第44話 他人のダンジョンへ寄生する

 潜望鏡のように頭だけを地上から出す。

 私の後ろからひょこり、とリカと亜人達、旦那サマも続く。


 ここは何処かの廃村らしい。

 半ば木炭手前まで焼けた家屋や積み重なった死体、そしてそれに群がる羽虫の類、そういった物しか目立つものか無い。


 死体の一つ、もはや原型すら留めぬ穴だらけの死体が目の前にあるのが不快で堪らない。


「あ、ここ知ってますよ」


 リカにはここが何処か分かるらしい。

 聞けばどうやらリカが燃やし、粛清した村がここらしい。


「ほらこの死体、ウチやウチの母親を淫売だのなんだの言った死体です。念入りに潰したので印象に残ってます」


「い、淫売って……リカで淫売呼ばわりなら私とかどうなるんすか」


 なんせ数多の魔物と交わりそれらで人を殺し尽くす事を目標としているのだ。

 それも、この異世界で私や旦那サマ、リカが幸せに生きたいが為だけに神の依頼に従順に従っているのだから、淫売に加えて社会不適合者の称号も付く事だろう。


 リカの発言に他の亜人達も現在位置を把握したのだろう、話し合いの末イチイ含め安否が気掛かりとのことで彼らは一旦自分たちの街へ戻るそうだ。


 最後まで山羊角の亜人、私が陣頭指揮を執り隔離壁から救い出した彼だけは私達と離れる事に難色を示していた。


 だがそれも最後には旦那サマがいるから、との私の発言で諦めて自分たちの街へと帰還していった。


「無駄に忠誠心向けられても迷惑なんすけど」


「実際に現場にいなかったから知らないですけど、そんなに良い指揮をされたのですか?」


 リカの案内とダンジョンの街までの地図を頼りに、再度地下へ戻り密やかに進む道中、辟易した私のため息に応えるリカ。


「さあ……見様見真似っすから所詮は」


 それかイチイの指揮があまりにもお粗末か、とは旦那サマの言葉だった。

 あるいはあの男は比較的にまともな感性をまだ持っていた、とかだろうか。


 イチイよりも私を担いだ方が気苦労が無いとして擦り寄っているのか。


「それより、どう思うっすか?あの人間達。あの襲撃はいつ頃から計画されていたんすかね」


「それは……うぅん」


 リカが唸る。


 私は予想ではギルドの勢力を退けたあたりから本格的な敵視が始まったと予想する。

 対するにリカはもっと前、先程の村を焼き払った事が原因だと言う。


「あそこには駐在の兵士がいました。察するに国や街といった場所にとっては移動や遠征の際の補給路の役割も兼ねていたはずです。……それが落ちたという事は」


「なるほど?ならそうかもっすね。旦那サマはどう思います?」


 ダンジョンのある街まではかなりの距離がある。

 加えて追手の存在もいない今、出来ることはひたすら地下を進むのみだ。


 故に暇潰しも兼ねて人間達の動向や計画、それらを考察していくのだが……どうにもしっくり来ない。

 あれほどの規模が動員されるとなればその準備には如何程の時間を要するのか?


『俺が思うに……イチイ達が街の一つを占拠したあたりじゃないか?村やギルドの人間を数人殺した所でそこまで騒ぎになるとは思えない……だが』


 と旦那サマが書いて見せる。


「街ほどの規模なら話は別っすか。その段階で対処すべき脅威と見なされ、既に対策会議……その後に編隊、そして情報収集……」


「そして今、ですか」


 筋書きとしては旦那サマの言が一番理に適っているように思う。


 旦那サマは続けて、


『ギルドの人間数十、近隣の村々は全て壊滅、そして街道に敷設された地雷による被害、そして今回の街の襲撃。国が動くには十分すぎる理由だ。今後は戦力を揃えるまでは徹底して隠密行動を心掛けなければ』


 と言った。


 なるほどこうして列挙されれば私達は少ない戦力ながらも善戦していた方なのだと分かる。


 勿論、悪い意味で。


 もし私達が失敗続きでもっと難航していたらここまで警戒される事は無かっただろう。

 派手にやり、そして不幸にもその全てで一定の戦果を挙げてしまった事により、まだ動いて欲しくないタイミングで人間達を動かしてしまったようだ。


「それはそうっすね。さっきの逃亡でポイントが本当にすっからかんっすし、ダンジョンについたら適当な人間をダンジョン内で殺して供給を得ないとっすね」


 ダンジョン内であれば死などご近所のような物だろう。

 むしろ、今日死ぬ。そのくらいの覚悟で挑んでいるのだろうから、誰が死んでも疑問に思われる事は無いはずだ。


 少なくとも、十人程度なら。


「後は普通にダンジョンの魔物を殺してもよいのでは?効率は落ちるとはいえそれでもポイントになるんですよね」


 リカの発言に肯定で返し、その事も頭に入れて今後を考えていく。


「うん。大体こんな方針っすかね」


 重要な話はそれくらいで、後に続いた話は与太話やくだらない雑談程度の物だった。


 そうして途中休憩と僅かに持ち運べた食糧をやりくりして数日か、あるいはもっとか。

 私達は街のダンジョン、その何処かへぶち当たった。








「お、やっと着いたっすね。随分と私達のダンジョンとは趣きが違うっすねぇ。ただの洞窟っすか?」


 旦那サマが先行し、入ってもいいとの許可が降りてそこに足を踏み入れる。


 そこは広く、そして深い洞窟のような場所だった。

 天井は旦那サマが立ち上がっても届かぬほどで、横幅は長柄の武器でない限り振るうのに弊害が無いくらい。


 そして、洞窟にあるまじき光景ではあるのだが苔や植物の類が多く、僅かではあるが遠くから水の音も聞こえる。


「洞窟って基本的に生存や生活に適していないっすから、身体が小さかったり透明なちっさい虫とかしかいないはずなんすけど」


 この分だと生物はそこそこにいるのだろう。


 空気も悪くない、地下での生活が長い故に別段閉塞感の類も感じない。


 水源の近くへと二人を連れて歩く。


 滝かと見紛うそれは尽きる事なく轟音と共に流れ落ち、底すら見えぬ暗闇に消えていく。

 滝の側、整備など欠片もされていない為に軽く壁を削り通りやすいようにして滝を見上げる。


「この滝の裏、いい感じじゃないっすか?」


 滝に負けじと大声を張り上げて二人に聞く。

 聴覚に優れる二人であっても聞き逃すこの音の中でのコミュニケーションは難儀したが、なんとか二人

の了承を得、壁を自由に削り拠点を構築していく。


「ダンジョンマスターで良かったっす。こういう話のテンプレからは大分と外れている気がするっすけど」


 私が拠点を作成する間、リカと旦那サマには周囲の偵察と魔物、あるいは人間の排除をお願いしている。


 もはや備蓄も底を尽き、ポイントもゼロに近い為今日の晩御飯すら用意出来ぬ体たらくなのだ。

 ここまで限界なのはこの世界に来て以来かもしれない。


________________________

後書き


 自分で読み返しても怒涛の展開すぎて忙しいな、と。

 少し展開をゆっくりにしてみますね。

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