【旧版】 金色のソイルモンスター ~クラスメイトの超偏食ツンデレ金髪美少女を振り向かせるために、食堂跡取り息子の俺ができること~

浦松夕介

第1章 しょっぱい春

第1話 最悪な出会い

 飴色あめいろに焼かれた豚の生姜焼き。


 少しげ目の付いたポーク玉子。


 香り立つエリンギのバター醤油焼き。


 付け合わせの小品にはゴーヤーのピクルス、クーブイリチー(昆布炒め)、ミニトマト、冷凍のチーズワッフル。


 弁当箱の上段にはそれらが入り、下段には梅干しと白米が入っていた。そして———


「あっ!」


 地面に転がった弁当箱からは、それらのおかずが一つ残らずぶちまけられたのだった。


「ウザい」


 そう言ってローファーをジャリと鳴らし、国吉くによし美空みく金色きんいろの髪をなびかせながら去って行った。


 遠巻きから見ていた他の生徒たちが口々に言う。


「あーぁ、告白失敗」


「弁当で釣ろうってのが逆効果だな。あの人モデル目指してるらしいんだから、食事制限とか大変だってウワサなのに」


「てかあいつ、七組の石嶺いしみね養太ようたじゃん?」


「いつもあぁいう感じで誰かしらに告られてんでしょ? 美人も大変だなー」


 それは昼休み、グラウンド横のベンチ広場でのこと。


 散らばった弁当のおかずを手で拾い集めながら、石嶺養太は遠ざかる美空の背中を見つめた。


 四月の暖かい風が吹く中、春の陽光はその金色の髪をさらにきらめかせる。養太はまぶしさに顔を伏せた。


「……余計なお世話だったかぁ」


 周りから向けられる視線やスマホカメラの照準を感じながら弁当を片付け終え、養太はそそくさとその場を後にした。


 今から購買に行ったところで弁当もパンも売り切れだろう。養太は自販機でサイダーを買った。


 炭酸で胃をだまして空腹をまぎらわすしかなかった。のどを刺す甘い痛みを感じながら養太はサイダーを飲む。しかし甘いものを飲んだらなおいっそう、しょっぱいおかずが欲しくなるのだった。


「あーぁ、もったいない……」


 弁当箱の中には砂利まみれになったおかずが入っている。豚の生姜焼きは今日のささやかな楽しみだった。ミニトマトだけは洗って食べたが、それだけだと余計に空腹が刺激されるのだった。


 元々、この弁当は自分が食べるつもりだったものだ。今日もまた元気がなさそうな美空を見かけたら、ついその後を追ってしまったのだ。


「———なぁ、国吉」


 美空がよろりと足下をふらつかせたその時、養太はつい声をかけてしまったのだった。


「…………何?」


 同じクラスとはいえ、会話したことはまだ一度もない。しかし美空が向けてきた眼差しはその時点で、敵意をあらわにしていたのだった。思った以上に刺々とげとげしい反応に養太はたじろいだ。


「あの、あのさ? いつも昼飯食ってなくない……?」


「は?」


「俺、今日は購買の弁当なんだけど間違えて家弁いえべん持ってきちゃったんだ。よかったら食べない?」


「はぁ?」


「いや、嫌ならいいんだ。でも国吉、毎日昼食ってないし、なんか具合悪そうだし、と思って……」


「あぁ、なるほどね」


「なるほど……?」


「それ、貸して」


「あ、あぁ」


 すると意外にも、美空は右手を差し出してきた。その表情はにこやかなものになっていた。


 あんな説明でもわかってくれたのかと、安堵あんどしながら養太は弁当箱を手渡す。そしてそれが美空の手に渡った時だった。


 美空は手首を下に、ふらりと折った。


「あっ!」


 養太が手を伸ばす間もない。地面に落ちた弁当箱はふたが外れ、中の具材は一つ残らずぶちまけられたのだった。


 養太が唖然あぜんとする中、美空は慌てるような素振りも見せず、悪びれることもなく言った。


「ウザい」


 落ちたそれらを青い瞳でじっと見つめてから、ふいと背中を向けて歩き出してしまう。


 その背筋は真っ直ぐで、気丈を通り越して怒りのオーラを振りまいているかのようである。金色こんじきの長い髪が風に揺れていた。


「……余計なお世話だったかぁ」


 そうつぶやいた自分の声が若干震えていたことに、自分で自分が情けなくなった。


 そして一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、去りゆく美空の背中を養太はにらんでいた。


 養太にとって、それが美空との始まりだった。

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