第3話 忍び寄る影

「……お前性奴隷決定」


 決定されてしまった。


 時は昼下がり。

 ラブホを出て柚とランチを共にしている。

 いつもなら絶対来ないような近場の小洒落たカフェに連行され、和臣はナポリタンを、柚はサンドイッチを食べているところだ(ここはそれぞれ自費で)。


「性奴隷決定ってことは……じゃあ体操着の件は墓場まで持ってってくれるんだよな?」


 オホって失神までしたのだから、先ほどの勝者は和臣だ。

 柚の性奴隷になれたら体操着の件は墓場まで持っていくと言ったのは柚自身。

 さすがにその約束は守ってくれないと困る。


「ま、一応墓まで持ってくつもり」

「……一応?」

「結局は和臣、今後のお前の働き次第ってこと」


 気付けば名前呼びになっていた。

 雰囲気も少し柔らかい。

 ちょっと嬉しい部分がある。


「下の名前……覚えてたんだな」

「だからって調子乗んないでね? 気に入ったオモチャの名前くらいきちんと呼んでやろうってだけだから」

「ああ……それより、今後の働き次第では体操着の件をバラす可能性がある、ってことなのか?」

「当たり前じゃん。お前は弱味握られてんだからさ。無駄に逆らえばバラすから気を付けときなね?」


(クソ……でも僕が悪いんだしな)


 結局は体操着をスーハーしていた自分が悪いのだ。

 落ち度があり過ぎて反論など出来ない。


「てかどうだった?」

「……え?」

「えじゃねーよ。脱童したわけじゃん。なんか感想あるっしょ?」

「あ、うん……最高だった」


 着けるモノを着けてのことだったが、素直に気持ち良かったとしか言えない。

 未使用のまま生涯を終える可能性すらあると思っていたのに、まさかこんなにも早い時期に卒業出来るとは夢にも思わず、満足度が高い。

 自分に自信も出てきた。


「そりゃ最高じゃなきゃ困るし。あたしとヤったんだからさ」


 不遜な言葉ではありつつ、柚の見た目は生活圏内における女子の中で最上位なのは間違いない。

 だからこそ言い寄ってくる男が絶えず、遊びまくれるのだろう。


「でもお前、初めてがこんなビッチでかわいそw」


 柚は自虐的にそんなことも言ってきた。


「お前みたいなのってさ、初めては好きな人と~、とか思ってそうじゃん。それが叶わなくなって残念だったねw」

「いや……まぁ、僕は別に篠原で大丈夫……触れ合う機会なんて一生ない、別次元の存在だと思っていたし」


 だからこそ柚の体操着を選んだ部分もある。

 ビッチの体操着くらい別にいいだろという最低な考えと、金輪際触れ合えなさそうな美少女ギャルにせめて体操着でいいから触れてみたい。

 そんな思いでスーハーしていたのだ。


「んだよ……調子狂うね」


 和臣がもうちょい狼狽える様を期待していたらしい柚は、逆に面食らったように頬を赤くしていた。


「まあいいや……とにかくお前は今からあたしの性奴隷。あたしも気持ち良かったからそうする。あたしが求めたら馬車馬のように応じるのが仕事。分かった?」

「分かったけど、毎度ホテル代を要求されるんだったらさすがにキツいんだが……」

「あー、それは安心していいよ。今日は試す日だったからラブホ使っただけで、これからはあたしの部屋でいいし」

「ぎゃ、逆にいいのかそれ……?」

「あたしの部屋って言っても実家ちゃうしね。あたしんちってまあまあ裕福でさ、パパが誕生日とかにマンションや土地くれたりすんの」

「どんなスケールだよ……」

「そんで、和臣を誘える部屋はそのうちのひとつで、要はヤリ部屋。色んなセフレともそこでシてる」

「……なるほどな」

「それと言っとくけど、あたし以外の女とすんの禁止だかんね? どうせ相手いねーだろうけどさ」

「……実際居ないけど、なんで禁止なんだ?」

「お前はあたしのだからに決まってんでしょ。他の女ともヤったら精力減ってアレのエグさ減少するかもしれないじゃん。だからダメ。禁止」


 とのことである。

 割と束縛したがりのようだ。


(ま……どうせ篠原以外の女子との縁なんて出来るわけないしな)


 すなわちその縛りにはなんの問題もないということだ。


「了解……じゃあそういうことで」



   ~side:?~



「なんかおもろい光景はっけ~ん♪」


 和臣と柚が共に過ごしているカフェの外。

 その場を通りかかった1人の少女がニヤリと笑いながら2人の光景を捉えていた。


 栗色のゆるふわヘアーを快活に揺らすその少女は、和臣と柚のクラスメイトである。

 名前は駿河するが美羽子みうこ

 美羽子は普段柚と同じグループで過ごしており、柚との仲は良い。

 一方で柚のモテっぷりに少し癪な感情があったりもして、出し抜けるタイミングがあれば何かしら出し抜きたいと思っている部分もあった。

 そんな中でのである。


「な~んで柚があんな陰キャくんと一緒に居るんだろ~なぁw」

 

 何か特別な事情がありそうだ。

 2人の雰囲気はそう悪くは見えない。

 もしかしたら内緒で付き合っているのだろうか。

 もしくはそうなりかけているのだろうか。

 よく分からないが、


「陰キャくんをわたしに靡かせたら柚悔しがったりしてw」


 物は試しである。

 2人の事情がよく分からないものの、美羽子は少し仕掛けてみようと思った。

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