第18話 幕部城


シンは魔王竜ツヴァイヒメルによって連れ去られた


シノブの叔父が頭を務める御庭番たちによって、東の幕部城跡に連れて行かれたことが判明する


武蔵野の国の群狼山に築城された『幕部城』


その城は現在は城主はおらず、廃城となっている


その理由は幕部城は豊臣秀吉の小田原攻めの時に遡る


城主『葛城直親』は家来の『雲延吉光』が秀吉側に寝返った


城主の寝込みを家臣とともに襲い、その妻子ともども残らず鏖殺したのだ


主君の首を土産に雲延吉光は秀吉の家臣になったが、数年後には病死した


その死に様は、葛城直親の霊が三日三晩枕元に現れて、吉光は狂い死したという


城は葛城直親の霊が夜な夜な彷徨うという噂で、その雲延の死後も誰も城主にはつかず現在は荒れ果て天守閣のみが残されている


ムクロ、シノブ、レイヤ、フェイの四人は半日かけて鬼哭山の集落から群狼山へと移動した


「あれが幕部城です」


「上様は無事ならええんやけど」


「見る限り、廃墟だが、ここに、本当にシンはいるのかよ?」


「ムクロ、お前の目は節穴か?」


なんだと、フェイの言葉にムクロが食ってかかろうとする


「ムクロはん、あそこですわ」


レイヤが天守閣を指を指す


天守閣から何かが飛び出してきた


「があああああああ!!!」


飛び出してきた影は、もちろん『剣魔』ツヴァイヒメル


抜き放った二本の刀を振り上げながらこちらに向かって上空から飛びかかってくる


キイイいいいいン


ムクロの抜き放ったギルセリオンがツヴァイヒメルの二刀を受け止める


「くっ!」


重い!


その刀の一撃は、まるで破壊鎚だ


自らの刀の一撃を受け止めたムクロに対して、ツヴァイヒメルは口を歪めて嬉しそうに笑う


その笑顔は邪悪さのない、無邪気なものであった


こいつは、間違いなく戦うことを心の底から悦んでいる戦闘狂だ


「小僧、よくぞ我の剣を受けたなあッ!!」


ツヴァイヒメルの左右二刀の刀が繰り出されてゆく


ムクロはその一撃一撃を全て、受け止めてゆくが、刀の重さが、振るわれるたびに、どんどん重くなってゆくのを感じた


ギリギリ今は受け止め切っているが、このままでは持たない


ーーなんだ、こいつの剣は


振るわれるごとに威圧感や、重みが増してゆく剣


この異様さは受けてみた本人にしかわからない


ーーまさか、これが、ツヴァイヒメルの魔剣の能力か


「ムクロさん!!」


シノブが手裏剣を投げた


「ふむ、忍か」


ツヴァイヒメルは左の剣を、その手裏剣に向けた


すると手裏剣は全て、地面に吸い込まれるように落ちてゆく


「はああああ!!」


レイヤが多鉾を振り上げてツヴァイヒメルに切り掛かる


「邪魔するなああ!ドワーフ!!」


今度はツヴァイヒメルはレイヤに向けて右の刀を向けた


「な、なんや、これ」


するとレイヤの体がふわふわと浮き上がる


「大鉾の重さや、体の重さがまるで消えてしまったようや。前に行こうとしても体が浮き上がってうまく進まへん!」


フェイはツヴァイヒメルを睨みつけた


「貴様の魔剣の能力は『重力操作』か」


「ふむ、紹介せねばなるまい」


ツヴァイヒメルは二本の刀剣を構えた


右の赤い柄の刀、左の青い柄の剣


黒い金属で、造られており刃は光を反射せず、飲み込んでゆく


「魔剣『大自在天神マハーシュヴァラという。右の刀が重力を増加させる。その反面、左の剣が重力を奪う性質を持つ」


「でやあああああ!!」


ムクロが切り掛かる


「刀の重さを自在に操る、それは刀の威力を無尽蔵に高めることができるということよ」


ムクロに向かって重力操作によって重さを増した刀を振るった


「さあ、この重さの刀は受け止められるかな!」


「クソドラゴンが、かかったな!」


ムクロのギルセリオンにマハーシュヴァラが触れた瞬間、ツヴァイヒメルの体が大きく弾き飛ばされ、後ろに吹き飛んでいった


塀が砕けるほど叩き込まれたツヴァイヒメルにムクロは剣の銃口を突きつけ、引き金を引く


ズガガガガガ!!


ツヴァイヒメルの体に銃弾が撃ち込まれてゆく


「フェイ!」


ムクロは叫んだ


「ここは俺たちに任せて、シンの奴を取り返しにいきな!」


「わかった」


頷くとフェイは天守閣に向かって駆け出した


「ここは任せたぞ、ムクロ!」


ーー任せたか


姉から初めて言われた


嬉しいかと言われれば、複雑なところもあるが、感傷に浸っている場合ではなかった


「悲しいねえ」


ツヴァイヒメルがゆっくりと立ち上がった


その体はドラゴンの鱗に覆われてゆく


その頭からは三本の角が生えて、顔は口が裂けた赤いドラゴンのものへと変わっている


竜と人間の中間の姿


竜人形態である


「たった三人でこの我をどうにかできると思っているなんてよお〜、悲しいじゃあねえか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る