第44話 国王さんぽ
どうもオレは、世界の法則があまり通用しない場所に来てしまったらしい。
データにない場所に、転送されてしまうとは。
こんなケースは、初めてだ。
「どうしてまた、地球という世界に来てしまったのか」
これまでにないケースだ。冒険者たちが暮らしている世界に、入り込むなんて。
「なんか、特殊な事情とかはなかった? たとえば、なんかトラブルに巻き込まれたとか」
魔王の襲撃を受けた、国際問題に発展した、などなど。
思いつく限りの想定を、ティナはオレに問いかけてきた。
そのことごとくに、オレは首を振る。
「なら、そこまで深刻な問題ではないわね。その【冒険の書】ってシステムも、機能しているのでしょ?」
「ああ。特に問題なく発動する」
帰ろうと思ったら、いつでも帰れるだろう。
「帰れるなら、大丈夫じゃない?」
「かもな」
「せっかく来たんだし、もっといろいろ見て回りなさいよ。案内するわよ」
「仕事はいいのか?」
「いいわよ。あたしがいなくても回るように、部下に仕事を回しているから。銀行との話し合いも、ちょうど済んだところだし」
ならばと、案内してもらうことにした。
昼から飲める店があるというので、そこへ向かう。
そこでは強い酒とともに、刺し身をもらった。
「生魚がいつでも食える店があるなんて、うらやましすぎるな」
「ええ。でもこの世界は便利すぎるから、あまりありがたがらないのよね。あって当たり前だと思っている人が多いわ」
そうかもしれない。存在が当たり前だと思っていると、いざなくなったときのダメージがデカい。
先代王の時代は、貿易面でかなり苦労したという。こちらの名産が乏しいため、他国との交渉に手間取ったとか。
果汁や海産物の食品加工技術を提供することで、なんとか輸送面で財を築くことができたらしいが。
「あの鉄の箱が、経済を支えているんだろうな」
「船も、あちらの世界より早いわよ」
「だろうな。燃料が違うんだからな」
化学燃料なんて、我が世界ではとても開発できないだろう。
「そうはいっても、あなたの国には魔法があるわ。アイテムボックスなんて、便利な保存方法もあるし。こちらでは、どんなに持ち運びがしたいアイテムがあっても、カバンが大きくなりすぎるわ」
こちらはこちらで、魔法技術が発達している。
ないものねだりをしても、仕方がない。
「楽しい酒だ。あんたのお話も面白いよ」
「そう? ありがとう。この焼き鳥もおいしいわよ」
「どれどれ。うん! めちゃくちゃうまいな!」
タレが、食ったことのない味がする。コショウやしょう油ダレを使っているんだろうが、それ以外になにかのスパイスが効いているようだ。東洋の薬草だろうか? 複雑な味がする。
「これは、最高だな」
「そこまで楽しんでくれるなら、次はラーメンでも食べに行きましょ」
「ラーメンか。あっちの世界にもあるが、大好物だ!」
酔い冷ましに少し歩き、ラーメン屋へ。
「おお。このカウンターだけの店構え。これはぜったいにうまいな」
「わかるの? そうよ。五〇年前からあるラーメン屋だけど、大好きなの」
子どもの頃から、ティナはこのラーメンを食べて育ったという。
「生まれは、ずっとこの街なのか?」
「そうなの。あたしは、ここから出たことがないの。祖父の代から、この下町に住んでいるの」
いいな。そういうの。
ラーメンが出てきた。ああ。もう湯気からうまそう。
「いただきます……これは、たしかにうまい」
すすった途端、優しいしょうゆ味が舌を包みこんだ。酔った身体に、スープの味わいが染み渡る。薄っぺらいチャーシューも、「これがほしかった」と口の中が喜ぶ味。なにより、アクセントのメンマが、いい仕事をする。
「いやああ、馳走になった」
その後も、街をブラブラする。
射的場なんかもあって、オモチャの弓を引かせてもらう。それでも、的をワラごと貫いてしまったが。
他には、ガチャガチャという当て物を回して、手のひらサイズのぬいぐるみを手に入れた。これは、アイテムボックスに入れても、持って帰れないだろう。
歩き疲れたら、喫茶店へ入った。
今は酒をやめて、クリームソーダという飲み物を頼んだ。デザートも食えて、二度おいしいと教わったのである。
オレはメロンソーダを、ティナはコーヒーフロートというものを頼む。
「すごいな。柔らかいアイスクリームが、乗っているではないか」
マキマキになったアイスが、アイスコーヒーの上に積まれている。
オレのメロンソーダなる炭酸水も、緑色の液体の上がアイスクリームだ。
これを、三角錐のウエハースといっしょにいただく。
なんとも、オツな味がするなあ。オレは甘味もイケる口だから、これは汗ばんだ身体にはありがたい。
アイスクリームも、向こうの味とは違ってまろやかだ。独特の食感である。
ソーダも、スカッと清涼感がすごい。この甘さは、クセになる。
「楽しかった。ありがとうティナ」
「もっと文化を知っているなら、カラオケに行くって手もあったんだけど」
なんでも、曲に合わせて歌う施設があるらしい。
しかし、オレがこの世界の歌を知らないため、連れていけないという。
同じ理由で、この世界の常識を知らなければつまらないアトラクションが多いという。
「また今度な。さて、邪魔をした。では」
すっかり長居をしてしまった。
これは、急いで帰ったほうがよさそうかも。
ただ、帰ったところでオレの不安は消えない気がする。
オレが、家族に必要とされているのかどうか。
「おや?」
帰れなくなったぞ。
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