サイクロプス
サイクロプスの村の途中、砦に似た関所が待ち構えていた。三人の番が槍で止めた。
「山賊だけどどうすればいいかな」
「山賊だという証拠はあるかい?」
婆さんが聞いてきた。
難しいな。
襲われたのは間違いないが、飢えかけた村人なのか職業強盗なのかは答えられない。
「僕はこういうものだ」
銅板を出した。
すると、
「おや?ヴィンじゃないかい?」
砦の上から若い女が顔を覗かせた。
短い髪で少し目が離れていたが、ニコッと笑うと愛嬌があるハルという娘である。もともとアマンダのところで医療班として従軍していた子だから、ヴィンとも知った顔だ。
「盗賊が怪我してるんだ」
「置いときなよ。こっちからコイツらの村へ連絡しといてやる。で、何なの?」
「石ころ落ちてきた?」
「ああ」
ハルは通せと命じると、何人かが出てきて柵を左右に移動させた。今度は反対から二カペルだよと笑いながら手を出してきた。
「一シルベ置いとく」
子どもに渡した。
「釣りはいいね」
「難儀だね。食料も置いとくよ。村へは入っていいのかい?」
グランはスレイと互いに首を傾げた。
「わたしが行くわ」
ハルは降りてきた。
グランの馬に乗せた。
「この子誰?」
「弟子」
「食べたいくらいかわええ」
グランは戸惑った。
食べたい……実際に食べられる。もしくは何らかの比喩。どちらか迷う。スレイは食べたいと言うと、実際に食べられる。
「商売、どうなんだい?」
「戦争済んだしね。いい鉄でいい剣を打ててるのかな。卸だから値は少しだけど」
ポコポコと村へと繋がる道を行く。
スレイは尋ねた。
「何なの?」
「ここは鍛冶職人の村だね。ここを流れる川にいい鉄があるからね」
「あれは?」
スレイは後ろの巨人の影を指差した。
「攻撃されたときの防衛魔法だ。たいていあれで驚くんだけどね」
「あれは何もしないの?」
「するの?」
ハルに尋ねた。
「今んところしない。騒ぎになるとクロノスがうるさいしね。ま、脅しだね」
村に着いた。
ヴィンはスレイに遠くに見えるのがたたら場だと教えた。あちらこちらに鍛冶職人が暮らしていて、剣を生産していると話した。
「誰かと思えば、フレンシアの妹かい。みんな健勝にしとるかいな」
杖をついた老人が迎えてくれた。
ヴィンは頭を下げた。
グランとスレイも真似た。
「新しい剣でも買いに来たか」
「石ころのことで謝りに来ました」
「あん?」
ハルが食堂に案内してくれたので、屈強な腕をした何人かが聞きつけて現れた。
「上弦の剣を折ったらしいな」
「もう十年も経つ。今はこれだ」
「百合の剣だな。折れてからが持つ奴の腕の見せどころの伝説の剣だ。で、何だ?」
「石ころだよ」
「嫌がらせなんて気にしねえよ」
「嫌がらせでもないんだ。どうやら送還装置の故障でここに飛んでくるみたいなんだ」
スレイは酒を飲んでいいかと尋ねてきたのでダメだと答えてから、ヴィンは皆と話した。
「故障かい。修理せんのか」
「カネがないんだと。ラマル族のための送還装置は今は動かないでもらいたいんだ」
「どうして?」とハル。
ヴィンはスレイを見た。
集まった男どもがスレイを見た。
「ん?」
スレイは首を傾げた。彼女は「魅力」を使うことすら忘れかけているように思えた。
ヴィンは理由も付けて召喚獣対策法がダメだと言われたことを話した。
「アマンダが送還されなくてもいい召喚獣もいると訴えるみたいだよ」
「何でまたアマンダ様が」
「怒ってるのがシュミットだから」
「あちゃ」
皆が皆、手で顔を覆った。
アマンダも大変だなと聞こえた。
「改正できん場合は?」
「言うな」
長老が杖で制した。
我々は中立だと皆が頷いた。
「何ならシュミットが国王に言えば?」
誰かが話した。
「僕もそう思うんだけどね。でもさシュミット自身召喚獣じゃん?謝るついでに新しい剣がないかと来たんだ」
「百合の剣やめるのか」
「僕じゃない。彼女に短剣をね。独特の魔力を抑え込むのにいいもんないかな」
「なるほどね。わたしにも魔力教えてくれないかな。街でいい奴捕まえてきたい」
ハルが言うと、
「バカバカしい」
皆が解散した。
仕事だ仕事。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます