5-14
いよいよ十二月が差し迫ってきた。
「船はどうなってる」
高橋に聞くと、
「やはり、遅れるようだ。海外の人間は、時間にルーズだからな。約束の時間に間に合わないということに、なんとも思っていない。到着は来年になるだろう」
「組は混乱するだろうな」
「取引場所はどうなっている」
「まだわからん。寸前にならないと決まらないということになっている」
「連絡手段は」
「いつも通りだ」
そう言って、黒木は立ち上がった。
屋敷に戻ると、吹野が彼を探していた。
「おっさん、辰野の兄貴が呼んでるぜ」
辰野の部屋に行くと、彼はなにやら苛立ちを隠しきれないようだった。
「どうしました」
「さっき香港から連絡がきて、船の到着が遅れるそうだ。取引が延びる」
「へへえ」
「こんなことなら、勝瀬と手を組まないでもうちで金を用意できた。大損だ」
「で、取引はいつになるんですか」
「年初めだ。場所はお台場」
目を伏しがちにして、瞳の光を見られないようにした。
「取引の場にはお前も来てくれ。物騒な連中が来るからな」
「かしこまりました」
いよいよか。スマホで連絡すると、足がつく。公衆電話で電話するか。
結局、三年かかっちまった。やれやれだ。
十二月の半ば、繁華街の隅のさびれた公衆電話から高橋の携帯に連絡した。課の人間を総動員して、俺を張っておいてくれ。場所はお台場だ。
麻薬でひと儲けしようという人間のクズを、一網打尽にできる。しかも、瀬名垣組だけではない、勝瀬組もだ。
途中、若い女の集団とすれ違った。その若々しい、甲高い声に、黒木は少しだけ当てられて、それで碧を思い出した。
俺のこと、まだ忘れないでいてくれてるかな。覚えててくれてるかな。
そんなことを考えながら、にぎやかな繁華街を後にした。
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