第9話 狩り場

「――兄貴、ちょっといいか?」


 ボロン対決を経て舎弟と化した陽介が話しかけてきたのは、翌日の放課後のことであった。


「兄貴ってこのあと暇?」

「まぁ暇だけど」

「じゃあちょうどよかった! 実はこのあと合コンなんだけど、数合わせで来て欲しいんだ」

「……合コン? 僕でいいのか?」

「もちろん。兄貴のチカラを貸して欲しい」


 数合わせ以外にも何か狙いがありそうな言い方だった。


「頼むよ兄貴」

「まぁ……じゃあ行くだけ行ってみようか」


 行ってどうなるか分からないにせよ、色んな経験をしておくに越したことはないと思った和臣である。


「――おい伊那部、なんで広永なんか連れてくんだよ」

「数合わせにしてももっと他に居るだろ」

「今日の相手って女子大生だよな? こんな陰キャ相手にされねーべ」


 繁華街への移動を始めたさなか、陽介の友人たちが和臣を小馬鹿にしてくる。

 それに腹を立てたかのように陽介が「あのなぁ、お前らこっち来い」と和臣もろとも路地に引っ張り込む。


「兄貴、こいつらに見せてやってくれ」

「え?」

「百聞は一見にしかずなんだよ」


 陽介が和臣のズボンに手を掛けてくる。

 そしてズルンのボロン。


「「「――っ!?」」」


 古館状態ではないが、それでもアナコンダだと分かる和臣ジュニアを見て、陽介の友人たちは驚愕の表情を浮かべ始めていた。


「ま、負けた……」

「圧倒的敗北感……」

「マグナムどころじゃねえ……コレはロケランだべ……」

「これで分かっただろお前ら」


 陽介が和臣のズボンを直しながら言う。


「兄貴はキングオブコックだ。兄貴が股間を押さえてPOW!と叫べばマイケルジャ○ソンを超える」


 あまりにも意味の分からない文言だが、陽介なりに和臣を評価しているのは間違いない。


「兄貴が居れば女は多分イチコロさ。俺らはそのご相伴にあずかる。今回はそういう作戦で行く」

「さすがにおかしいだろその作戦……」


 合コンでチ○コのデカさをアピールする男なんざ恐らく核地雷である。


「大丈夫。女はデカいチ○ポに目が無い」

「エロ漫画じゃないんだから」


 しかし柚や美羽子は実際にそんな反応だったわけで。


「一騎当千の武勇、ぜひ見せてくれよ兄貴」

「なんで三国無双みたいな言い回しなんだよ」

「女どもの虎牢関を打ち破ってやろう」

「何もウマいこと言ってないからしたり顔やめろ」


 そんなこんなで、和臣は女子大生との合コンへと出陣することになった――。



   ※



「――どもー! 俺伊那部陽介って言いまーす!」


 合コン会場はカラオケボックスだった。

 こちらが5人、相手も5人。

 相手は陽介の言う通り近隣の女子大生たちである。

 自己紹介が続く中、女子大生たちは下の名前しか名乗っておらず、こんな場でフルネームを晒しても良いことはないという危機管理能力が働いている辺り、割としっかりしているのかもしれない。


(……桃さんって人可愛いな)


 5人の女子大生の中で燦然と輝く彼女はひと言で言うならギャルで、金髪のボブカットが似合う猫っぽい顔立ちの女子だ。

 この5人の中なら間違いなく彼女がURの当たり枠だろう。

 せっかくこの場に来たのだからお近付きになれれば、と思う一方で、和臣に自己紹介の順番が回ってきた。

 すると、


「――皆さん注目!! このお方は俺たちの中で一番地味だけど実は一番すごくもある俺の兄貴分っ、広永和臣です!」


 陽介が代わりに紹介し始めてくれた。

 何がすごいの~? と質問が飛ぶ。


「何がって、そりゃもうナニがですよ! 兄貴っ、是非その威光を早速!」

「おい……っ!」


 陽介がいきなりベルトに手を伸ばしてきたので多少抵抗したが間に合わず――


「「「「「きゃー♡」」」」」


 ボロンのち黄色い歓声。

 そこからはもう和臣の独壇場であった。

 お姉様方はこれまでに見たこともないアナコンダを味わいたくて仕方なさそうに誰が和臣をお持ち帰りするか視線だけで会話し始め、


「じゃ、ここはウチが♡」


 やがて和臣に抜け駆けを仕掛けてきたのはなんと桃であった。

 どうやら彼女がリーダー的な立場だったようで、ある程度幅を利かせられるらしい。


「ねえカズくん、えっちの経験はあるの?」


 そのまま外に連れ出され、住宅街の方向に進みながら桃がそう訊ねてくる。

 行き先がホテル街じゃないのは、自宅にでも連れ込む算段なのだろうか。


「あ、はい……一応童貞じゃないです」

「ちぇー、初物じゃないんだ。ウチ初物好きなのになぁ」

「でもまだ経験浅いんで、ほぼ未経験と言いますか……」

「へえ、じゃあゴム有りしか経験なかったり?」

「あ、はい」

「ならウチでナマ童貞、卒業しよっか♡」

「い、いいんですか?」

「いいよ~♡ おっきいのにまだウブさの残る少年をウチが導いてあげちゃう♡」


 和臣はごくりと生唾を飲み込んだ。

 

「ヤる場所だけど、ウチのヤリ部屋でいい? 妹と共用なんだけど」

「……し、姉妹のヤリ部屋があるんですか? すごいですね……」


 なんてやり取りをしながら連れて来られたマンションが、


「え……」


 柚のヤリ部屋と同じマンションだったので和臣は愕然とした。


「あ、あの、桃さん……」

「どしたん?」

「い、妹さんってまさか柚って名前ではないですよね……?」

「え、柚だけど」

「!?」


 よもやであった。

 恐らく偶然の一致ではないだろう。


「あ、思えばカズくんって柚と同じ高校の制服じゃん。しかも柚のヤツ最近さぁ、エグいチ○ポのセフレ出来たw って自慢してくんだよね~。ひょっとしてカズくんがこのマンション知ってるのって……」

「は、はいそういうことです……」

「やっぱそういうことなんだっ? かぁ~、世間って狭いね」


 同感である……。


「ちなみに柚って独占欲強いんだけど、他の女子とヤるなとか言われてない?」

「あ、言われてます……」

「でもカズくんは合コンに来てたならその言い付け守るつもりはないんだよね?」

「はい……でもそれが篠原にバレるとマズい事情が……」

「ならそこは気を付けながらしよっか♡ ヤリ部屋の個室は鍵かかるし、もし柚が来ても大丈夫♡」


 というわけで2LDKのヤリ部屋へと連れ込まれ、そのうちの一室に鍵を掛けて2人はヤることをヤることになった。



   ~side:柚~



(姉貴居るし)


 午後9時過ぎ。

 和臣でも陽介でもない別のセフレと一緒にヤリ部屋を訪れた柚は、姉の桃が個室に誰かを連れ込んでお楽しみ中であることを悟った。


「(ね、ナマいいでしょ♡ そのままウチの奥こじ開けながらぴゅってしちゃえ♡)」


(姉貴よーやるわ……)


 うっすらと聞こえてくる声を聞きながらそう思う。

 柚はヤりまくりのビッチだが、ナマだけは避けている。

 余計なリスクを背負いたくはないからだ。


「お姉さんもセフレ連れ込んでる感じ? お姉さんってエロい?」

「うっせーしお前。余計なこと聞いてんじゃねーよタコ」


 姉のことを持ち出されて気分が冷めた柚はセフレを部屋から蹴り出した。

 それから個室に籠もり、今日はここに泊まって朝学校へ向かうことにした。


(はあ、やっぱ和臣じゃないと)


 ベッドにぼふんと寝転がりながらそう思った。

 デカくて御しやすい和臣が遊ぶ相手としては一番だと最近は思っている。


(あいつそういえば今日の放課後陽介たちと合コン行くハナシしてたっけ……合コンでお持ち帰りされてなきゃいいけど……ま、されるわけないよね陰キャだし)


 そう考えながら、風呂は朝に入ればいいやと目を閉じる柚。

 隣の個室で起きていることを、もちろん彼女は知るよしもない――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る