第27話 言葉を食うもの

 「それ、俺のセリフだけど?」


 その男は、ニヤッと笑ってそう言った。

 背が高く、スーツのような衣服。年齢は蓮と同じくらいに見えるが、

 その雰囲気はまるで“ステージに立つ詐欺師”だった。


 「春川 一翔(はるかわ いっしょう)。

 俺の能力は、“口寄せ再現(リプリカ・ワード)”。

 誰かが言った言葉を“二度目”として使うことで、信じさせる力を持たせられる」


 「……言葉を真似る?」


 「いやいや、違う。俺が使うと、“その人の言葉”として響く。

 つまり、“あの人もそう言ってた”って刷り込めるのさ。

 ――嘘を、他人の言葉で信じさせるってわけ」



 彼は言葉を操る詐欺師だった。

 だが、明らかに“ただの詐欺”ではない。


 「たとえばさ。

 “蓮くんが、君を裏切るって言ってたよ”って美音に囁いたら――

 どうなると思う?」


 「……ふざけるな」


 「ふざけてなんかないよ。

 この世界は、“信じさせた奴が勝ち”だろ?」



 春川の能力は、信頼の模倣による心理の侵食。

 蓮は冷静に、目の前の言葉に含まれる“構造”を分解し始める。


 (彼は、“俺の言葉”を素材にして、

 第三者の脳に“安心”や“恐怖”を流し込む。

 つまり――“俺が発してないのに、俺が発したことになる”。)


 (なら――俺が自分の“本物の言葉”で上書きすれば、勝てる)



 「一翔。

 お前が人の言葉を借りて“信じさせる”なら、

 俺は“自分の言葉”で、“疑わせる”ことができる」


 蓮の声が冷たく響いた。


 「“逆再生世界”。

 お前の言葉の“直前の思考”――そこに、“動揺”がある。

 お前は、今“負けるかもしれない”って、一瞬思ったろ?」


 その瞬間、一翔の表情が揺れた。


 「はは……マジでお前、やりにくいな。

 でも、まだ“あれ”を出してない。お楽しみはここからだ」



 そのとき。

 空間が震え、重低音が響いた。


 《EYE:CODE発動まで、残り10分》


 「じゃあ――10分後、“誰が嘘を信じさせるか”で決着つけようぜ」


 「……望むところだ」


 春川の“言葉の罠”と、蓮の“思考の逆再生”――

 それは、信頼を奪い合う戦争だった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る