第16話 嘘の観測者

静まり返る館の中。

蓮は、再び“あのノート”を開いていた。


二階堂鷹矢が遺した、たった数ページの手書きメモ。

昨日は1枚だけだった。

でも今朝、部屋の扉の下に、もう1枚が滑り込んでいた。


(誰が……?)


だがその文字も、紛れもなく鷹矢の筆跡だった。


“EYE:CODEの正体は、ただの監視システムじゃない。

あれは【誰かが記憶を覗くための装置】だ。

嘘を暴くためじゃなく、記憶から真実を“選び取る”ために設計されてる。

だから『信じたら死ぬ』じゃない――

『信じさせた者が、記憶を書き換える』んだ”


(……は?)


蓮は、その一文に背筋を凍らせた。


EYE:CODEは、ただの嘘当てじゃない。

記憶と認識を“操作”するための、思考のハック。


誰かが、全員の“脳の嘘”を、覗いている――


そのとき、後ろから声がした。


「それ、ようやく届いたか」


仮面の男――エマが、音もなく現れていた。


「……お前が、鷹矢のノートを……?」


「違うよ。あれは彼が死ぬ前に、“自分で書いて、誰かに託した”んだ。

でも渡された側は怖くなって、君に回したんだろうね」


「……誰に?」


「知りたいかい?」


エマの声は微笑んでいた。

だがその奥にある何かは、笑っていなかった。


「それより、君にひとつ忠告しに来たんだ。

“時任柚希”を、次にEYE:DUELにかけるのは……まだ早い」


「なぜだ」


「君はまだ、彼女の“本当の嘘”に触れていない」


「……彼女?」


「ふふ、それも“嘘”かもしれないけどね。

ただね、蓮――君の嘘は、まだ終わっていないんだよ」


その瞬間、エマが近づく。


仮面の奥。赤く光る瞳。


「君、あの日……本当に“殺してない”って言えるの?」


(!)


蓮は息を詰まらせた。

エマの手が、ゆっくりと肩に触れ――


その瞬間、“映像”が流れ込む。


――教室。

――バットを振る自分。

――笑っていた、自分。


そして、親友が最後に言った。


『……お前、最初から狙ってただろ?』


(……うそだ)


「忘れようとしてた記憶は、嘘より怖い。

それが“このゲーム”の目的だよ、蓮」


エマは、そう言って立ち去った。



同時刻、別室。

時任柚希は、誰もいないモニター室で、何かを見つめていた。


【EYE:CODE:観測モード 起動中】


モニターには、蓮の過去映像が映っていた。

その目は無感情。

――すでに全員の記憶を覗いているような目だった。


(続く)

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