第38話 どっかのクラスの筆箱

 季節も徐々に変わり、二年生としての生活も半年ほど経験をしているタイミングのとある月曜日.....


「うっわ、やっちまった。」

「どうしたの?クラス長。」


 高校生活.......いや、生まれてから学生生活を何千日と経験してきてこんなミスは初めてかもしれない。


「忘れ物しちゃったよ。」

「うわー、クラス長なのにいけないんだー。」

 

 俺の焦っている顔を見て気になった副クラス長の瀧田さんはニヤニヤしながら隣の席でこっちを見ている。


「なに忘れたのー?宿題とか?」

「......筆箱。」

「筆箱!?」


 想定外の忘れ物だったんだろう、瀧田さんはすげえ変な声で驚いてたけど無理はないよ。


「宿題の時に出してしまうの忘れたんだ......。」

「え、宿題は持ってきたの?」

「そう、宿題はカバンに入れたのに筆箱は入れてない。」


 瀧田さんはアホ過ぎるその一連になんて返したらいいのか分かってない様子で、でも絶対に呆れ顔をしているのはカバンを漁りながらでもわかる。


「クソ......休日ゆっくりするために珍しく早めに終わらせたというのに。」


 親から外に出掛ける予定を立てられ、暑いから出たくないと思った俺は、それだけだと理由が弱いとわざわざ宿題が多いからという理由をつけて部屋に籠り、そして珍しく早めに全部終わらせてゆっくりしたというのに。

 今頃筆箱はエアコンの余韻が続く気持ちいい部屋でゆっくりしているんだろう。


「まじ終わったな、急な授業変更とかで回避出来るやつでもないし。」

「全部体育にならないと無理だね。」

「全部体育になってくれー。」


 俺は机に大きく肘をついて肺に溜まった空気を一気に放出するほどのため息を吐いた。


「瀧田さぁん......ペン貸してくれないですか......?」

「まあ全然いいよ、これで良ければ。」


 彼女はそう言いながら筆箱のチャックを開け、ガサゴソと漁ると中から太いゴツゴツしたペンを取り出す。


「ありが......え、これは?」

「あぁ先週家族で恐竜博物館に行ったの、その時のお土産。」


 よくあるレジの前とかに置いてある面白グッズのようなそのペンは、頭の押す部分がパキケファロサウルスになっており非常に押しやすい。

 しかし、ペンのボディも恐竜の皮膚のようなゴツゴツ感になっているため体の再現のためか太いので持ちやすさでプラマイゼロである。


「あ、ありがとう。」

「いえいえ、あぁあとそれ赤ペンだからね。」

「あ、えーっとシャーペンはないですか......?」

「ごめん、私シャーペン七本しかないの。」


 ......七本あるなら一本貸してほしいところではあるが、筆箱を忘れた側の俺がダメ押しを出来る立場ではないのは十分承知している。

 俺は後ろを向き、机の下でスマホをポチポチ触っている友人の仲田に話しかける。


「どうしたよ、焦った顔して。」

「俺筆箱忘れてさ。」

「筆箱!?」


 まあ、忘れ物の部類のなかでは想定外だろう。

 変な声で驚くのも無理はない。


「ちょっとシャーペン貸してくれない?」

「あぁいいよ、ちょっと待ってろ。」


 彼はずっと使い続けているガサゴソと筆箱を漁り、中から一本取り出してくれた。


「ほらよ。」

「ありが.....っと、これは?」

「あぁ安心しろちゃんとシャーペンだから。」

「めっちゃ骨付き肉みたいだけど。」

「そうなんだよ、この前肉博物館行ってさ。」

「肉博物館ってなんだよ!」


 よく見る骨付き肉を縦にし、骨をノックするとすこしだけシャーペンらしくしようと思ったのか少しだけシャープにはなっているが太い。

 骨付き肉に恐竜、原始時代一歩手前みたいなセットだがこれで今日の授業はちゃんと受けられると少しだけ安心した。

 

「まじありがとな。」

「気にすんなよ、あぁあとそれ赤シャーペンだから。」

「赤シャーペンってなに!?」


 カチカチと骨をノックすると徐々に赤い芯が先端から当たり前のように顔を出した。黒いシャー芯のような顔で。


「いやごめん、黒のシャー芯ない?」

「あるけど、黒なんている?」

「いる、めっちゃいる。」


 仲田はしゃあねえなというと、黒いシャー芯を数本取り出して手渡してくれた。

 今日貸してくれたアイテムの中で初めてちゃんと見覚えのあるものに出会ってすこしだけ感動している俺の目の前で、仲田はパッと後ろを向きボーッとしている二釈に話しかける。


「ああ二釈さ、クラス長が筆箱忘れたらしいから二釈もシャーペン貸したってくれや。」

「え......あぁ......って筆箱......!?」


 普段から声の小さい彼も変な声で驚くのも無理はないけど......っていいだろもうこのくだり


「まあ、これで良ければ貸すけど......。」

「マジで、ありが.....ってこれは?」

「槍の形したシャーペン。」

「なんでみんなそう言うの筆箱に入ってるの!?」


 どうやらゲームのポップアップストアに行ったときに買ったものらしい。


「二釈って休日外出るんだな。」

「失礼な......まあ、後から行きたかったってなっても遅いしな......。」


みんな休日にちゃんと外へ出ているのかと、言い訳つけて家の中でボーっと過ごした俺は少しだけ反省した。


「マジ助かるよ、ありが....ってイタッ!?」

「あぁそれ槍の先端の方がノックする方......。」

「相場はこっちだろ!?」


 痛めた親指を反対の指で押し込み、血が浮き出るのを確認した俺は、ポケットからティッシュを取り出してその指にグルグルと巻く。


「でもとりあえずこれで授業受けれるよ、皆ほんとうにありがとう。」

「全然気にしないで?」

「まあ、この槍本物くらい鋭いから気を付けて使ってくれ........。」

「.....ってかクラス長。」


 仲田はなにかに気付くと三本のペンをそれぞれ指差した。


「恐竜、骨付き肉、槍って......原始人みたいなセットだな。」

「プフッ」

「フン......」

「あ、お前気づきやがったな。」


 しばらく原始人キャラがついた。

 エアコンの風がやけに冷たく感じて氷河期かと感じた今日、二度と筆箱を忘れるかと胸に誓った。

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