第40話 どっかの学校の修学旅行開始
「長暮、ちゃんといるか点呼してくれ。」
「わかりました。」
今日から修学旅行。
新幹線に数時間揺られ、久々の地面に足をつけながら、ふわふわとした楽しい気分を押さた俺は列の前に回り込み、クラスメイトの点呼を始める。
「先生、全員います。」
「よし、じゃあ今からバスに乗るぞ。」
「「はーい。」」
ホテルに荷物をおくため、小さな旗を振るバスガイドとともに、用意されていたバスに乗り込んでまた数十分の移動が始まっていく。
「長暮、ちゃんと集まってるか点呼してくれ。」
「え、あ、はい。」
一番前の席から立ち上がって後ろを振り向き、見えるクラスメイトを指を軽く動かしながらパーッと数えて担任に伝える。
「じゃあ、ガイドさんお願いします」
「はい先生、それではみなさん!出発しますよー!」
陽気なバスガイドの跳ねるような声は修学旅行の気分を加速させ、ちょっとした疲労感は青くてフカフカの椅子に吸い込まれていく。
「長暮、一応点呼してくれ。」
「もういいでしょ!!」
窓の外で流れる景色は、地元と同じようなコンクリートジャングルのなのにもかかわらず、すべてが新鮮味を感じる。
「クラス長、ちょっとだけ倒れてくれない?」
「え?」
隣で座る副クラス長の瀧田さんはデジカメを取り出すと、自分の体の目の前に大きくぐーっと腕を伸ばして窓の景色を一枚撮る。
「ありがと、もうちょっとだけそのままにしてて。」
「お、おっけー。」
彼女は腕を伸ばしながら小さな笑顔で外の景色をパシャパシャ撮りつづけ、デジカメに納めている。
「......え、席変わる?」
「ん?いや大丈夫。」
彼女は小さな画面を綺麗なウインクで覗きながら、目を合わせずに会話を続ける。
「......ふぅ、腕いったーい。」
「変わろうか!?」
「大丈夫大丈夫っ。」
華奢な腕がまるでジェットコースターの安全バーのように体の前を横切り少し息苦しくしながら俺も外の景色に浸る。
「そんな何枚も撮るなら動画にすればいいのに。」
「え、これ動画撮れるの?」
彼女は腕を伸ばしながら小さなスイッチやつまみをカリカリすると、動画機能を発見して驚くと同時にありがとうと今までに無いくらい深く頭を下げる。
「右手に見えますのは......」
......あぁ、昨日の不眠と新幹線で仲田達と喋りすぎたせいで急に眠たくなってきた。
「クラス長、大丈夫?」
「うん......。」
徐々に目の前はぼやけ、重たい瞼を閉じきったときの気持ちよさを感じた俺は......
-----------------
「......長。」
「......んん。」
「クラス長ついたよ、起きて。」
「......んん、ありがと。」
隣の瀧田はさっきまで伸ばしていた腕で俺の肩をブンブン揺らしながら無理やり起こす。
「......ごめん......ありがとね......。」
「............」
「......ん、どうしたの?」
目を覚まし、隣の瀧田さんの頬を赤らめた表情となんとなくの雰囲気で少し空気が違うことに気付く。
「なに、なんかあったの?」
「え、いや、ううん......なんでもないよ。」
"なんにもない。"ではなく"なんでもない。"ということは多分なにかあったんだろう。
「ごめん、俺のイビキうるさかった?」
「いや違う......。」
「......え、なんか変な寝言とか言ってた?」
「......。」
「......え、否定して?」
瀧田さんはさらに顔を赤くしてとうとう両手で自分の顔を覆って恥ずかしそうに隠した。
「なにを言ってたの?」
「まあ......ね、仲田君。」
「クラス長......寝言とはダメだよアレは。」
「そうだな......。」
後ろの席に座っていた仲田と二釈は、新幹線の時とは打って変わり、俺をものすごい心配した表情で見つめてくる。
「ちょ、マジで俺なに言ったの?」
「それ言えないよ......。」
「まあさ、クラス長としてのストレス的なのもあったんだろうし......責めたりはしないけどさ。」
「なに言ったんだよ!俺!!」
周りのみんなに聞いてみてもなにも答えてくれず目線をそらすだけ。
いったいどんなことを言ってしまったんだ。
「長暮。」
「先生、俺なんて言ってたんですか!?」
「まあ......俺も寝言だしそんな責めるつもりはないが、クラス長としての活動をこれからやってくのはキツいと思う。」
「俺なに言っちゃったんだよ!教えてくれよ!」
誰も俺を見つめることの無い世界。
あんなに陽気だったバスガイドさんは目線をそらすどころか見渡してもどこにもいない。
......ん?え?どこにもいない?
-----------------
「はっ!!」
「あ、起こしちゃった?」
「よかった......夢か。」
どうやらたまーにあるタイプの夢の中で目を覚ました気になってる、二重に重なったタイプの夢だったみたいだ。
「......って、瀧田さんずっと手伸ばしてたの?」
「へへ......腕パンパン。」
「言われたら変わったのに!!」
彼女は腕を戻し、パンパンになった腕を自分で触って筋肉のちょっとした成長に感心する。
「はい、ホテル到着いたしましたので皆さん降りる準備をお願いいたします!!」
ハキハキとしゃべるバスガイドの一文字一文字が耳のなかを反射してくれる感じのおかげで、ちゃんと目が覚めた。
「はいじゃあ前から順に降りるように。」
前から順番に降りるこのルールは少しだけクラス長としての特権を感じてすこしだけ気持ちいい。
「なんかちょっとうなされてたけど大丈夫?」
「あぁ......なんか変なこと言っちゃった夢見てさ。」
「え、なに言ってたの?」
「それがだれも教えてくれなかったんだよね。」
いったいなにを寝言でつぶやいていたのか。答えの無い問いに正解が欲しくなりながらバスの階段を降りて下につまれたキャリーケースを取り出す。
「そっか、じゃあそれ正夢だね。」
「そうそうまさゆ......え?正夢?」
「うん。」
「え?マジ?ほんとに??」
「うん。」
「みんな引くようなこと?」
「いや、多分私くらいにしか聞こえてないと思う。」
彼女は安心してねとニコッと笑う。
「で、なに言ってたの?」
「......まあ、それは......ね。」
「ちょっと教えてよ!!!」
「秘密!けどそこそこなこと言ってた!」
「ちょっとまじかよ!」
弱みかなにかもわからないものを握られたまま、修学旅行が始まった。
「長暮、点呼してくれ。」
「あんたはあんたで今回それしかしてねえぞ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます