第15話 彼女の瞳の色の石

 果林と婚約指輪を買いに行く事になり、元婚約者の事が嫌でも頭に浮かんだ。


 給料をはたいてダイヤの指輪を用意し、プロポーズしたけれど、その場では喜んでくれたかに見えた美咲さんは、婚約破棄の時に俺の事を「ホントケチ臭い」と言っていた。あの時贈った婚約指輪も、きっと彼女にとってはがっかりの品だったのだろう。そう言えば、その後彼女が婚約指輪を身に付けていた事はなかった。


 正直、俺は心配だった。ここまでして、俺を選んでくれた果林だが、その献身に報いるだけのものを俺は与えられるだろうかと……。

 芸能界という華やかな世界にいるだけに、贈るもの、これからの 生活全てが果林を美咲さんのようにがっかりさせるものになってしまわないかと……。


 だが……。


 社長に紹介された宝石店へ車で向かう途中、果林は大興奮だった。


「あらっちゃんと婚約指輪を買いに行くのっ? きゃ〜ん! 嬉しい! ATMでお金おろすから、スターズ☆銀行に寄ってくれる? え〜と、最寄りの支店は……」

「いやいや、果林。婚約指輪はこっちで出すもんだから。 お金はおろさなくていいっつの!」


 助手席で水色のワンピース姿の果林が、スマホの地図検索を始めたのを、俺は慌てて止めた。


「え。でも、この結婚はウチから強引に進めたものだし、あんまりあらっちゃんにお金使わせちゃ悪いと思って……」


「最終的には俺も合意したんだから、もうこの結婚は俺達二人の責任で進めて行くべきだろ? だから、変な事気を回すなって」


「う、うん……。じゃ、じゃあ、お願いします。でも、そんな高価なものじゃなくていいよ? なんならその辺に落ちてるナットでもいいからね?」


「昭和のトレンディードラマかよ!」


 モジモジしながらそんな事を言う果林に、突っ込み、色々心配していた俺は、何だか気が抜けてしまった。


 まぁ、果林は果林……だよな?


 美咲さんのようになるなんて心配するだけ無駄か……。


 ホッと息をついた俺に、果林は鋭く青い目を光らせた。


「ね、あらっちゃん……。今、他の女の事考えなかった?☠」


「ひっ。|||||||| か、考えてねーよ? 果林は、今日も青いお目々が輝いて可愛いな?と思っていたのさ。

 あっ。ホラ、もうすぐ着くぞ? 気に入る指輪が見つかるといいな?」


「調子いいな〜。 メッチャ怪しいんですけど! あ、でも、なんかいい感じのお店……♡」


 追求されて慌てて誤魔化すと、果林は目を細めつつも、目的地の宝石店が見えて来たのに気を取られたようで事なきを得た。


         ✽


「小松崎様、桃谷様、ようこそいらっしゃいました。 この度はご婚約おめでとうございます! エトワール店主、綾小路あやのこうじと申します。 大文字様からお話は承っております。どうぞ、こちらへ……」


 ガラス張りの建物に、星のマークが表示された宝石店、「Etoile(エトワール)」の店内に入ると、白髪にスーツ姿の70代位の男性に深々とお辞儀をされ、促され、俺と果林はカウンター席へと並んで座り、店主と相談する事になった。


「婚約指輪をお探しとか。予算やご希望の石の種類、デザインのイメージなどはお決まりでございますか?」


 店主の綾小路さんに聞かれ、俺と果林は途方に暮れた表情の顔を見合わせた。


「そ、そうだな……。果林のイメージに合っていて、記者会見に映えるようなものがいいよな?」

「私は、あらっちゃんから貰えるなら何でもいいけど……?」


 俺はもちろん、果林も婚約指輪にふわっとしたイメージしか抱けないままで、取り敢えず、綾小路さんにメモを見せてお任せする事にした。


「すみません。この位の予算で色々見せてもらっていいですか?」


「かしこまりました」


 綾小路さんは、目尻に皺を寄せた笑顔で了承してくれ、まずはダイヤの指輪をいくつか試させてもらった。


「どう? あらっちゃん? ウチに似合う?」

「おお〜! いいじゃねーか!」


 一粒の大きなダイヤとその周りに小さなダイヤが散りばめられたデザインの指輪を身に着けた果林は、より清楚で品のよい雰囲気を醸していて、俺は感嘆の声を上げた。


「記者会見の時は、水色のワンピースを着るんだったよな?」

「うん。色はほとんど同じだけど、これよりもう少しドレッシーな奴」

「う〜ん。どうだろう? これだと、衣装の華やかさに負けちまうかな?」


 今のカジュアルなワンピースにはよく似合っているのだが、金髪碧眼のただでさえ華やかな外見の果林が記者会見の衣装を身に纏った様子を思い浮かべ、俺は難しい顔になった。


  芸能人同士の婚約記者会見では、1千万円以上の大きなダイヤの指輪を見かける事も珍しくない。もっと大きいダイヤにすれば、華やかになるかもしれないが、流石にそこまでは予算が……。


 苦悩している俺の腕に、果林はそっと手を添えて神妙な顔を向けて来た。


「あらっちゃん。いいよ? 無理しなくて。ウチ、空き缶のプルトップ指輪で十分幸せだから……」


「今度は街のスイーパーな少年漫画ネタかよ!」


 果林の発言にまたも瞬速で突っ込んでしまった。


「大体、今時、プルトップ式の空き缶なんて、ねーよ」


「えへへ。インパクトは与えられると思ったんだけどなぁ……」


 果林は頬をポリポリかいて苦笑いしている。


「インパクトというなら、この際、色のついた石を選ばれるのは、どうでしょう?」


「「色のついた石……?」」


 綾小路さんの提案に、俺と果林は意表を突かれ、聞き返す。


「婚約指輪としてダイヤは一番人気ではありますが、お客様の好みによって、ルビーやサファイアなどを選ばれる方も多くいらっしゃいます。誕生石を選ばれる方もいらっしゃいますし……」


 綾小路さんの説明の途中で、果林は「あっ」と声を上げる。


「ウチの誕生石、タンザナイトだ!」

「タンザナイトって、確か果林の瞳と同じ青系の宝石だよな?」


「誕生石の指輪もいくつかお持ちしましょうかね?」


 綾小路さんは、俺達ににっこりと品のよい笑顔を向けたのだった。




✽あとがき✽


 読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m


 どんな婚約指輪💍が披露されるのか?次話、記者会見の様子を見守って下さると有難いです。


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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