第20話 王妃と晩酌

 オレに茶粥をススメてきた冒険者は、ヒーラーの女性である。エルフの【ハーバリスト】であり、種族的な特徴もプラスして薬草学に詳しい。東洋の茶粥をひとつ試してみたくて、食べに向かったという。


「それは絶品でした。本当に、お茶で煮たお粥だったのです」


 粥か。ガキの頃にカゼをひいたときくらいしか、食べたことがないな。


 それでも、コメを柔らかくしただけの料理なんて、あまり食が進まないはず。食べやすそうではあるが。

 なのに、あんな楽しそうに語りだすとは。


「トロミがあるんだよな?」


「いえ。お茶粥は、サラサラしておいしいんです」


「オカユとは、お茶漬けとは違うのか?」


 お茶漬けなら、オレも深夜の大衆食堂で頻繁に食う。塩気の効いた焼き魚や干物を沈めて食うと、最強なんだ。


「お茶漬けとはまったく別の料理と言っても、差支えありません」


 女性冒険者は、断言した。そんなに違うものなのかよ。


「味が薄そうだが?」


 お茶で煮込んでいるとなると、味が渋い気配がするが。

 

「それがいいんですよ。東洋の漬物文化は、底が知れません」


 漬物か。たしかにうまい漬物は、クセになるなぁ。


 オレも大衆食堂で、食ったことがある。どうしてあんなにうまい漬物が無料で食えるのか、信じられなかった。


「あと、豆を発行させた【お味噌】という調味料! あれが、なんともいえずおいしいのです。ハーバリストとして、あの発酵食品は大変興味深くありました」


 あまりに女性冒険者が楽しそうに話すので、オレはツバを飲む。


「あなたのような冒険者殿たちは、よその世界からやってきたと聞く。元の世界に、ミソという調味料やオカユの文化はないのか?」


「たしかに、ございます。ですが、わたしは元の世界では、あんまりそういったものは食べないんですよ。しかもわたしは、この世界に来てから、お茶粥を知ったくらいでして」


 現地に住んでいても、知らないことがあるんだな。


「歳を取って、ようやくお粥の良さがわかってきたと言いますか……」


 なるほど。年齢を重ねて、舌が変化したと。

 たしかに、そういうことはある。オレも老けてから、色んな味を楽しめるようになってきた。特にこの歳になると、野菜やキノコが抜群にうまいんだ。


「この世界に来たのも、なんかいつもと違う癒やしがほしいなーというのが、動機でして。今回東洋を旅してみたら、元の世界に近しい素晴らしい文化がございました」


「それはよかった。またいらしていただきたい」


「もちろん。ではソロガス王様。ごきげんよう」


「ごきげんよう」


 冒険者は、フッと消えた。元の世界に帰ったのだろう。


 ハーバリストがそこまでハマる、お茶のオカユか。


 それはきっと、うまいに違いない。


 ちょっと今日は、メシを控えめにしておくか。

 お茶の料理をいただくから、酒はある程度強いものを。


「東洋の酒があっただろ? 出してくれ」


「承知しました」


 使用人に伝えて、一升瓶を用意してもらう。


「積極的にお酒を頼むなんて、珍しいですわね?」


「東洋の話を、連日聞かされてはな。訪問の記憶が残っているうちに、味わっておきたい」


 使用人が、瓶を持ってきた。


 冒険者からもらったものを、大事に取っておいたのである。大事にしすぎて、忘れそうになっていたともいうが。


 オレは使用人から、瓶をひったくる。ドバドバと、自分のジョッキに注いだ。ジョッキといえど、さすがに一口程度だけに留めたが。

 

「あなたっ。手酌なんて、はしたないですわ。それに、専用の盃をご用意なさらないと」


「いいんだよ、こういうのは、ガツンといくもんだ」


 オレは、ジョッキに注いだ酒を、ぐいっと煽る。

 

 ああ、辛口! 全身に、アルコールが染み渡った。目が覚める味とは、こういうもんなんだろう。

 

 くーっ。東洋の酒なんて、久々だな。


 チーズもいいが、これに合うオツマミは、やっぱ干物か漬物だよぉ。とはいえ、ぜいたくってもんだけど。


「ごきげんですわね、あなた」


 王妃が隣の席から、オレに声をかけてきた。

 

「まあな。激務が続いているから、少々頭を休ませてやりたいんだよ」


「わたくしにも、くださいな」


「お前さん、飲めたっけ?」


「乗馬クラブがございましたから、控えていただけですわ」


 そっか。


「ほら。どんどんいっちゃえ」


 オレが、グラスに酒を注いでやった。


「国王自らがお酌って」


「硬いこと言いなさんなっ。ほれ」


「いただきます」


 恐縮しながら、王妃は盃を傾ける。


「あら、おいしいわね」


 ケロッとした顔で、王妃はグラスを空ける。オレから瓶を奪って、使用人に注がせた。


 使用人はオレとは違って、適量を盃に注いでいく。


 王妃は、もう四杯目だ。


 オレは二杯で、もうチビチビモードに切り替えている。これで飲むのをやめておこうって、思ってるのに。冒険の書も使うし。


「強いな」


「このお酒が、美味しいだけです。普段は、そこまで飲み進めませんわ」


 シラフめいた表情で、王妃は行儀よくチェイサーを挟む。


 王妃を見るまで、オレもチェイサー飲まないとって、忘れていた。ジョッキで水をもらう。


 たまには、王妃とこうして飲むのも、いいもんだな。

  

 ういーっ。だいぶ脳がバカになってきた。お茶がほしい、って気分である。


 さて、行きますか。

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