7話 Nightmare did exist
「あああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「ジャック! ジャック! ジャック、しっかりなさい! ジャック!」
ぐらぐらと強く前後に揺さぶられる力と、叱責する様な力強い怒声のおかげで、悲鳴をあげていたジャックはハッと我に帰る。
そうして「ああ」と情けない悲鳴の残りを零すと、彼はパチパチと目を瞬いた。
目の前にいる存在がしっかりと視界に入ると、きょろり、きょろりと辺りを見渡す。
するとどこかに飛ばされていた理性が、じわじわと戻り始めた。
「……マム? ダッド?」
ジャックは、双眸に映る両親の姿に確証を得るべく、訥々と尋ねる。
デイジーは不安げな面持ちのまま「そうよ」と大きく頷き、ジェイソンは「一体、どうしたって言うんだ」と心配と苛立ちが混在した様な面持ちで尋ね返した。
「どうした? どうしたって……それは……それは」
ジャックは訥々と言葉を紡いでから、「こっちが聞きたい位だよ」と見渡して得た光景に疑問を打つ。
「なんで、俺はここに居るんだろう?」と。
そう。ジャックが目覚めた場所は、飛び出たはずの自室だった。しかも、あの恐ろしいピエロ・ヴァイニーの姿はどこにもない。
……や、やっぱり悪夢だった。そ、そう言う事なのか?
ジャックはゴクリと唾を飲み込んだ。どろりと、食道をゆっくりと這っていく。
すると「悪い夢でも見たのね?」と、デイジーの温かい指先が額に触れた。
ジャックはその指先の温かさで、ハッとする。
デイジーは「可哀想に」と同情を浮かべながら、汗でピタリと張り付いた息子の前髪を整えた。
「それにしては、尋常じゃない叫びだったろう。まるで、誰かに襲われた様な叫びだったじゃないか」
ジェイソンがデイジーの意見に反論し、動揺するばかりの息子を真剣に射抜く。
ジャックはその眼差しから、ストンと目を落として答えた。
「ピエロに、襲われたんだ」
「ハァッ? ! ピエロに襲われた、だと? !」
息子の告白に、ジェイソンは怪訝に繰り返し「どういう事だ?」と、ぐにゃりと顔を歪める。
すると「そう言う悪夢を見たのよ」と、デイジーがジャックの言葉を継いだ。
「そうよね?」
ジャックは母からの確認に、唇を横にキュッと結ぶ。
悪夢だった、そう結論づけたいが。アレが悪夢だとしたら、俺はいつから眠ってしまっていたのだろう。
眠ったつもりは、一切なかった。
いつから、俺は現実から離れ、あの悪夢の中に居たのだろう?
横に結ばれる唇が、じわじわと内側に巻かれ、ギュッと歯に押し潰され始めた。
……やはり、俺だけがおかしいって事なのか?
今までの全て、俺が作り上げた幻覚で、俺の認識が歪んでいただけの世界だったのか?
ジャックは自分の中に宿り、精神を蝕む狂気に、ゾッと総毛立った。
その時だった。
ジャックの視界にある物が映り込み、戦慄が走る。
揺れている……!
ジャックはゴクリと唾を飲み、「よっぽど悪い夢だったのか」「えぇ、きっとそうに違いないわよ」と会話を続ける両親の先をジッと見つめた。
キイッと、小さく揺らいでいる。
僅かに隙間を開けた、クローゼットの片側が。
ジャックはゴクリと息を呑んだ。
「アレは、夢じゃなかった」
ボソリと恐ろしい真実を吐き出す。
刹那、ドクンと心臓が跳ねた。いや、全身に一気にぐわっと送り込まれたのだ。
自分の内側にあるはずのない、悍ましい冷たさが。
ジャックはヒュッと息を呑み、胸元をバッと押さえた。
すると、あの「最後」が鮮明に伝ってくる……ドクン、ドクンッと一定のリズムを刻む心拍を感じ取るよりも前に。
嗚呼、そうか。ヴァイニーは存在していた。
いや、しているんだ。
今、ここに……!
ジャックの口腔内に、莫大な絶望が生まれた。
それはゴクリと流れていくが。ただ領土を広げるだけで、サラリと流れる事もなく、じゅっと消える事もなかった。
・・・
さて、ここで椿野小話です😳
ヴァイニーとは、映画・死霊館シリーズでお馴染みのヴァラクと言う悪魔と、スティーヴンキングの「it」のペニーワイズの文字をバラして組み合わせた、いつもの言葉遊びなのですが。待って、『ヴァイニー』なら「無駄な」「口先だけの」と言う意味を持つvainと言う単語が掠ってるやんか!😳と思いつき、それにしよ!と、一人興奮した思いのある名前なのですw
そして前話の話が、今作における、私の一番のお気に入り話なので、皆様が気に入ってくださったらめちゃ嬉しいです(´∀`*)あの場面、描くのが本当に本当に楽しかったのでww
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