第4話「流言」
高田馬場のゲーセンで聞いた「
その響きは、妙に俺の頭にこびりついて離れなかった。
伝説的な腕前、黒い噂、そして裏社会との繋がり。
倉田さんが語った「本場所」の代打ちと、
そして、もしケンジが、ひそかに
踏み越えてしまう可能性はある。
俺は安アパートに戻った。
古びたデスクトップPCが一台。
ライター稼業の、けして上等とは言えない相棒だ。
電源を入れ、ブラウザを立ち上げる。
「格ゲー 鴉」
「新宿 ゲーセン 鴉」
予測変換には、「鴉 強すぎ」「鴉 消えた理由」といった言葉が並ぶ。
思った以上に、ゲーム好きの間でその名は知られているらしい。
『マジで神。対戦すると心が折れる』
『ヤクザに目つけられて飛んだんじゃなかった?』
『クスリで捕まったって聞いた』
情報は錯綜している。
だが、いくつかの信頼できそうなソースから、彼の輪郭がおぼろげに見えてきた。
ある古参格闘ゲーマー「G」が運営するブログ記事。
そこに90年代の新宿のゲーセンシーンが詳細に綴られていた。
そして
―――――――――――――――――
……忘れてはならないのが『
彼は異質だった。
他の強豪プレイヤーが、スポーツマンシップや仲間意識を持って対人戦を楽しんでいたのに対し、彼は常に孤高で、勝つことだけに異様な執念を燃やしていた。
プレイスタイルは冷徹。
だが、ハメ技や強技を振るタイプではない。
相手の心を折るような戦い方をした。
時にあえて最弱キャラを使って、一方的に勝利した。
彼がキャラを変える度にダイヤグラムが書き換えられた。
彼がどこから来て、どこへ消えたのか、今となっては誰も知らない。
だが、あの時代の新宿に、間違いなく伝説は存在した。
―――――――――――――――――
記事には、一枚だけ不鮮明な写真が添えられていた。
当時のゲーセンで撮られたものだろう。
多くの若者が筐体を囲む中、一人だけ違う方向を向き、煙草を咥えている痩せた男の横顔。
顔ははっきりとは分からない。
だが、その姿には、確かに他の人間とは違う、近寄りがたい雰囲気があった。
さらに検索を進めると、ある地方都市のゲームセンターのコミュニティサイトの記録に行き当たった。
そこには、「黒木」という苗字の、天才的な腕を持つプレイヤーがいたことが記されていた。
高校にもろくに通わず、一日中ゲーセンに入り浸り、地元では敵なし。
家庭環境に恵まれなかったらしい。
そして、ある日突然、街から姿を消した。
この黒木が
そして、匿名の巨大掲示板、「アウトロー板」。
暴力団関係者や半グレ、あるいはそれらを気取る連中の巣窟。
俺が実話誌時代に嫌というほど覗いた場所だ。
嘘と虚勢と、時々、妙に生々しい真実が混じり合う、デジタルの掃き溜め。
『龍生の代打ちが、あの伝説の男って噂』
『鴉?生きてんのかよwww』
『龍生が拾ったって。借りでもあんじゃね?』
『太田も新しいタマ入れたとか。でも鴉には勝てんだろ』
『そのタマ、前の本場所で消えたぞ』
『マジ?最近見ねえな。飛んだか?』
……消えた? 太田組の代打ちが?
まさか。
背筋が冷たくなるのを感じた。
ケンジのことか?
早計すぎる。
だが、タイミングが合いすぎている。
そして
倉田さんが言っていた、太田組と対立している新興勢力。
情報は断片的で、どれも裏付けがない。
だが、高田馬場で聞いた噂や、倉田さんの話と、奇妙に符合する部分がある。
無視はできない。
伝説のプレイヤー
そして、ケンジは太田組の代打ちとして、龍生会との「本場所」に関わり、消えた……。
これは、まだ仮説だ。
だが、点と点が、少しずつ線で繋がり始めている気がした。
次はどうする?
太田組か、龍生会か。
いずれも直接接触するのは危険すぎる。
ヤクザと、まともに話ができると思う方が間違いだ。
俺はモニターから目を逸らし、冷え切ったコーヒーを啜った。
「それでも……、やるしかない。か……」
デジタルの荒野は広大だが、真実にたどり着く道は、やはりリアルな世界にしかないのかもしれない。
そして、そのリアルな世界は、あの生臭い裏社会と繋がっている。
【調査メモ #3】
場所: 自宅アパート(PC)
キーワード:
「鴉」本名は黒木? 地方出身?
孤高、冷徹、勝利への執念
素行不良で表舞台から消える
龍生会に拾われ「代打ち」として活動中?
太田の代打ちが最近消えた(ケンジ?)。
――次
ケンジ周辺。 太田組の動き。
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