服装がすごいことなっとる。
紫色の、ボンデージというヤツだろうが。濡れたような光沢の、露出過多なラバースーツ。幼さに反した過激さである。
「わっ、わっ。わわ!?」
「どうかしましたか?」
きょとんとした顔で、可愛らしく小首を傾げる。
この子は男の視線にさらされても恥ずかしがりもしない。むしろ僕を心配そうに覗き込んでいた。
「ふ、服っ! 服を!?」
「あっ、この格好のことですか? 気にしないでください、淫魔としての正装みたいなものなので」
「気にしないとか無理ぃ!? ……って、え? い、いん、ま?」
ルビーを思わせる鮮やかな赤の瞳が、まっすぐに僕を捉えていた。
非現実的なくらい透明感のある美々しいロリ娘が間近にいる。
なのに、それ以上に僕の心を揺さぶったのは“淫魔”という言葉だ。
「ふふ、聞いて驚いてください。二回目だけど、我が名は大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス! 大淫魔なのに胸もお尻も小淫魔と謳われし魔性! あ、呼びにくかったら“サナちゃん”でかまいませんよ。かつて調子に乗ってたら謎のお爺ちゃん退魔師に封じられて暗いところに閉じ込められてずっとゴメンナサイ出してくださいをしていました助けてくださって本当にありがとうございます!」
あまりにも格好のつかない自己紹介だった。
彼女が、あの女神像に封じられていた悪魔……いや、淫魔らしい。
「た、助けたって、僕はなにも」
「いえいえ、ご謙遜を。あれほど強力な封印を破る。さては特別な結界破りを習得した外法術師ですね?」
「違います。ちなみに外法術師がなにかもわかりません」
あとその露出過多な服装で胸を張るのやめてください。
「またまたぁ。分かっていますよ、大淫魔サナちゃんの力が欲しくて封印を解いたのでしょう? だって、聞こえていましたよ。あなたを蔑む声が」
え、なんの話?
「キモブタふざけんな、調子乗んなや! そのタイミングで赤甲羅はダメだろうが、このクソがぁ! んのっ、キノコ頭がぁ!? ……女神像越しでも、ひどい罵倒が聞こえていました。いじめられて、その復讐にサナちゃんパゥワーを求めた……そうですね?」
あ、それマリ〇カートですね。
相沢くんがウチに来て対戦した時に、わざと後ろに回って甲羅ぶつけまくった時のヤツです。
つまり正確に言うと、いじめてたのは僕です。
「そんな感じで封印が解けたはいいんですが、いきなりあなたが死にかけていたので急遽契約を結び、誠に勝手ながら助けさせていただきました」
「そ、そうなんだ。ありがとうございます」
「いえいえー」
軽い感じに手をフリフリなサナちゃんなる淫魔。
こう見ると普通に無邪気なかわいい女の子だ。
「……あの、ちなみに、僕って一度死んで蘇ったゾンビ的なサムシングで?」
「違いますよ。私、ちょっとすごい淫魔なので、契約するとぐわーってなって一気に回復した感じですね」
普通に助けられたみたい。
改めて感謝を伝えると、サナちゃんさんは逆に申し訳なさそうな顔をした。
「本当に気にしないでください。私の方こそ、勝手に契約をした形なのでごめんなさいです」
「そんな、僕は助けられた側だし」
「本来、魔との契約は同意があって初めて成り立つもの。手順を踏まなかったのはよくないことです。それに、淫魔の契約には体液が必要ですから」
淫魔、それに体液交換。
ロリサキュバスとの契約って、まさか……!?
「ちょっと皮膚を切って血をいただきました。傷は治癒魔術で治しましたが、どれも気を失っている間にするのは失礼な行為でした」
「あ、はは。そ、そか。でも、僕は感謝しかないから、本当これ以上は止めてくれると嬉しいです」
「では、そのように。……あの、なんか表情引きつってますけど大丈夫ですか?」
「はい、問題なかとです」
大丈夫だけど大丈夫ではありません。
僕が穢れた存在なのを認識しただけでございます。
そもそも交換なんて言ってないよ。
「ひとまず私は淫魔で、あなたの求めに応じ、願いを叶えに来た……という流れだけ把握してもらえればおっけーです」
「なるほど。死にたくないって思った声に反応した、って感じ?」
「いえ、そっちは偶然です。いじめ対策にあなたが封印を解いたものだとばかり」
じゃあ僕の求め全然届いてないよねそれ。
「あなたは大淫魔サーナーティオの魔力を得た。それが不本意であっても、契約しその恩恵を享受したからには、代償を支払わねばなりません」
目の前の大淫魔は荘厳に、まるで聖女のお告げのようにその事実を突き付けた。
「代償って、願いを叶える代わりに死後僕の魂を……ってやつ?」
「え、違いますよ? 私は淫魔だからもっとシンプルなやつです」
めっちゃ即行で否定された。
そしてサナちゃんは、自身の下腹部を妙に艶めかしい仕種でさすった。
「そう、力を得る代償として、私の住居の面倒を見なくてはいけないのです具体的に言うとおうちに泊めてください……!」
「一気に言い切ったけど、”淫魔だから”もさっきの仕種もなんら繋がってなくない?」
それはそれとして、なんて恐ろしい契約なんだ。
魔力を得た代償に、僕はこんなちっちゃくてカワイイ女の子と一つ屋根の下で暮さねばならないのだ。
どうやら僕は代償の意味を間違えて覚えているようなので、後で辞書を確認しようと思います。
「私もともとこの辺りで活動してた淫魔じゃないので住処ないんです。封印の影響で弱体化してるっぽくて今よわよわなのでしばらく面倒見てくださいお願いします」
「あ、はい。分かりました」
命の恩人……恩魔? 恩キュバス? を放り出す気は元々ないけどさ。
ということでロリサキュバスと同居することになりました。
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