どっかのクラス長 ~二年生は中弛む~
佐久間 ユマ
プロローグ どっかの朝
「エイジ、良い加減起きなさい!」
「あぁ......ううん。」
久々に母親の声で目を覚ました男、長暮エイジ。
ベッドでため息をついた彼は、むくりと体を起こした彼は目をこすりながら階段を降りトイレに向かう。
「......あーあ、バカねみぃ。」
一昨日くらいからなんとか昼夜逆転を戻そうと、早めに電気を消していて目をつむったが、現実はそう甘くない。
夜更かしで寝る時間を遅らせることはいとも容易くできるにもかかわらず、逆に早める行為はなぜか中々出来ない。
「あぁ......おはようございます。」
「いつまでそんな顔してんの!!」
母親の声を聞き流しながら昨日までの夜更かしに対する後悔と苛立ちで後頭部をガシガシ掻き、洗面台の歯ブラシを口に突っ込む。
「朝ご飯どうするの?」
「あー、始業式帰ってきたら食べます。」
歯磨き粉のメントールで少しだけ目を覚まし、口をゆすいだ少年は急いで制服に着替える。
「......ってもうやべえじゃん!」
「だからあんなに起こしたのに。」
クリアファイルと課題の入ったカバンを背負った少年は、ガチャッと勢いよくドアを開けて外に飛び出す。
「行ってきます!」
「じゃあ残しとくからね!回鍋肉!」
扉の閉まる音は少し遠くで聞こえるほど彼は走り出している。
「.....なんで朝からガッツリ中華なんだよ!」
と小さく吐き出しながら始まった高校二年初めての通学路。
「......お、ラッキー。」
パッポ、パッポ。
幸いなことに大きな横断歩道の信号が青になったため、心の中でガッツポーズをしながら前傾姿勢でダッシュをして渡る。
「学校マジダリぃよなー。」
「それなー。」
後ろから違う制服を乗せた爆走する自転車に追い抜かされては、そんな青春を少しだけ羨ましく思ったり。
「間に合う......間に合うはず!」
いつもより二分遅く出た家、その二分は彼の心を焦らせるには充分すぎる時間であり、昨日その二分早く寝れていたらという後悔を置き去りにするほどのダッシュで停留所に向かう。
「あれ......待ってる人がいない。」
"もしかしたらもう行ってしまったのか。"
自分の昨日の二分のせいで始業式早々バスに乗り遅れたのか。
焦りと苛立ちで側頭部を搔きながら冷や汗を滲ませると、後ろから大型の車が吐き出す低く重たいエンジン音のようなものが鳴り響く。
「......来た!」
ラストスパート。小さな横断歩道で待つ男の後ろから、乗るつもりのバスが堂々と現れると、彼の横で共に赤信号を待ち始めた。
「もうそんな時間か......」
いつもは早くつき、バス停の一番先頭に立つ彼は今のこの状況にさらに焦りを感じる。
バス停までの距離は約百メートル、渡らない方面の信号が赤になるのを確認した男は呼吸を整える。
......チュン、チュンチュン。
「来た!」
切り替わる青、スタートダッシュは少年の方が早い。
「くっそー、間に合え.....間に合え!」
足の速い友達に教えてもらった走り方を覚えてる限り使い、何とかバスに間に合うようにと後はパッションで歩道を突っ切る。
「間に合う......間に合う!!」
...............
「予定より早く到着しましたので、出発までもう少しお待ちください。」
"普通に歩いても間に合ったじゃねえか!"
心の中でそう思いながら後ろから二列目の空席に座りこみ、自分の太ももをグーで叩く。
落ち着いてスマホを取り出し画面をみてみれば、いつもより数分早い時間がそこには表示されていた。
多分かなり序盤で巻いていたことに気づいた長暮は苛立ちと安心で前頭部を搔き、鞄のなかに入っていたいつかの乾きったコンビニのおしぼりで顔をふいた。
「......はぁ。」
一息を突き久々にバス越しの外を眺めると春休みはそんなに気にしてなかった桃色の桜がヒラヒラと無機質なコンクリートを色づける。
二週間ぶりの学校、彼は少しだけ、ほーんの少しだけ二年生という姿に楽しみな心を膨らませながら飛び出たシャツとネクタイを直して出発を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます