5話 You love sex,don’t you?

 ……ん? 

 何だ? 何か、突然、気持ち良くなったぞ?


 自分を掴んで離さない暗闇の感触が、唐突に変わり始めた。

 べたりべたり、ぐちゃりぐちゃりと気持ち悪さが拭えない感触のものだったが。突然肌や健康に良い効能を持ち始めたかの様に、気持ち悪さがスーッと薄れていく。

 そればかりか、高揚を覚える程の快感が、じわじわと突き上がっていた。


 何だろうか、この気持ち良さは。

 感触と言う感覚が戻って来たジャックに、次は聴覚がピタと戻る。

 掠れ気味の「ん」と言う、単語にもならない一言ばかりが鼓膜を震わせた。


 パーッと塗り替えられていく快感、訳の分からない声。

 ジャックの理解が、今の自分の状況を把握しようと、閉ざしている瞼をゆっくりと押し上げた。


 暗闇が切り開かれていく。

 ぼやぁと朧気に現れる外の世界。

 だが、すぐに目を構築するそれぞれの部分が働き、明朗な世界をジャックに届けた。


 その為にジャックはハッと大きく息を呑み、しっかりと眼前に映る光景に青ざめ始める。


 ケバケバしい化粧を施した女の快楽に惚けた顔。自分の身体の上で豊満な裸体を見せつけるばかりか、緩慢な動きで上下に艶めかしく躍り狂う姿。

「ど、どうして」

 突然の出来事に、ジャックはひどく狼狽した。


 すると「んぅ」と甘ったるい嬌声を零す女の視線が、ワナワナと震える瞳とパチリと重なる。

「あぁ、やっと起きたぁ?」

 量間違えちゃったわねぇ、ごめんねぇ。と、女は艶めかしく喘ぎながらコロコロと笑った。


「な、何の話、だ……?」

 本能が、ジャックの声帯をか細く震わせた。(真っ白と化したジャックの世界の中で、本能だけは唯一動けたのである。まぁ、それも辛うじてと言うものだが……)


「んっ、んっと。あのねぇ。ちょおっと、お薬の量が多かったの……よ!」

 女が艶然と答えると同時に、温かく包まれる性器にぎゅむぅっと刺激が走る。


 狼狽よりも、快楽の刺激が前に踊り出し、ジャックの顔が「うっ」と歪んだ。

 ドッと一気に脱力感が襲ってくる。強張っていた筋肉が、だるんっと一気に弛緩していく。

 そして女も恍惚とした表情で、パタンとジャックの上裸に倒れた。

 痛んでパサついた髪の毛に皮膚を艶やかに撫でられるばかりか、豊満な胸の柔らかさをストレートに感じる。


 ジャックはゴクッと息を呑んで、快楽に沈みかかる自分を流し込んだ。

「や、辞めろ!」

 頓狂な叫びを張り上げ、女を横倒しする様にして、慌ててそこから逃れる。


 突然グッと荒々しく突き飛ばされた女は「キャッ」と小さく悲鳴を零したが。ジャックは彼女を慮る事なく、急いで自分の服を探しに立った。


 服はすぐに見つかった。女の服と一緒に、生々しく脱ぎ散らかされた自分の服を手に取り、ジャックは急いで着始める。


 な、なんでこんな事になっているんだ? どうして、俺はこんな女とヤッていたんだ?

 ……いや。違う、そうじゃない。

 そこじゃない。


 俺の「今」は、どうなっているんだよ。

 クラウンが創り出す狂気的な世界から、戻って来られたのか?

 一体、いつ、どうやって……?


 困惑に富んだ疑問ばかりが脳内を駆ける。

「……俺は、どうなってんだよ」

 膨大な疑問に耐えきれず、ジャックの口から疑問が苦しげに零れた。


 すると、背後から「ほら、やっぱりねぇ」と、からかい混じりの明るい声が飛ぶ。

「お薬の量が多すぎたんだわぁ」

 だからそんなに錯乱しているのよぉ。と、女は謳う様に言った。


 そうに違いないと言わんばかりの言葉に、カチャカチャとベルトを慌てて締めていたジャックの手が止まった。


 ジャックはゆらりとそちらを向く。

 女はたわわな上半身を見せつけたまま「錯乱中だから、状況を教えてあげた方が良いわよねぇ?」と、ニヤリと尋ねた。


 ジャックは視線を彼女の顔だけに固定し、他を一切排斥する。

 その視線からぶつけられる「言え」と言う命令に、女は「簡単な話よぉ」と、にやついた笑みを更に広げた。


「バーで飲んでいた貴方がねぇ、すっごく好みだったからさぁ。近づいてぇ、お酒にお薬を入れたのぉ。そんでハイになりそうな貴方をすぐタクシーでホテルに連れて行ってぇ、ハイになった貴方とヤリまくっていたって訳ぇ」

 もう何十回もしたわよぉ。と、嬉しそうに紡ぐ女。

 その一方で、ジャックはドンドンと窮地に追いやられ、真っ青になっていく。


 バーで飲んでいた、だって? 

 そんなはずはない!


 心の中で地団駄を踏み、張り叫ぶと同時に、ジャックの脳裏に鮮明に蘇った。

 ドロドロと瓦解し、自分を沈み込ませるクラウンの凄絶な世界を。


 ジャックはぶんぶんと首を振り、奥底から蘇ってきた恐怖を振り切った。


 今は、そんな恐ろしい世界じゃない。

 ジャックは震えるばかりの自分を宥める様に叱咤し、一つの現実こたえを混乱する頭に落とし込んだ。

 ドクンと、心臓が重々しい拍を打つ。


 ……つまり、俺は、。のか?

 ジャックはゴクリと唾を飲み込んだ。熱い唾が、喉をじゅわじゅわと焼きながら下っていく。


 ……いや、違う。普通じゃない。

 この世界は、俺の知る「普通」の世界じゃない。

 一つの事実のみが浮かぶ空白に、また一つ、ジャックは真実を填めようとした。


「まだ、俺はクラウンの世界に居るんだ」と。

 その時だった。


「貴方が思っている事、ぜぇんぶ間違っているわよぉ」

 朗らかながらも、力強い一蹴が飛ぶ。

・・・

 少しとは言え、急なR18展開……驚きましたよね、ある意味ゾッとしますよね……私はゾッとしました。なので、ここはソッとしておいてください……👼

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