夏休み~額に伝う汗、未来に繋ぐ風編~
第30話 どっかのクラス長と近所のお兄ちゃん
「ふう、うっめー。」
ザルからめんつゆにつけてそうめんをすする俺は、共働きで親のいない休日に夏休みを実感していた。
"じゃあ罰ゲームは赤チーム!"
"いやちょっと待ってくださいよー!"
昼少し前、録画されていたバラエティ番組を見て親の帰りを待ちながら飯を食う。
自分にとってそれは夏休みの少ない楽しみであった。
一人の世界、みたい番組も空調の温度も全部を独り占め。
今年の夏休みは外に出ずゆっくりすることに決めた。
ブーッブブッ
と、夏休みを実感していたとき、突如として携帯のバイブ音がなる。
「......え!?」
とある人から久々の連絡、そうめんを残したままその場を立ち上がり、家の窓をガラガラと開けると......
「おっ!いるじゃんエイジ!」
「あ、久しぶりです!」
小さい頃仲良くしていたご近所のお兄さんがこっちを見つけて大きく手を振っていた。
「帰省ですか?」
「おう!ちょっとだけな!」
三つ上くらいのお兄さんこと、
「将棋部が強い高校へ行きたいみたいなの言ってましたもんね。」
「あぁ、でも仮入部で辞めた!」
「え!?やらなかったんですか!?」
「おう!なんか思ったより将棋難しくてさ!」
「あ、そもそもルール覚えてなかったんですか!?」
なんでそんなので入学できたのか謎すぎるその元気な男は腰に当てて大きく笑いながら話しやすい位置まで徐々に近づいてきた。
「あれ、エイジの母さん達いないの?」
「あぁ今日はどっちも仕事で......。」
「そっか、一応土産買ってきたから貰ってくれ!」
男はそう言うと、銘菓の入ったパンパンのビニール袋を渡してきた。
「俺バカだからどれだけ買えば良いか分かんなくてさ」
「そんな気使わなくていいですよ......うわ美味そう。」
「まあ美味かったらこっちの駅で普通に買えるからさ。」
「あんま言わない方が良いですよ。」
大学生になった気山さんはその高校からエスカレーター式に入学して、少し遠くの県で勉強を頑張っているらしい。
俺、バカだから分かんないけど.....といいながら勘も鈍いタイプの人なのでどうやって大学に入れたのか気になる所だが。
「いやーにしても、背伸びたなエイジ。」
「いやいや、まあそれなりですよ。」
「背の順とかならだいぶ後ろだ?」
「まあ......あ、でも俺クラス長なんで基本先頭なんですよ。」
「え!?クラス長やってんの!?」
「あぁ、はい。」
背筋をビンっと伸ばしコミカルな驚き方をする気山さんは勢いが強かったせいか、痛そうな顔で背中を押さえる。
「イテテ......ってかクラス長ってなに?」
「分からないのに驚いたんですか!」
「いや、なんか凄そうな名前だったからよ!」
「まあ、学級委員みたいなやつですね。」
「あぁやっぱりそういう系か!」
昔の今より平凡だった自分の姿を知っている気山さんは、その意外性に驚きながらも感心をしながらそうかそうかと大きくうなずいた。
「ちょっと今から飯いくんだけどさ暇なら一緒に行かない?」
「え、あぁごめんなさい。俺そうめん食べてて。」
「うわー!でっけえハンバーグ食おうと思ってたんだけど流石にもう入らないか!」
なんというか会話の節々にちょっとだけバカさを感じるが、昔良くしてもらっていたので悪いことは言えない。
自分の持っていないテレビゲームをよく貸してくれたり、登校中に転んで擦りむいたときに"大丈夫か"とおんぶしてくれた彼は少しバカっぽいけどいい人だ。
「あ、家あがりますか?」
「おぉ、いいのか!?」
これ以上気山さんを外に置いて自分だけ涼しい場所で話すのは申し訳ないので親が帰ってくるまでの間家に上げることにした。
「お邪魔します!!」
「これ残りパパッと食べていいですか?」
「おう!それ食ったら一緒に飯行こう!」
「いやだから食えませんって!」
「デザートだけでいいから!それも俺が金出すし!」
「まあ、じゃあ......急いで食べるんで。」
優しさを無駄にしないよう、残りのザルに上がっているそうめんをものすごいスピードでズルズルとすすり、ものすごいスピードでお椀とザルを洗って準備を整える。
「終わりました。」
「はっや!」
「行きましょう、俺のお腹が膨れちゃう前に。」
家の窓を確認してカギを閉め、久々の外のグワンと歪んでしまいそうな暑さに顔をしかめる。
男はそんな暑さをもろともせずにこっちだと手招きすると、そこの駐車場には小さな車がババンと置いてあった。
「え、車買ったんですか?」
「あぁ、中古車だけどな。」
「でも大学二年生?で車買うのはすごいですよ。」
「親の助けももちろんあったんだけどなー。」
と謙遜しながらもどこか自慢げで鼻を擦りながら笑う元気なお兄さんは、助手席に置いてあった荷物を後ろの席にポイっと投げる。
「はい乗って!」
「失礼します......。」
「どう、いいだろー新車の匂い。」
「中古車なんですよね?」
自分のボケに自分で笑いながらドアのロックを閉め、キーを回してカーナビを操作する。
「ごめんな、俺ハンドル握ると性格変わるからさ。」
「自覚あるなら治したほうがいいですよ。」
「ごめんな......ほんとにごめんなぁ。」
「え、ダウナーになるんですか?」
いつものクラスメイトとは比にならないくらい次々ふざけてくる男になんとかくらいつきながら、無駄にいい匂いのする車内でゆっくりくつろぐ。
「運転中はふざけちゃダメだから静かにするぜ。」
「マジでお願いします。」
「ちゃんとハンドルは22時10分で、っと。」
「なんで夜なんですか。」
車を出発させると、気山は長暮にナビ操作で音楽を流すように伝える。
「いやー、テンション上がってきたな。」
「ゲンスケさん前からずっとこの曲聞いてますね。」
「そうなんだよ、カラオケも十八番でさ。」
「......これドビュッシーの月の光ですよね。」
もう長旅の帰り道のようなテンションになるようなしんみりした曲を流しながら、
ニッコリした笑顔で運転を続ける。
「アッパー系の曲じゃないですし歌詞もないですよ。」
「あぁそっか、アニソンと間違えてたわ。」
「どう間違えたんですか。」
自分は気山さんにナビの中からアニソンを探してくれと頼まれたので、自分より少しだけ上の世代がハマっていたであろうハイテンポのアニソンを探して流す。
「ていうか、久々に外でましたよ。」
「おおそうか!まあアツいけどたまには外出ねえとな。」
「まあ、確かになまりますもんね。」
「お、二つの意味で?」
.......?
ジーッと外を見つめた後、目をキョロキョロさせながらもう一つの意味を探す。
「え、二つも意味有りました?」
「あれ、無かった?」
「そういうつもりでは言ってなかったですけど......。」
「まじかー、ふたつも意味無かったか。」
「......え、分かんないで言ってるんですか?」
気山さん、どうやら二つの意味が実際通ってるとかは関係なく一か八かでいつも当てに言っているらしい。
流石にちょっと......と思いながらも、公園で一緒にサッカーしてた時どんだけ遠くに蹴ってしまっても取りに行ってくれた恩があるのでそっとしまう。
「そう、ダブルミーニング当てられたらかっけえっしょ?」
「いやあんまり分かんないですけど......。」
「3割8分くらい当ててんのよ?」
「だいぶ当たってないですよ。」
「え、それバッターにも言える?」
ものすごいすり替え方だ。
「バッターとゲンスケさんは指標が違うじゃないですか。」
「バッターの指標は?」
「どれだけボールを当てられるかじゃないですか?」
「俺の指標は?」
「どれだけダブルミーニングを当てるかじゃないですか?」
「俺の指標は俺の人生で決めるから、長暮君が決めるもんじゃないよ。」
「なんなんですかずっと!!!」
久々で何か溜まっていたのか、ひたすらふざけてくるお兄さん。
前までは天然的な部分のボケが多かった気がするが、それを乗りこなしたのかなんか確実に言葉で狙いに来ている。
「なんか、失礼だったらあれですけどボケ過ぎじゃないですか?」
「あ、あぁわりいね.....ちょっとさ。」
男は急にどぎまぎしながらさっきまでポンポン吐き出していた言葉を濁す。
「え、なんかあったんですか。」
「いやー俺の好きな人がこの前さ、"面白い人"がタイプって言っててさ。」
「ああ......なるほど。」
「あぁ.....恥ずかしい!」
「ちょ!顔隠さないでください!運転中ですよ!」
今日の道路は車が少ないとはいえ危なすぎるボケを注意し、話を聞く。
「というか自分が一緒に遊ぶグループの女性みんな面白い人がタイプらしくて。」
「えぇ、確かに最近お笑いブーム来てますもんね。」
「だからちょっと練習したかったんだ。」
「あぁ......ならまあ、仕方ないですね。」
「ちょっと付き合ってくれる?」
「良いですけど.....自分あんまり女性の経験ないですよ?」
副クラス長の瀧田さんやちょい遠い同郷の柴北さんとかがいるからなんか浮足立っていっちょまえに手伝いみたいなしているがそういえば自分全然女性への免疫なかった。
「いいっつーの、0よりは0.0000001でも経験あった方がいいから。」
「自分から言っておいてアレですけど誰が0.0000001なんですか。」
自分は気山さんのスマホのフォルダから何人かで一緒に遊んでいる中に映るその女性の写真を見せてもらい真似したところで早速女性役として入ってみる。
「気山さん、運転うまいですね。」
「......だ、だろ?あ、あのー、うまうま......馬だろ?」
「ちょ、一回止めます。」
男は口を力強く瞑った。
自分でも気づいている、あまりにも下手すぎたことに。
「下手すぎませんかいくらなんでも。」
「ごめんマジで、女性の距離感分かんねえんだ俺。」
「さっきとおんなじ感じでやったら良いんですよ!」
そんなこんなしてたらレトロな喫茶店についたので、店の中に入る。
「てか、気山さんと二人きりで会うの初めてかも。」
「いや昔からよく遊んでたでしょサッカーとかして!」
「あ、いやごめんなさい今女性の役してたんですけど。」
「あ、ごめんごめん。」
結構声とか高めでやってたのだが、今の気づかれなかったことが少しだけ恥ずかしい。
「ごめんエイジ、もう一回やって。」
「.....えーっと、気山さんはなに頼むんですか?」
「デカいハンバーグってさっきも言ったよエイジ。」
「だから俺ずっと女性の真似してんすよ!」
俺と気山さんはベルを押し、サッと注文を済ませると無言の時間を生んでしまう。
「......こういった時とかさ、なに話せばいいか分かんないんだよね。」
「うーん......大学の話とかじゃダメなんですか?」
「なんかそれだと面白味無いって思われないかなぁ。」
「自分とその人の周り中で面白いニュースとか無いんですか?」
「あぁ、ちょっとなんかあったかな。」
男は連絡アプリを取り出し、ここ最近あった自分と彼女のグループとかであったニュースを探す。
「うーん、なんかみんなカッコつけちゃうから面白い展開無いな。」
「.....でも、じゃあチャンスですね。」
「え?」
「ほら、みんなカッコつけてる中一人だけ面白かったらその子はおろか、全員からモテますよ。」
その言葉にハッとする気山さん。
「確かに......。」
「それに気山さんは既に俺相手にボケる力はあるので、それをあとは行動に移すだけですよ!」
「エイジ......作戦立てよう!」
「はい!」
俺と気山さんは、ハンバーグとチョコレートパフェだけで約4時間喫茶店にとどまって作戦会議をした。
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約一週間後、気山さんから突如電話が来た。
「もしもし、久しぶりです気山さん。」
「おうエイジ、前の作戦やってきたから報告をしようってな」
多分車内、喋るたびに車のドライブ音と前聞いたアニソンが聞こえてくる。
「あ、どうだったんですか!?」
「......大失敗だった。」
「え!?」
俺は思わず部屋で一人大きな声を出してしまった。
「なんでですか!?」
「それがな......。」
気山さんはかくかくしかじか、彼女と二人で遊んだ時の説明をしてくれた。
「......なるほど、じゃあ面白い人がタイプってのはみんなカッコつけすぎて面白くなかったからその空気を壊すためだったってことですか。」
「そう、それで俺がモテないまま更に面白担当になっちゃった。」
男は悔しそうな声を振り絞ったあと、大きなため息をついた。
「そりゃ災難でしたね。」
「実際は普通にあんま関係ないらしいみんな。」
「まじすか......。」
「で、今その子全然面白くないグループの奴と付き合った。」
「まじすか。」
彼の電話越しで聞こえる鼻をすする音はズルズルしている。
多分今にも泣きそうなんだろう。
「まあでも、まだ数年大学生活あるなら出会いありますよ。」
「エイジ.......うぅ......。」
あ、泣いた。
今ハンドル握ってるからか、よりダウナーになってる。
「......」
......あ、ドビュッシー流れた。
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